2018-07-17 Tue 02:38
公益財団法人・通信文化協会の雑誌『通信文化』2018年7月号ができあがりました。僕の連載「切手歳時記」は、今回はこの1点を持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)
これは、1964年7月15日に発行された“祇園まつり”の切手です。 京都・八坂神社の祭礼で、大阪の天神祭、東京の神田祭(山王祭を挙げることもある)とともに、日本三大祭のひとつとされる祇園祭は、毎年、7月1日から1ヵ月間にわたって行われる長い祭りです。 八坂神社の祭神、もともとは牛頭天王でした。 牛頭天王は、日本の神は仏教の仏が日本風に姿を変えて現れたものとする“本地垂迹説”の影響を受け、薬師如来が行疫神であるスサノオの姿を借りて現れた行疫神(疫病をはやらせる神)とされています。また、生前の釈迦が説法を行った僧院、祇園精舎の守護神とされているため、彼を祭神とする八坂神社も比叡山に属する“祇園社”と呼ばれていました。なお、八坂神社という社名は、明治の神仏分離令で、神社で仏式の行事を行うことが禁止されたことを受け、神社はスサノオ主祭神とし、社名も、仏教用語の“祇園”から、神社の所在地にちなんで“八坂”に改称されたものです。 平安時代初期の863年、疫病の流行に際して、朝廷は大内裏の南に位置する神泉苑で、疫神や死者の怨霊などを鎮めるための御霊会を行いましたが、疫病は止まなかったため、あらためて牛頭天王を祀り、御霊会が行われました。 さらに、864年には富士山の大噴火があり、869年には陸奥で貞観地震が起こり、津波で多数の犠牲者が出るなど、天変地異が続いたため、同年、全国の国の数を表す66本の矛を卜部日良麿が立てて諸国の悪霊を移し、神輿三基を送り、牛頭天王を祀る御霊会を執り行いました。 これが、現在の祇園祭の原型とされており、その経緯から、明治以前は “祇園御霊会”と呼ばれていました。 なお、八坂神社は、社殿では、656年、高句麗から来日した調進副使・伊利之使主が創建したとされていますが、現在の学術研究では、876年、僧・円如が寺院として建立したものが、ほどなく祇園神を祀るようになり、祇園社となったと考えられています。これが正しいとすると、八坂神社の歴史は、ほぼ祇園祭と重なっていることになります。 祇園祭のハイライトとなっている山鉾行事も、もとは、行疫神を慰め和ませることで疫病を防ごうとしたものでした。 今回ご紹介の切手には、東山の遠景と八坂神社を背景に、山鉾の中でも最も有名な“長刀鉾”が描れています。 長刀鉾の矛先に付けられている大長刀は、もとは、永延年間(987-989)、名工と謳われた三条小鍛冶宗近が娘の病気平癒を祈願して奉納したものでした。鎌倉時代には、力自慢で知られた武士、和泉小次郎親衡は、一時、この太刀を愛用したものの、いろいろ不思議なことが起こったため、神仏を私する非を悟り、再び返納したと伝えられています。 その後、宗近の刀は1522年には三条長吉作のものと取り替えられ、さらに1675年には和泉守来金道作のものとなりました。現在は竹に銀箔貼りの模造品が使用されています。 長刀鉾は“くじとらず”と呼ばれ、毎年、巡行の先頭にたち、現在では生稚児の乗る唯一の鉾となっており、まさに祇園祭りの象徴ともいうべき存在として、切手にも取り上げられました。ただし、お祭りシリーズの切手では、肝心の長刀の部分がぼかされています。病気平癒を祈願しての長刀の姿が曖昧では、御霊会としての有難味も薄れてしまうようで、ちょっと残念ですね。 ★★★ 全日本切手展のご案内 ★★★ 7月20-22日(金-日) 東京・錦糸町のすみだ産業会館で全日本切手展(全日展)ならびにチェコ切手展が開催されます。主催団体の一つである全日本郵趣連合のサイトのほか、全日本切手展のフェイスブック・サイト(どなたでもご覧になれます)にて、随時、情報をアップしていきますので、よろしくお願いいたします。 *画像は実行委員会が制作したポスターです。クリックで拡大してご覧ください。 なお、会期中の21日、内藤は、以下の3回、トーク・イベントをやります。 13:00・9階会議室 「国際切手展審査員としての経験から テーマティク部門」 14:30・8階イベントスペース 「アウシュヴィッツとチェコを往来した郵便」 16:00・8階イベントスペース 『世界一高価な切手の物語』(東京創元社) ★★★ 近刊予告! ★★★ えにし書房より、拙著『チェ・ゲバラとキューバ革命』が近日刊行予定です! 詳細につきましては、今後、このブログでも随時ご案内して参りますので、よろしくお願いします。 (画像は書影のイメージです。刊行時には若干の変更の可能性があります) ★★ 内藤陽介の最新刊 『パレスチナ現代史 岩のドームの郵便学』 ★★ 本体2500円+税 【出版元より】 中東100 年の混迷を読み解く! 世界遺産、エルサレムの“岩のドーム”に関連した郵便資料分析という独自の視点から、複雑な情勢をわかりやすく解説。郵便学者による待望の通史! 本書のご注文は版元ドットコムへ。同サイトでは、アマゾン他、各ネット書店での注文ページにリンクしています。また、主要書店の店頭在庫も確認できます。 |
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