2021-11-14 Sun 01:06
ご報告がすっかり遅くなりましたが、『本のメルマガ』第802号が配信されました。僕の連載、「沖縄切手モノ語り」は、今回はこの切手について取り上げました。(画像はクリックで拡大されます。)
これは、1958年9月16日、B円から米ドルへの通貨切り替えに伴い発行されたドル表示数字切手のうちの1ドル切手です。 1952年のサンフランシスコ講和条約発効に伴い、沖縄は戦時体制から平時の体制に移行したため、それまで米軍が占有していた土地を引き続き使用するためには、そして、新たな用地を拡大するためには法的な根拠が必要になりました。また、当然のことながら、軍用地の地主は地代支払いを要求するようになります。 そこで、琉球列島米国民政府(USCAR)は、1954年3月、米軍の軍用地料を10年分1括で支払うとの方針を示しましたが、立法院はこれに反対。1954年4月30日、以下のような「土地を守る四原則」を決議します。 ①一括払い反対:米国の軍用地買い上げ、または永久使用、借地料の一括支払いは行わないこと。 ②適正補償:使用中の軍用地は、住民の要求する相応の金額で、一年ごとに支払うこと。 ③損害賠償:米軍による一切の損害は、住民の要求する適正な賠償額で支払うこと。 ④新規接収反対:米軍が収用している土地で使用していない分は出来るだけ早く返還し、新たな土地の収用は絶対にしないこと。 この決議を受けて、行政府・立法院・市町村会・土地連合会による四者協議会が組織され、6名の代表が米本国政府との直接交渉を開始しました。 これに対して、同年10月、米下院軍事委員会はM.プライスを委員長とする調査団を沖縄に派遣。1956年、調査団は議会に対して「プライス勧告」を提出。勧告は、沖縄の祖国復帰については一言も触れず、米国による沖縄統治の経緯と現状をのべ、米軍が今後も長期にわたって沖縄を統治することの利点を挙げたうえで、土地問題に関しては以下の骨子が6月7日に発表されます。 ・土地料の値上げを認める ・不要の土地は返還する ・軍用地は絶対所有権を確保して、土地代は一括払いとする ・新規接収は最小限にとどめる 米国側としては、提案は沖縄側に大幅に譲歩したものという認識でしたが、沖縄の世論は“一括払い方式”が明記されていたことに強く反発し、6月7日、立法院は緊急本会議を開催して「四原則貫徹」を決し、日本国政府にも断固たる態度を要求しました。 その後、6月20日にプライス勧告全文が発表されると、沖縄の全64市町村のうち56で市町村住民大会が開かれ、土地をめぐる“島ぐるみ”の闘争が開始されます。その過程で、7月28日、那覇高校グラウンドで開催された「四原則貫徹県民大会」には約15万人が集まったそうです。 これに対して、米軍は、中部地域に軍関係者の民間地域への無期限立ち入り禁止(オフ・リミッツ)措置を行いましたが、これは米軍人を顧客とする事業にとっては事実上の経済封鎖となり、沖縄側も一定の譲歩を余儀なくされました。 結局、1958年4月12日、ジェームス・E・ムーア高等弁務官は一括払い中止を公表し、同年、土地使用料は大幅に値上げされます。その一方で、新規接収は黙認され、損害賠償は未解決のまま、土地使用料は原則毎年払いとされました。そして、同年12月末、立法院は関係法案を可決し、土地問題はとりあえず決着しました。 この間、1958年1月に琉球列島高等弁務官として着任したドナルド・ブースは、一連の経緯を踏まえて、沖縄経済をある程度成長させることで、住民の反米感情を和らげようと考え、同年8月23日、それまで沖縄で流通していたB円を米ドルに切り替えるとの命令を発します。沖縄の経済発展のためには外国資本を積極的に導入して、雇用創出と新しい技術知識の導入を図ることが必要であり、国際基準通貨であるドルへの移行することで外資導入が促進されるという発想です。 ドル通貨制については米国による支配の強化につながるとの理由から、沖縄内でも反対の世論が少なくなからずありましたが、米軍はこれを無視して、9月15日からのドル通貨制への意向を決定します。 これを受けて郵政当局も切り替えのための作業に忙殺され、急遽、那覇の旭堂印刷所で、1/2、1、2、3、4、5、10、25、50セントおよび1ドルの額面数字のみを表示した簡易な切手(ドル数字切手)が製造されました。今回ご紹介の切手は、そのうちの1ドル切手です。 当初、通貨切り替えは9月15日の予定でしたが、台風により1日おくれの16日に実施され、1ドル=120B円のレートで20日まで、通貨の交換が行われます。 ドル数字切手は、通貨切り替え初日の9月16日に発行されましたが、B円時代の切手も同月20日までは有効とされ、30日まで郵便局の窓口でドル数字切手と上記レートで交換されました。新旧通貨の切手の交換は9月末で一旦停止されましたが、すでに販売済みで公衆手持ち分のB円切手も少なからずあったため、11月5日から29日まで、あらためて交換が行われています。 ★ 放送出演・講演・講座などのご案内★ 11月15日(月) 05:00~ おはよう寺ちゃん 文化放送の「おはよう寺ちゃん」に内藤がコメンテーターとして出演の予定です。番組は早朝5時から9時までの長時間放送ですが、僕の出番は07:48からになります。皆様、よろしくお願いします。 武蔵野大学のWeb講座 2021年12月1日~2022年2月8日 「日本の歴史を学びなおす― 近現代編その1 ― 黒船来航」 12月1日から2月8日まで、計7.5時間(30分×15回)の講座です、お申し込みなどの詳細は、こちらをご覧ください。 ★ 『切手でたどる郵便創業150年の歴史 vol.2 戦後編』 11月20日刊行! ★ 2530円(本体2300円+税) 明治4年3月1日(1871年4月20日)にわが国の近代郵便が創業され、日本最初の切手が発行されて以来、150年間の歴史を豊富な図版とともにたどる3巻シリーズの第2巻。まずは、1945年の第二次大戦終戦までの時代を扱った第1巻に続き、第二次大戦後の1946年から昭和末の1989年までを扱っています。なお、2022年3月刊行予定の第3巻では平成以降の時代を取り扱う予定です。 * ご予約・ご注文は版元ドットコムへ。同サイトでは、本書の目次をご覧いただけるほか、アマゾン他、各ネット書店での注文ページにリンクしています。また、主要書店の店頭在庫も確認できます。 |
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