2019-12-25 Wed 01:47
きょうはクリスマスです。というわけで、こんなモノを持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)
これは、1943年12月12日、アウシュヴィッツ収容所からクラクフ宛の郵便物で、以下のようなクリスマスについての記述があります。 11月29日の手紙は12月5日に無事届きました。聖ニコラウスのプレゼントをどうもありがとう。みんなが家で元気で、すべきことがあるのは良いことです。私は神様のおかげで元気です。もうすぐみんなと離れて3回目のクリスマスがきます。私たちが(みんなと一緒に)いるかのように、たくさん食べてくださいね。素敵なクリスマスを過ごしてください。クリスマスには親戚みんなに会うでしょうから、親戚みんなによろしく。(誰かが書いた)手紙の内容を詳しく知りたいので、次の手紙で書いてください。写真を送ることは出来るのでルイスとあなたの写真を送ってください。手書きのお絵描きも嬉しかった。XX(判読不能)の名前の日がもうすぐなので、おめでとう。皆さんの名前の日も。4つの小包と、手書きの内容リストもありがとう。神様が再会までの時間を短くしてくれますように 文中、「みんなと離れて3回目のクリスマス」との記述があるため、この収容者は1941年から収容所で生活していたポーランド人と推定できます。 もともと、アウシュヴィッツ収容所はポーランド人の捕虜・政治犯を収容するための施設として開設されたため、1945年1月に解放されるまで、かなりの数のポーランド人が収容されていました。 特に、1942年1月のヴァンゼー会議で「ユダヤ人問題の最終解決」が決定されたことを受けて、ドイツの勢力圏内各地からユダヤ人が移送されてくるまでは、アウシュヴィッツの収容者は原則としてポーランド人(その中には、ユダヤ系のポーランド人もいましたが、収容所当局の認識では、彼らはあくまでも“ポーランド人”です)でしたから、文面にある通り、この郵便物の差出人が1941年からアウシュヴィッツにいたとすると、彼もポーランド人だったと考えてほぼ間違いないでしょう。 ポーランド人収容者の多くはカトリックだったため、収容所内でクリスマスを祝うことも認められており、大戦中の12月から1月にかけて収容者が差し出した郵便物の中には、今回ご紹介の郵便物のように、しばしばクリスマスについての記述がみられます。 また、文面にある聖ニコラウスの日というのは、サンタクロースのモデルとなったとされる聖人“ミオのニコラオス”の命日にあたる12月6日のことです。 ミオのニコラオスについては、貧しさのあまり3人の娘を身売りさせざるを得なくなった家を夜中に訪れ、ひそかに、暖炉に下げられていた靴下に金貨を入れ、娘の身売りを防いだという逸話があり、これが現在のサンタクロースのモデルになったとされています。ここから、ドイツなどでは12月月6日にもプレゼントの交換が行われます。前日の5日に届いたというのは、このタイミングに合わせてのことでしょう。 なお、ニコラオスは無実の人々を処刑の寸前で救ったことから、“無実の罪に苦しむ人”の守護聖人ともされています。アウシュヴィッツの収容者たちの多くは、まさに“無実の罪に苦しむ人”であったから、彼らとその家族にとっては、さぞかし聖ニコラオスにすがりたい思いであったものと思われます。 ちなみに、アウシュヴィッツ収容所とその郵便物については、拙著『アウシュヴィッツの手紙 改訂増補版』で詳しくご説明しておりますので、機会がありましたら、ぜひお手に取ってご覧ください。 ★ 文化放送「おはよう寺ちゃん 活動中」 出演します!★ 12月27日(金)05:00~ 文化放送の「おはよう寺ちゃん 活動中」に内藤がコメンテーターとして出演の予定です。番組は早朝5時のスタートですが、僕の出番は6時台になります。皆様、よろしくお願いします。なお、番組の詳細はこちらをご覧ください。 ★★ イベント等のご案内 ★★ 今後の各種イベント・講座等のご案内です。詳細については、イベント名をクリックしてご覧ください。 ・第11回テーマティク研究会切手展 1月11-12日(土・日) 於・切手の博物館(東京・目白) テーマティク研究会は、テーマティクならびにオープン・クラスでの競争展への出品を目指す収集家の集まりで、毎年、全国規模の切手展が開催される際には作品の合評会を行うほか、年に1度、切手展出品のリハーサルないしは活動成果の報告を兼ねて会としての切手展を開催しています。今回の展覧会は、昨年に続き11回目の開催で、香港情勢が緊迫している折から、メインテーマを香港とし、内藤も「香港の歴史」のコレクションを出品しています。 また、会期中の12日13:00からは、拙著『(シリーズ韓国現代史1953-1865)日韓基本条約』の刊行を記念したトークイベントも行います。 展覧会・トークイベントともに入場無料・事前予約不要ですので、ぜひ、遊びに来てください。 ・よみうりカルチャー 荻窪 宗教と国際政治 毎月第1火曜日 15:30~17:00 1/7、2/4、3/3(1回のみのお試し受講も可) ★ 最新作 『アウシュヴィッツの手紙 改訂増補版』 11月25日発売!★ 本体2500円+税(予定) 出版社からのコメント 初版品切れにつき、新資料、解説を大幅100ページ以上増補し、新版として刊行。独自のアプローチで知られざる実態に目からウロコ、ですが淡々とした筆致が心に迫る箇所多数ありです。 本書のご予約・ご注文は版元ドットコムへ。同サイトでは、本書の目次をご覧いただけるほか、アマゾン他、各ネット書店での注文ページにリンクしています。また、主要書店の店頭在庫も確認できます。 |
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