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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 照ノ富士が大関返り咲き
2021-04-01 Thu 05:33
 日本相撲協会は、きのう(31日)、春場所で3度目の優勝を飾った関脇照ノ富士の大関昇進を全会一致で承認しました。平幕以下に落ちて大関に返り咲くのは、1977年初場所後に昇進した魁傑以来2人目、十両以下に落ちて大関に復帰するのは史上初の快挙です。というわけで、“奇跡の復活”にちなんで、こんな切手を持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)

      モンゴル・バンコク展(2013)

 これは、2013年8月2日、タイのバンコクで開催された世界切手展<Thailand 2013>に際してモンゴルが発行した記念切手で、1999年に発行された開眼観音の切手に切手展のロゴと、旧額面(1000トゥグルグ)を抹消して新額面(1500トゥグルグ)に変更する加刷が施されています。

 ガンダン寺の名で知られるガンダン・テクチェンリン僧院は、チベット・モンゴル仏教の総本山として1838年に第5代活仏のボグド・ジェブツンダンバによってウランバートルの高台に建立されました。

 ガンダン寺の開眼観音は、もともと、ボグド・ハーンとして知られる第8代活仏が1914年に盲目となった際、その治癒を祈って建立されました。当時の像は、約20トンの銅、45キロの金、56キロの銀、500個の宝石が使われ、高さ28メートル。世界最大の仏像とたたえられ、内部にはおびただしい数の経典が収められていました。

 ところで、ボグド・ハーンは、1911年の辛亥革命を機にモンゴルが清朝から独立宣言した際、モンゴル諸侯に推戴されてモンゴルの皇帝(ハーン)として即位したことに伴う尊称で、それ以前の彼は“聖人様”を意味するボグド・ゲゲーンの称号で呼ばれていました。

 しかし、モンゴルの独立を認めない中華民国は、1919年、モンゴルに侵攻。ボグド・ハーンを退位させ、私邸に軟禁します。これに対して、1921年、ソ連赤軍の支援を受けたモンゴル人民党(後にモンゴル人民革命党)のダムディン・スフバートルによる独立闘争の結果、モンゴルが再独立すると、ボグド・ハーンは推戴されて皇帝に復位。ただし、再独立後の政府の実権はスフバートルらが掌握しており、ボグド・ハーンの権限は以前に比べて大幅に制限されました。

 1924年4月、ボグド・ハーンが亡くなると、コミンテルンの指導を受けたモンゴル人民革命党は、同党による一党独裁の社会主義国を宣言。同年11月26日、ソ連の衛星国としてのモンゴル人民共和国が誕生し、活仏の転生も否定されてしまいました。これに対して、1939年、やはり中国からの独立を宣言していたチベット政府は、1932年生まれのジャンペルナムドゥル・チューキゲンツェンを第9代活仏として認定。モンゴルの社会主義政権はこれを頑なに否定していましたが、社会主義政権崩壊後の1990年、当時のオチルバト大統領からの照会に対し、チベット亡命政府のダライ・ラマ14世が改めてジェプツンダンパ9世として認定し、モンゴルの活仏は復活しました。

 さて、社会主義政権下のモンゴルでは仏教寺院の大弾圧が進められました。ガンダン寺も1937-38年にかけて観音堂などが破壊され、観音像は、1938年10月、ソ連赤軍第17連隊によって倒され、レニングラードに持ち去られてしまい、その後、行方不明となりました。なお、ガンダン寺の宗教活動は、1944年に再開を許されたものの、社会主義政権の崩壊まで、厳しい管理下に置かれていました。

 切手に取り上げられた観音像は、社会主義政権崩壊後の1990年に再建が企画され、1996年に完成したもので、エルデネト鉱山で採掘された銅に金メッキが施されており、モンゴル独立の象徴となっています。

 なお、モンゴルの仏像切手については、拙著『切手が伝える仏像:意匠と歴史』でもいろいろ解説しておりますので、機会がありましたら、ぜひ、ご覧いただけると幸いです。


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