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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 お菓子の切手:北欧のクリスマスシーズンに現れる“幸運の豚”
2021-12-18 Sat 07:06
 大手製菓メーカー(株)ロッテのウェブマガジン『Shall we Lotte(シャル ウィ ロッテ)』での僕の連載、「お菓子の切手」の最新記事がアップされました。今回は、クリスマス・シーズンなので、こんな切手を取り上げています。(画像はクリックで拡大されます)

      スウェーデン・クリスマス(2014・豚)

 一般にクリスマスは、“キリストの降誕を祝う祭り(の日)”とされていますが、実際にはイエス・キリストの誕生日については全く記録が残されていません。このため、西暦325年5月、キリスト教会の総会議として開かれた第1ニカイア公会議において、古代共和制ローマ時代のローマ暦で冬至の日(=古代ローマの宗教の一つ、ミトラ教では“不滅の太陽が生まれる日”)に指定されていた12月25日を“降誕を祝う日”としたのが始まりです。

 北欧諸国の言葉でクリスマスを意味する“ユール”は、もともとはキリスト教が定着する以前の北欧での冬至の日のことで、以後、昼の時間が長くなっていく、つまり、太陽が再び力強い生命を持つようになることから、人々はこの日を新年とし、北欧神話の神、オーディンにビールや猪や豚などを捧げていました。

 その名残から、現在でもバルト海に面した北ドイツのクリスマス料理は七面鳥ではなく豚肉が中心で、スウェーデンでも、かつては自分の家で育てた豚を屠って丸焼きにするのが習わしでした。現在では、一般家庭で豚を飼育するのは難しいことから、豚肉の塊をオリーブ油と香辛料で長時間煮たハムを蒸し焼きにした“ユールシンカ”が欠かせない料理となっており、クリスマスが近づくと町のいたるところに豚の飾りが現れます。ちなみに、ノルウェーやフィンランドでも、クリスマスのごちそうは豚肉料理が主役です。

 ところで、北欧では、冬至の日には死者の霊や悪魔などが大挙して現れると言われ、彼らのために、豚肉料理をメインに置いて、サーモンの塩漬け、ミートボール、ニシンの酢漬けなどのクリスマス料理を並べた“ユールボード”を1月6日の公現節(東方の三博士のキリスト礼拝を記念する日)までお供えする習慣があり、ユールボードを用意しないのは縁起が悪いとされています。

 とはいえ、現在と比べて、かつて豚肉はかなり高価な食材でしたから、生活に余裕がなく、豚肉を用意できない人も少なくありませんでした。そこで、リアルな豚肉の代わりに、豚をかたどったマジパンのお菓子が作られるようになります。

 マジパン(マルチパンとも)は粉末に挽いたアーモンドと砂糖、卵白などを混ぜてペースト状にかためたお菓子ですが、古代ギリシャの人々がアーモンドと蜂蜜で作っていたデザートがその原型とみられています。バグダード(バグダッド)を中心に繁栄を極めたイスラム王朝、アッバース朝の治世下の10世紀には、アーモンドを挽いてシロップに加えて煮詰め、色々な形に成形した“ロージナージュ・ヤビース”という菓子についての記録があり、これがヨーロッパに伝来しました。1407年に北ドイツのリューベックで飢饉が起きた際には、市の参事会が、市の倉庫にあったアーモンドを使って何か食べるものを作って欲しいとパン職人に依頼して作らせたのが、現在のマジパンの直接の起源のひとつとされています。

 2014年にスウェーデンが発行したクリスマス切手の1枚には、スウェーデンを代表するクリスマス菓子の一つ、マジパンで作られた豚が取り上げられました。

 切手には額面数字の代わりに“JULPOST(ユールポスト)”との表示がありますが、これは“国内宛のクリスマス・メール”の意味です。スウェーデンでは、一定の期間に差し出されたクリスマス・メール(重さ50gまで)に関しては、通常料金より50オーレ(スウェーデンの通貨、スウェーデン・クローナの補助単位で、1クローナ=100オーレ)の割引料金が設定されています。ちなみに、この切手が発行された2014年の時点でのスウェーデンの郵便料金は14クローナでしたから、この切手は13クローナ50オーレで販売されたことになります。

 切手は目打ち状の型抜きをしたシール式ですが、偽造防止のため、切手の中央にはスウェーデン郵政の紋章の形の型押しがあります。

 北ドイツを含む北欧地域では、クリスマスの豚は“幸運の豚”とも呼ばれており、一部では季節のあいさつで豚をかたどったものを贈りあう習慣もあるのだとか。クリスマス・カードを送る切手のデザインとしては、まさにぴったりの1枚ですね。


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