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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 切手でひも解く世界の歴史(15)
2018-02-08 Thu 03:36
  本日(8日)16:05から、NHKラジオ第1放送で、内藤が出演する「切手でひも解く世界の歴史」の第15回が放送される予定です。(番組の詳細はこちらをご覧ください)。今回は、明日(9日)が平昌五輪の開会式ということで、この切手もご紹介しながら、、平昌のある江原道にちなみ、金剛山の切手についてお話する予定です。(画像はクリックで拡大されます)

      北朝鮮・金剛山(1950頃)

 これは、1950年頃に北朝鮮が発行した金剛山50チョン切手の田型です。

 北朝鮮最初の切手は、1946年3月12日に発行されたムクゲの20チョン切手と金剛山の50チョン切手ですが、このうちの50チョン切手にはさまざまなバラエティがあり、刷色違いだけでも黄緑・赤・紫の3種に大別(さらに細かいシェード違いもありますが)されます。このうち、紫色で無目打のものは、1950年頃に出現したと考えられています。 

 金剛山は、中朝国境の白頭山(中国側の呼称は長白山)とともに朝鮮を代表する名山とされており、その大半は、現在の行政区域でいうと、軍事境界線(北緯38度線)近くの北朝鮮の江原道の東海岸に位置しています。ちなみに、江原道は、もともと、朝鮮王朝(李氏朝鮮)の時代の行政区画として朝鮮半島中東部に設置された“朝鮮八道”の一つでしたが、第二次大戦後、その範囲は南北に分割されました。ただし、江原道の名前の由来になった江陵と原州は、いずれも、韓国領内にあります。

 金剛山一帯は、最高峰の昆盧峰(1639メートル)をはじめ、1万2000もの峰からなるダイナミックな渓谷地帯で、その範囲は東西40キロ、南北60キロにも及んでおり、その範囲を一番広くとった場合には、南端の一部が韓国領内にまたがることになります。また、毘盧峰がある中央連峰の西側が内金剛、東側が外金剛、東端の海岸部が海金剛と呼ばれています。

 花崗岩が長い年月をかけて風化・浸食された奇岩の数々は、古来より多くの伝説の舞台となるなど、朝鮮民族にとっては単なる景勝地にとどまらず、民族の象徴ともいうべき存在となってきました。旧朝鮮王朝時代は交通の便が悪く、訪れる人も少なかったのですが、日本統治時代に金剛山電気鉄道ならびに朝鮮総督府鉄道・東海北部線が開通し、一大観光地となりました。

 さて、金剛山は、日本統治時代の1939年、当時の7銭切手の図案に“日本有数の名山”として取り上げられています。この7銭切手は濃い青緑色の精巧な凹版印刷で製造されており、戦前日本の国力のピークを示すものでした。

 その後、いわゆる太平洋戦争の時代を通じて日本切手の品質も大いに劣化していますが、終戦前後、最も品質が劣化したとされる普通切手でさえも、今回ご紹介した北朝鮮の切手に比べればかなりましな出来ばえです。

 終戦直後、旧満州に進駐したソ連軍が日本人の資産を大量に接収していったことは広く知られていますが、それと同様に、北朝鮮の場合も、旧満州ほどではなかったにせよ、機械や施設、食料などがソ連軍によって大量に奪取されていきました。この結果、ソ連による北朝鮮の“解放”は、北朝鮮経済、特に一般民需に大きな打撃を与えることになりました。北朝鮮の粗悪な金剛山切手には、そうした当時の状況が反映されているわけです。

 ちなみに、金剛山の萬物相は1949年には発足後まもない韓国の20ウォン切手にも取り上げられています。北朝鮮領内にある金剛山を、韓国があえて通常切手の図案として取り上げたのは、自分たちこそが朝鮮半島を代表する唯一の正統政府であることを、切手を通じて内外に示すためです。ただし、韓国の切手は、日本時代の切手には及ばないものの、北朝鮮の切手に比べると印刷物としては上質です。

 現在でも、しばしば、1960年代までは韓国よりも北朝鮮の方が豊かだったとの記述が歴史の本などでは見かけられます。たしかに、北朝鮮の発表した公式の統計データがすべて正しいとすれば、国家全体のGDPレベルにおいては北朝鮮が韓国を凌駕していたということになるのかもしれません。しかし、GDPがどれほど大きかろうと、富の再分配が適正に行われなければ、国民の日常生活は決して豊かにはならないのです。

 一般国民が日常生活で使用する切手(や郵便物に使われす紙類)の品質は、時として、そうした公式の統計数字には表れない国民生活の実態をあぶり出す資料として、重要な意味を持っていると言えましょう。

 なお、このあたりの事情については、拙著『朝鮮戦争』でも詳しくご説明しておりますので、機会がありましたら、ぜひお手にとってご覧いただけると幸いです。


★★ NHKラジオ第1放送 “切手でひも解く世界の歴史” 次回は8日!★★

 2月8日(木)16:05~  NHKラジオ第1放送で、内藤が出演する「切手でひも解く世界の歴史」の第15回が放送予定です。今回は、平昌五輪の開幕前日ということで、平昌のある江原道にちなみ、金剛山の切手についてお話する予定です。なお、番組の詳細はこちらをご覧ください。


★★★ 世界切手展< THAILAND 2018>作品募集中! ★★★

 本年(2018年)11月28日から12月3日まで、タイ・バンコクのサイアム・パラゴンで世界切手展<THAILAND 2018>が開催される予定です。同展の日本コミッショナーは、不肖・内藤がお引き受けすることになりました。

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