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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 死海文書、65年ぶりの新発見
2021-03-17 Wed 02:16
 イスラエル古代遺跡管理局は、きのう(16日)までに、約2000年前に書かれた聖書の原型ともいえる“死海文書”について、65年ぶりに新たな断片が発見されたと発表しました。というわけで、きょうはこの切手です。(画像はクリックで拡大されます)

      ヨルダン・死海文書(1965)

 これは、1965年にヨルダンが発行した死海文書の切手です。

 死海文書は、1947年以降、ヨルダン川西岸の死海北西にあるクムラン洞窟などで発見された写本群の総称で、ヘブライ語聖書(旧約聖書)と聖書関連の文書がその中心です。

 1947年初(1946年末という説もあります)、ベドウィンのターミレ族の羊飼いだったムハンマドとその従兄弟は、ヒベルト・クムラン遺跡近くの洞窟(以下、クムラン洞窟。当時は英委任統治領パレスチナの領域内)の中で、古代の巻物の入った壷を発見。彼らは、最初に見つけた4点の写本をベツレヘムの靴職人で古物も扱っていたハリール・イスカンダル・シャヒーンの元に持ち込みます。自らもシリア正教徒だったハリールは、持ち込まれた写本を古代シリア語の文書と思い、当時、シリア正教会聖マルコ修道院の院長だったマー・サムエルに見せたところ、サムエルは、4点の写本を24パレスチナポンドで買い取りました。
 
 その後、ベドウィンたちは洞窟で見つけた3点の写本をハリールに売りましたが、ヘブライ大学の考古学教授だったエレアザル・スケーニクとベンヤミン・マザールはそのうわさを聞きつけ、1947年11月29日、ベツレヘムでハリールから写本の断片3点を買い取るとともに、残りの4点の写本をサムエルが所有していることを知ります。ちなみに、スケーニクらが写本を買ったまさにその日、国連でパレスチナ分割決議が採択され、パレスチナは本格的な内戦に突入していくことになります。

 1948年1月、スケーニクとマザールはサムエルと接触し、写本4点購入の交渉を行いましたが、話はまとまらなかったため、2月21日、トレヴァーはサムエルの写本を撮影。この間、サムエルから写本についての意見を求められたアメリカ・オリエント学研究所の研究者、ジョン・トレヴァーは、写本の書体や語法が、ナッシュ・パピルス(紀元前1世紀のモーセ五書の抜書きの断片)と酷似していることを指摘していました。

 こうした経緯で、同年4月、トレヴァーとスケーニクは「死海周辺で古代の写本発見」を発表します。当時、旧約聖書の最古の写本とされていた“レニングラード写本”は1008年に作成されたものだったてめ、死海文書はそれを約1000年さかのぼるものとして、注目を集めます。

 1948年5月15日、第一次中東戦争が勃発すると、サムエルはベイルート経由で米国に写本を持ち込み、米国各地の大学や博物館などに写本を売り込もうとしました。しかし、真贋が定かではないことに加え、仮に本物だった場合には、複数の国がその所有権を主張してトラブルになることが予想されたため、購入の意思を示す期間はありませんでした。

 そこで、サムエルは1954年6月1日付のウォール・ストリート・ジャーナル紙に写本売り出しの広告を出し、イスラエル政府の依頼を受けたマザールとスケーニクの息子イガエル・ヤディンが“匿名の購入者”として、25万米ドルで写本を購入。こうして、イスラエルは、最初の7点の写本を確保しました。

 これら7点の写本は、東エルサレム(当時はヨルダンの支配下)で米英仏の三国が共同で運営していたパレスティナ考古学博物館(現ロックフェラー博物館)に寄託されましたが、1961年、ヨルダンは、突如、死海文書はヨルダンの財産であると宣言。今回ご紹介の切手はこうした背景の下で発行されたもので、切手発行翌年の1966年には、ヨルダン政府は考古学博物館ごと接収し、国有化してしまいます。

 これに対して、イスラエルは1967年の第三次中東戦争で東エルサレムを占領し、死海文書を回収。死海文書は、エルサレムのイスラエル博物館内に建設された“聖書館”で保管されることになりました。

 今回、65年ぶりの新発見となった死海文書の写本は、エルサレム東方から死海へと下っていく途中のユダヤ砂漠にある“恐怖の洞窟”で発見されたもので、約2000年前に書かれた巻物の断片が約20点。その中には、旧約聖書「ゼカリヤ書」(部分)のギリシャ語写本も含まれています。

 ちなみに、死海文書が見つかった“ヨルダン川西岸”とその歴史については、拙著『パレスチナ現代史 岩のドームの郵便学』でも詳しくご説明しておりますので、機会がありましたら、ぜひお手に取ってご覧いただけると幸いです。


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