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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 珍島犬をもらい受けて2時間後に…
2020-06-16 Tue 03:39
 韓国の仁川弥鄒忽署は、おととい(14日)、「大切に育てる」と言ってもらい受けた珍島犬の親子を、すぐに食肉処理場を経営する別の男に依頼して殺し、犬焼酎(ケソジュ:犬の肉と栗やナツメなどの食材や漢方薬などを入れて煮込んで成分を抽出した韓国の薬用飲料)にして食べたとして、76歳の男を“詐欺”の疑いで、食肉処理場の経営者を動物保護法違反の疑いで、在宅のまま書類送検したことを明らかにしました。というわけで、きょうはこの切手です。(画像はクリックで拡大されます)

      韓国・珍島犬(1962)

 これは、1962年、韓国で発行された珍島犬の20チョン切手(普通切手)です。

韓国原産の犬として知られる珍島犬の起源については諸説ありますが、一般には、高麗が元朝の属国だった13世紀、朝鮮の在来犬とモンゴルの軍用犬との交雑によって誕生し、それが珍島に定着したと考えられています。

 日本統治時代の1937年、京城帝国大学の森為三は、珍島に朝鮮固有の犬が存在するとして、朝鮮宝物古蹟名勝天然記念物委員会に報告した際、この犬を“珍島犬”と命名。翌1938年、朝鮮総督府学務局が珍島犬を第53号天然記念物に指定しました。

 1945年の解放後、米軍政下の南朝鮮および韓国政府には、当初、珍島犬に対する保護政策を行う余裕がありませんでしたが、朝鮮戦争中の1952年、李承晩大統領直々の指示により珍島犬保護法が制定されています。

 その後、朴正煕政権下の1962年、それまでの朝鮮宝物古蹟名勝天然記念物委員会が廃止され、その代わりに「文化財保護法」(法律第961号)が新しく制定されると、珍島犬は、あらためて天然記念物第53号に指定されました。

 ところで、米軍政下の1945年11月2日に米軍政長官名で公布された法令第21号は「総ベテノ法律及ビ朝鮮旧政府ガ発布シ法律的ノ効力ヲ有スル規則命令、告示其ノ他ノ文書ニテ一九四五年八月九日実行中ノモノ其ノ間スデニ廃止サレタルヲ除キ朝鮮軍政庁ガ特殊命令ニテ廃止スル迄全効力ヲ以テ存続ス」(第1条)としており、日本統治時代の旧法令は多くが“暫定的に”存続することになりました。野生動物および文化財保護行政の基本原則として1933年に制定され、朝鮮寶物古蹟 名勝天然記念物委員会の設置根拠となった「朝鮮寶物古蹟名勝天然記念物保存令」(総督府制令第6号。以下、保存令)もそのひとつです。

 さらに、1948年に制定された“制憲憲法”第100条でも「現行法令はこの憲法に抵触しない限り効力を有する」と規定されたため、保存令も大韓民国発足後も存続。他の実務的な法令同様、保存令は文化財保護行政の仕組みとしては有用で、廃止しなければならない積極的な理由は特に見いだされなかったため、李承晩政権下ではそのまま温存されていました。

 しかし、1961年の5・16革命で成立した朴正煕の国家再建会議は、体制の一新をはかるため、「旧法令に関する特別措置法」(1961年法第659号)を制定。当時なお効力を有していた“旧法令(日本統治時代および米軍政下の法令)”は1952年1月20日までに整理されることになります。

 これを受けて、1933年以来の保存令も廃止され、期限ぎりぎりの1962年1月10日、文化財保護法(新保護法)が公布施行されました。もっとも、時間的な制約から、新保護法は、1950年に制定された日本の文化財保護法をほぼそのまま翻訳して対応せざるを得ませんでした。たとえば、日本の保護法第1条が「この法律は、文化財を保存し、且つ、その活用を図り、もって国民の文化的向上に資するとともに、世界文化の進歩に貢献することを目的とする」となっているのに対して、新保護法の第1条が「本法は、文化財を保存し、活用することとにより国民の文化的向上を図り、同時に人類文化の発展に寄与することを目的とする」となっています。

 さらに、1962年の新保護法では、旧保存令に基づき寶物、古蹟、名勝、天然記念物として指定されたものは、新たに制定された韓国文化財保護法に基づく指定とみなし、同法施行後1年以内に指定を更新するとの経過規定を定めており、旧保存令で指定された文化財等の法的地位にはほとんど変更がありませんでした。

 それでも、新たな文化財保護法の制定は、朴正煕政権が掲げていた“民族文化の暢達と国民教育の振興”を進めていくうえで重要な意味を持っていましたから、1962年以降、天然記念物に指定された動植物や、国宝に指定された文化財などが、日常的に国民が使用する普通切手に積極的に取り上げられていくことになります。今回ご紹介の切手もその一例だったわけです。

 ただし、そうした天然記念物や文化財の保護行政が、日本統治時代の蓄積の上になっていることや、そもそも、韓国の文化財保護法が日本の文化財保護法をほとんどそのまま真似たものであることは、「植民地史観と外国文化に対する従属観念を払拭し、民族文化の再発見を通して国民的自覚と誇りを宣揚しよう」とすればするほど、韓国社会における“日本”の存在の大きさが浮かび上がってくるというジレンマを白日の下にさらすことになるのですが…。

 さて、今回の事件は、今年(2020年)5月17日に、元の飼い主がA容疑者に犬を譲った後、犬が元気でいるかどうか確認したことで発覚。もとの飼い主が警察に通報し、警察は防犯カメラの分析などにより事実を確認し、Aと処理業者も事実を認めました。これに対して、元の飼い主は、5月25日、青瓦台の国民請願掲示板に「犬がもらわれていって2時間もたたずに殺された」と投稿し、容疑者の処罰を求めています。

 韓国に犬食文化の伝統があることは広く知られていますが、最近では、犬は食べ物ではなくペットという見方が広まり、犬を食べたがらない人も急増しています。その一方で、伝統的な犬食文化を全面的に禁止すべきとまで考えている韓国人は少数派とみられており、韓国社会における犬食文化の位置づけも微妙なものとなりつつあるようです。

 そうした中で、2017年、動物の権利保護団体“CARE”が、「適切な理由なしに動物を殺している」として富川市の養犬業者を提訴。2018年4月には、裁判所が食肉用に犬を処理するのは違法とする初めての判決が下されました。

 この時の判決は食肉処理だけを違法としたもので、犬食じたいを禁じたわけではありませんが、養犬場や犬肉処理場の経営者たちは、この判決に強く抗議し、犬食を禁止するのではなく合法化し、犬肉処理場へ免許を発行するよう求めています。ちなみに、韓国の現行の法制度でが、犬は“家畜”として扱われていないため、犬肉の流通・販売は違法でも適法でもない中途半端な状態になっており、そのことが話を複雑にしている面も否定できません。

 ちなみに、韓国における民族文化の“再発見”と日本との関係については、拙著『日韓基本条約』でも詳しくまとめておりますので、機会がありましたら、ぜひお手に取ってご覧いただけると幸いです。


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 出版社からのコメント
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 丁寧に読むといろいろ々発見があります。

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