2021-04-29 Thu 04:00
きょう(29日)は“昭和の日”です。というわけで、きょうはこの切手を持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)
これは、1937年4月1日に発行された“昭和毛紙”の富士鹿20錢切手です。 1935年7月13日、逓信省は、1912年以来使われてきた田沢型切手がオールドファッションになっていたことを踏まえ、1936年度中をめどに普通切手の図案改正を省議決定。その際、図案の選定に関しては、「社寺、風景、國寶トシテ指定ノ名畫及ビ建造物、我國特有品又ハ歴史上著名ノ人物ヨリ選擇スルコト」との方針が確定されました。 これを受けて、逓信博物館は調査を開始しましたが、図案の考証などの準備に予想外の時間がかかり、新普通切手の具体的な題材決定を行うための“改正郵便切手圖案審査委員会”が発足したのは、昭和11年度末の1937年3月11日のことで、委員会の第1回会合が開かれた時には3月27日になっていました。 ところで、委員会発足直後の1937年4月1日 1899年以来38年ぶりの郵便料金が改正され、書状基本料金が3銭から4銭に、葉書料金が1銭5厘から2銭に値上げされます。新図案の普通切手は必ずしも郵便料金の値上げと連動する必要はありませんが、やはり、郵便料金前納の証紙という切手の本質を考えた場合、新切手は新料金に対応したものを発行するのが好ましいのは当然です。 とはいえ、図案改正委員会の発足からまだ日も浅く、実際に新図案の普通切手を発行するまでには相当の時間が必要なことから、とりあえず、逓信省としては、従来からの田沢型・富士鹿・風景・新高額の各普通切手の図案を流用するなどして、急場をしのぐことになりました。 このうち、外信用の4銭(印刷物)と20銭(書状)については富士鹿切手の、10銭(葉書)は風景切手の実用版をそのまま使い、万国郵便連合の規定に沿ったUPU色に改色して、従来からの大正毛紙(偽造防止のため。着色繊維をすき込んだ用紙)に印刷した“昭和毛紙”の切手が、料金改正初日の4月1日に発行されています。 富士鹿切手は、日本の象徴としての富士山と鹿を組み合わせたデザインの切手です。 鹿は、漢籍では、祖霊の使者とされてきた。特に、詩経の「鹿鳴之什」は、各章首二句が「呦呦鹿鳴、食野之苹」「呦呦鹿鳴、食野之蒿」「呦呦鹿鳴、食野之芩」となっており、呦呦(ゆうゆう)と鹿が鳴き草(苹、蒿、芩)を食むさまを謡うことで祖霊が一族のもとに降臨したことを示し、それを受けて、祖霊に供物を捧げ、音楽を演奏するなど、一族の歓待の意が表現されています。ここから、“鹿鳴”には賓客をもてなす意味が生まれ、明治の“鹿鳴館”の由来にもなりました。 ちなみに、この辺りの事情については、拙著『切手でたどる郵便創業150年の歴史 vol.1 戦前編』でもまとめておりますので、機会がありましたら、ぜひお手に取ってご覧いただけると幸いです。 ★ 放送出演・講演・講座などのご案内★ 5月3日(月) 05:00~ 文化放送の「おはよう寺ちゃん」に内藤がコメンテーターとして出演の予定です。番組は早朝5時から9時までの長時間放送ですが、僕の出番は07:48からになります。皆様、よろしくお願いします。 5月15日(土)~ 武蔵野大学の生涯学習講座 5月15日、22日、6月5日、19日、7月3日、17日の6回、下記のふたつの講座でお話しします。 13:00~14:30 「日本の郵便150年の歴史 その1 ―“大日本帝国”時代の郵便事情―」 15:15~16:45 「東京五輪と切手ブームの時代 ―戦後昭和社会史の一断面―」 対面授業、オンラインのライブ配信、タイム・フリーのウェブ配信の3通りの形式での受講が可能です。お申し込みを含め、詳細については、こちらをクリックしてご覧ください。 ★ 『切手でたどる郵便創業150年の歴史 vol.1 戦前編』 好評発売中! ★ 2530円(本体2300円+税) 明治4年3月1日(1871年4月20日)にわが国の近代郵便が創業され、日本最初の切手が発行されて以来、150年間の歴史を豊富な図版とともにたどる3巻シリーズの第1巻。まずは、1945年の第二次大戦終戦までの時代を扱いました。今後、2021年11月刊行予定の第2巻では昭和時代(戦後)を、2022年3月刊行予定の第3巻では平成以降の時代を取り扱う予定です。 ご注文は版元ドットコムへ。同サイトでは、本書の目次をご覧いただけるほか、アマゾン他、各ネット書店での注文ページにリンクしています。また、主要書店の店頭在庫も確認できます。 |
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