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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 切手歳時記:羽衣
2021-03-29 Mon 00:47
 ご報告が遅くなりましたが、公益財団法人・通信文化協会の雑誌『通信文化』2021年3月号が発行されました。僕の連載「切手歳時記」は、今回は、春の話題ということで、こんな切手を取り上げています。(画像はクリックで拡大されます) 

      古典芸能・羽衣

 これは、1972年9月20日に発行された古典芸能シリーズ第4集(能)のうち、旧暦3月、駿河の三保浦を舞台にした「羽衣」を取り上げた1枚です。

 海に漕ぎ出していた漁師の白龍たちが三保の松原に戻ってくると、空から花が降り、芳香とともに妙なる調べが聞こえてきます。白龍たちがいったい何事かと周囲を見まわすと、松の枝に美しい羽衣がかかっていました。

 白龍がその衣を持ち帰ろうとすると、天女が現れて声をかけ、その羽衣は自分のものだから返して欲しいと頼んできます。白龍は、天界のものなら、なおさら地上に留めて国の宝にすべきと主張し、立ち去ろうとしましたが、「それがないと、天に帰れない」と悲しむ天女の姿に同情し、舞を見せてもらえば衣を返すと約束します。

 その過程で、白龍は、羽衣を返してしまったら、天女は舞を舞わずに天に帰るのではないかと疑いましたが、「いえ、他者を疑うのは人間界のみのことで、天上界では嘘をつくということはありません」と天女が応じたため、根は正直者の白龍は深く恥じ入り、衣を返しました。

 その後、天女は駿河舞(東国の風俗舞)の元になった舞を舞いながら、三保の松原の美しさを讃えて「君が代は天の羽衣まれに来て撫づとも尽きぬ巌ならなむ」と歌い、国の繁栄を祈念し、天空の霞の中に姿を消していきました。

 天女が口にした「君が代は天の羽衣まれに来て撫づとも尽きぬ巌ならなむ」は、もとは『拾遺和歌集』に収められていた詠み人しらずの歌で、大意は天人が稀に地上に降りてきて、その軽い羽衣で大岩を撫でるとしても、大岩はつきることがない。 そのように、あなたの寿命も長く久しくあってほしい」というくらいになりましょうか。仏教では、世界の中心に位置する須弥山には四十里四方の大きな岩があって、その上に百年に一度天人が舞い降りて来て、羽衣でひと撫でして天に昇っていくとされています。その繰り返しで岩がすり減ってなくなるまでの時間が劫で、この歌もそれを踏まえたものです。

 いわゆる羽衣伝説は洋の東西を問わず、各国に類似の話が伝わっており、わが国でも古くは各地の風土記に記述がみられます。能の「羽衣」は、その中の『駿河国風土記逸文』の内容に最も近いとされていますが、各風土記の羽衣伝説では、天女は漁師と夫婦になったり、老夫婦の子どもになったり、しばらく地上に留まっていたりして、天女がすぐに羽衣を取り返して舞を舞うという記述はありません。

 能の「羽衣」で天女役のシテが着ける增女の面は、世阿弥と同時代、足利義満・義持の時代の田楽能の名手、增阿弥が妻をモデルに作ったのが最初とされています。

 增女の面は節のある檜を使って作られたが、その結果、鼻の左側のつけねから脂がにじみ出てうす青いシミができた。通常なら、シミの部分は塗りなおすのだが、增阿弥はあえてそのままにし、“節木增”の面として用いました。その結果、增女は、若い女の面でありながら、小面(可憐で優しい純真な美女)や若女(小面よりやや年上の端麗な美女)のような明るさや愛らしさとは無縁で、よく言えばクールビューティー、悪く言えば、淡麗ではあるが、近寄りがたい相貌となりました。

 いかな美女であろうとも、不愛想な增女と暮らすのは、ちょっと気づまりでしょうね。白龍が素直に羽衣を天女に返したのも、案外、羽衣を返さずに彼女を妻として生活を共にした時のことを想像したら、腰が引けてしまったというのが正直な本音だったのかもしれません。


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