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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 納めの観音
2019-12-18 Wed 01:09
 きょう(18日)は、今年最後の観音様の縁日“納めの観音”の日です。というわけで、こんな切手を持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)

      普陀落山観世音菩薩像

 これは、1982年7月10日に発行された近代美術シリーズ第13集の1枚で、富岡鉄斎の「普陀落山観世音菩薩」が取り上げられています。

 富岡鉄斎(1836-1924)は京都の出身で、幼少の頃から勉学に励み、富岡家の家学である石門心学のほか、国学や勤王思想、漢学、陽明学、詩文などを学びました。絵に関しては、1856年、南北合派の窪田雪鷹、大角南耕に手ほどきを受けたのが初めで、後に長崎に遊学して南画を学び、1862年以降は画業で生計を立てています。

 明治維新後は、大和国石上神社や和泉国大鳥神社の神官を勤めながら、日本各地を旅する傍ら、私塾立命館や京都市美術学校でも教鞭をとりました。また、京都青年絵画研究会展示会の評議員、京都美術協会委員、京都市立日本青年絵画共進会顧問、帝室技芸員、帝国美術院会員など、美術界の要職を歴任するとともに、生涯で1万点以上もの作品を残しています。

 なお、鉄斎本人は、自分を画家ではなく儒者と意識しており、絵画はあくまでも余技との立場から、「自分は意味のない絵は描かない」、「自分の絵を見るときは、まず賛を読んでくれ」というのが口癖でした。その画風は該博な知識に裏打ちされ、主に中国古典を題材とする文人画を基本に、大和絵、狩野派、琳派、大津絵などさまざまな絵画様式を加え、独自の世界を作り出しています。

 切手に取り上げられた「普陀落山観世音菩薩」は、鉄斎晩年の1924年の作品で、現在は、兵庫県宝塚市の清荒神清澄寺の所蔵品です。

 画題にある普陀落山(補陀落山とも)は観音菩薩が降り立つとされる伝説上の山で、漢字表記はサンスクリット語のポータラカ(チベットのポタラ宮もこれに由来します) の音訳です。インドの南端の海岸にある八角形の山とされているほか、中国では現在の浙江省にある舟山群島を補陀落(普陀山)として、日本でも熊野日光が補陀落になぞらえられ、観音信仰が広がりました。

 切手ではトリミングでカットされていますが、オリジナルの作品には、右上に宋代の詩人、蘇東坡(鉄斎は自分と誕生日が同じということで、蘇東坡を非常に敬愛していました)の応夢観音賛が記されています。その文言は以下の通りです。

 稽首觀音 宴坐寶石 忽忽夢中 應我空寂 觀音不來 我亦不往 水在盤中 月在天上(稽首す観音 宝石に宴座す 忽々たる夢中我が空寂に応ず 観音来らず 我も亦往かず 水は盤中に在り 月は天上に在り)

 なお、今回ご紹介の切手を含む“近代美術シリーズ”の切手については、拙著<解説・戦後記念切手>の第6巻『近代美術・特殊鳥類の時代』でも詳しくまとめておりますので、機会がありましたら、ぜひお手に取ってご覧いただけると幸いです。


★★ イベント等のご案内 ★★

 今後の各種イベント・講座等のご案内です。詳細については、イベント名をクリックしてご覧ください。

第11回テーマティク研究会切手展
 1月11-12日(土・日) 於・切手の博物館(東京・目白)
 * 12日(日)の13:00-14:30には、内藤の新刊書籍を題材としたトークイベントを開催の予定です。ぜひ、遊びに来てください。

・よみうりカルチャー 荻窪
 宗教と国際政治
 毎月第1火曜日 15:30~17:00
 1/7、2/4、3/3(1回のみのお試し受講も可)


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