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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 香港からリンゴが消えた日
2020-08-11 Tue 02:09
 香港警察は、きのう(10日)、著名な民主活動家の周庭(英語名アグネス・チョウ)氏、民主派の香港紙「蘋果日報」などを発行するメディアグループの創業者、黎智英氏や同紙幹部らを香港国家安全維持法(国安法)違反容疑で逮捕しました。というわけで、抗議の意味を込めて、蘋果(リンゴ)が描かれた香港切手をご紹介します。(画像はクリックで拡大されます)

      香港・油麻地フルーツマーケット(2017)

 これは、2017年9月19日、香港で発行された“香港の繁華街”の切手のうち、油麻地果欄(油麻地フルーツマーケット)を取り上げた1枚で、男性が抱えている木箱にはリンゴもしっかり見えます。今年4月に発行された“兒童郵票 棋樂無窮”の切手では、当初案では黒い服の子供が描かれていたのに、黒シャツは民主派のデモ隊を連想させるとして、突如、別の色に変更されたことなどを考えると、今後、香港の切手ではリンゴを描くことも、「蘋果日報」を連想するとして、不可能になるかもしれません。

 さて、今回逮捕された黎氏の「蘋果日報」は、英領時代末期、1995年の創刊で、黎氏は「もしアダムとイヴがリンゴを口にしなかったら、世界に善悪はなくニュースも存在しなかっただろう」と紙名の由来を説明しています。

 香港では最初の全ページカラー印刷の新聞で、政治的には、1997年の“返還”以前から中国政府に対し激しい批判を加えてきただけでなく、“返還”後も西側メディアや香港民主派に近い論調を取ってきました。このため、中国大陸では「蘋果日報」は発行が禁止されているだけでなく、同紙のウェブサイトは中国国内からのアクセスが遮断され、中国国営メディアは黎氏を「香港を混乱させる反中分子の頭目」と名指しで批判してきました。また、2014年の雨傘運動の際には、明確に民主派を支持する姿勢をとったため、親中派による嫌がらせが相次ぎ、同社の本社ビルや黎氏宅へ火炎瓶が投げ込まれています。

 報道によると、黎氏の逮捕容疑は、外国勢力と結託して国家の安全に危害を及ぼすことを禁じる国安法29条の違反ということです。じっさい、2019年7月、黎氏は米国でペンス副大統領、ポンペオ国務長官らと面会し、香港民主派への支援を要請していますが、さすがに、昨年の黎氏の行動を今年7月に施行された国安法で摘発するのは無理がありますので、おそらく、表向きは別の理由が挙げられたのではないかと思います。

 一方、香港の民主派の女神とも称される周氏は、2019年8月、違法集会扇動罪などで逮捕され(のち釈放)、今月5日、有罪判決を言い渡されたばかりで、その量刑の宣告を12月に控えている中での逮捕となりましたが、この記事を書いている時点では、逮捕容疑の詳細は不明です。

 香港での国安法施行をめぐっては、今月7日、米国のトランプ政権が声明を出し、林鄭月娥行政長官をはじめ、香港政府や中国政府の高官など11人に対し、アメリカ国内の資産を凍結する制裁を科しましたが、これに対して、中国側も10日付で、米共和党議員のテッド・クルーズ、マルコ・ルビオ両氏を含む米国人11人を制裁を科すと発表。今回の周氏、黎氏らの逮捕がその延長線上にあることは明らかです。


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