2021-03-30 Tue 09:55
今月23日に大型コンテナ船“エバーギブン”の座礁で航行不能になっていたスエズ運河で、きのう(29日)、エバーギブンの離礁が成功し、現地時間の同日夕方(日本時間30日未明)、運河の通航が再開しました。ただし、再開時点で運河内や両端で足止めされた船は422隻にのぼっており、それらが通過し終えて通行が正常化されるまでには、3日から3日半かかるそうです。というわけで、きょうはこの切手です。(画像はクリックで拡大されます)
これは、1975年にエジプトが発行した“スエズ運河再開”の記念切手で、スエズ運河地帯の地図と運河を航行する大型船(船体には“平和”の文字)、サダト大統領が描かれています。 第三次中東戦争(1967年)の敗戦により、シナイ半島がイスラエルに占領されると、エジプトにとってはその奪還が国家としての最重要課題となりました。 1970年にナセルの死を受けて政権を継承したサダトは、それぞれの思惑から中東に関与しているだけの米ソ両国に任せていてもシナイ半島の奪還は無理であると喝破し、武力による自力奪還以外に、エジプトの採るべき現実的な選択はないという結論に到達。こうした判断にもとづき、シリア大統領ハフィズ・アサドとも連携をとりながら、対イスラエル戦争のプランを練り始めます。 戦争計画の策定にあたっては、戦争の長期化は絶対に避けるとの前提の下、イスラエルに軍事的な大打撃を与えることで、大国による和平の仲介を引き出すという基本方針が確認されました。このため、戦争計画は、緒戦の電撃的な侵攻作戦に重点が置かれ、スエズ運河の潮流や月齢などを考慮した結果、ユダヤ教の贖罪日(ヨム・キップール)でイスラエル軍の態勢が手薄になる1973年10月6日が開戦予定日として設定されます。 かくして、1973年10月6日、エジプト・シリア連合軍が奇襲攻撃を開始し、第四次中東戦争が勃発します。 開戦当初の3日間、エジプト軍はイスラエルに対する大規模攻撃を展開し、スエズ運河を渡河して、イスラエルの航空機50機と戦車550両を撃破するという華々しい戦果を挙げました。このうち、スエズ運河渡河作戦の成功は、イスラエルに対するアラブ最初の勝利として大々的に喧伝され、サダトは「渡河作戦の最高指揮官=イスラエル軍不敗神話を破ったアラブの英雄」として、その権威は絶大なものとなります。 もっとも、エジプト軍の優勢は長続きせず、10月16日にはイスラエル軍がスエズ運河の逆渡河に成功してエジプト領内に進攻し、形勢は逆転。ここで、米ソが調停に乗り出し、10月22日の国連安保理において関係諸国に対する停戦決議(決議第338号)が採択され、第4次中東戦争は終結しました。 ところで、第四次中東戦争の過程で、エジプトはイスラエルのスエズ逆渡河を防ぐため、スエズ運河に機雷を撒いていました。このため、停戦後も一般の船舶は運河を航行できない状態が続いていましたが、1974年5月から12月にかけて、米国の強襲揚陸艦“イオー・ジマ”が掃海作業および不発弾撤去作戦を実行。これにより、湖沼部を含む運河にあった機雷の99%が除去され、1975年6月、運河の通行が再開されました。今回ご紹介の切手は、これに合わせて発行されたものです。 なお、第四次中東戦争とエジプトについては、拙著『パレスチナ近現代史 岩のドームの郵便学』でもまとめておりますので、機会がありましたら、ぜひお手に取ってご覧いただけると幸いです。 * 昨日(29日)の文化放送「おはよう寺ちゃん」の僕の出番は、無事、終了いたしました。リスナーの皆様には、この場をお借りして御礼申し上げます。次回は来週月曜日・5日に登場の予定です。引き続きよろしくお付き合いください。 ★ 文化放送「おはよう寺ちゃん」 出演します!★ 4月5日(月)05:00~ 文化放送の「おはよう寺ちゃん 活動中」に内藤がコメンテーターとして出演の予定です。番組は早朝5時から9時までの長時間放送ですが、僕の出番は07:48からになります。皆様、よろしくお願いします。 ★★ 内藤陽介の最新刊 『世界はいつでも不安定』 ★★ 本体1400円+税 出版社からのコメント 教えて内藤先生。 地上波では絶対に伝えられない国際情勢の事実をユーモアを交えて解説! チャンネルくらら人気番組「内藤陽介の世界を読む」が完全書籍化! 版元特設サイトはこちら。また、ご注文は版元ドットコムへ。同サイトでは、本書の目次をご覧いただけるほか、アマゾン他、各ネット書店での注文ページにリンクしています。また、主要書店の店頭在庫も確認できます。 |
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