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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 切手歳時記:谷中の紅葉
2018-11-30 Fri 01:30
 ご報告がすっかり遅くなりましたが、公益財団法人・通信文化協会の雑誌『通信文化』2018年11月号ができあがりました。僕の連載「切手歳時記」は、紅葉の時季にあわせて、この1点を持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)

      まりつき

 これは、1957年11月1日に発行された切手趣味週間の記念切手で、鈴木春信の「まりつき」が取り上げられています。絵の中の少女が着ている着物は川の流れと紅葉の図柄というのが歳時記としてのミソです。

 さて、今回の切手は、おそらく、当時の技術的な制約が原因なのでしょうが、切手と東京国立博物館所蔵のオリジナルの錦絵では色味が少し違っており、オリジナルでは、川の流れともみじ葉(の一部)がより緑色に近い碧になっています。

 紅葉する前の“青もみじ”といえば初夏から夏にかけての景色ですが、少女の着物は明らかに秋冬物の袷ですし、なにより、地色の紅と川、もみじ葉の組み合わせは、小倉百人一首にも収められている在原業平の和歌、「千早ぶる神世もきかず竜田川からくれなゐに水くくるとは」を連想させますから、やはり、晩秋の図と見るのが自然でしょう。

 ところで、絵の中の少女は、無言で毬をついていたわけではなく、なにか手毬歌を歌っていたはずですが、あるいは、笠森お仙の手毬歌だったのではなかろうかと僕は考えています。

 将軍が徳川家治の時代、明和(1764-71年)の頃、江戸は谷中の笠森稲荷門前に「鍵屋」という茶屋がありました。茶屋の娘、お仙は宝暦元(1751)年の生まれで、当時の江戸三大美人の一人としてその名は天下に轟き、晴信の作品にもしばしば取り上げられました。

 若き日の大田南畝が舳羅山人のペンネームで刊行した『小説売飴土平伝』には、彼女の美貌について「美目の艶、往来を流し目にす。将に去らんとして去り難し」、「十目の見る所、十手の指す所 一たび顧みれば、人の足を駐め、再び顧みれば、人の腰を抜かす」との記述があります。彼女が往来をちらっと見たら、もう他所へは行けず、彼女が振り向けば男たちは歩みを止め、もう一回振り向けば腰を抜かすというわけで、彼女目当てに笠森稲荷にお参りに来る男も多かったようです。

 また、当時の江戸の子供たちの間では、そんなお仙を歌った次のような手毬歌が流行しました。

 向う横町のお稲荷さんへ
 壱銭上げてちゃっと拝んでお仙の茶屋へ
 腰を掛けたら渋茶を出して
 渋茶よこよこ横目で見たらば
 米の団子か土の団子かお団子団子
 この団子を犬にやろうか猫にやろうか
 とうとう鳶にさらわれた

 “米の団子か土の団子か”とあるのは、笠森稲荷では、願をかける時にはまず土の団子を供え、それが成就してお礼参りをするときは米の団子を供える風習があったことを踏まえたものです。もっとも、男たちにしてみれば、参拝はあくまでもお仙を拝みに行くための口実でしたから、団子なんか、本当はどうだっていいのですが…。

 ところが、お仙は、20歳になったある日、何の前触れもなく、御庭番衆の倉地政之助のもとに嫁いでしまい、人々の前から忽然と姿を消してしまいます。彼女を目当てに茶屋に来た男たちからすれば、団子は油揚げよろしく鳶にさらわれた格好ですが、倉地は後に幕府の金庫を管理する払方御金奉行にまで出世しましたから、実際には、鳶というより鷹というべきでしょうか。

 ちなみに、「まりつき」の絵が描かれた当時の笠森稲荷社は、現在の天王寺(当時の名は感応寺)の塔頭・福泉院境内にありましたが、天王寺は紅葉の名所で、寺から日暮里方向に抜ける坂道は紅葉坂と名付けられたほどです。

 お仙の絵を好んで描いた晴信は、天王寺と笠森稲荷を連想させる紅葉の着物を「まりつき」の少女に着せ、頭の中をめぐる手毬歌のメロディとともに、茶屋の店先に立っていた彼女を懐かしむ縁としたかったのかもしれません。

 * 本日未明、アクセスカウンターが199万PVを超えました。いつも閲覧していただいている皆様には、あらためてお礼申し上げます。 

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