2017-06-14 Wed 08:51
ご報告がすっかり遅くなりましたが、アシェット・コレクションズ・ジャパンの週刊『世界の切手コレクション』2017年6月7日号が発行されました。僕が担当したメイン特集「世界の国々」のコーナーは、今回はチリの特集(2回目)です。その記事の中から、この1点をご紹介します。(画像はクリックで拡大されます)
これは、1986年にチリが発行した切手シートで、部族対立で倒されたモアイ像の広がる風景が描かれています。 モアイの島として知られるイースター島(スペイン語ではパスクア島)は、75万年前に海底マグマの噴火によって造成された火山島で、全周は60km、面積は180km2ほど(北海道利尻島とほぼ同じ)です。 最も近い有人島の英領ピトケアン島まで2000km余という絶海の孤島で、ポリネシア系先住民の言語では、古くは“テ・ピト・オ・ヘヌア(世界のへそ)”、“マタ・キ・テ・ランギ(天を見る眼)”などともいわれましたが、19世紀以降は“ラパ・ヌイ(広い土地)”の呼称が定着しました。 ポリネシア系の先住民がこの地に移住してきたのは西暦800年頃のことで、花粉などの研究から、当時のラパ・ヌイは、巨大椰子の豊かな林が生い茂っていたと考えられています。 ラパ・ヌイに上陸したポリネシア人たちは、“ラノ・ララク”と呼ばれる噴火口跡から、軟らかく加工しやすい凝灰岩を採石し、玄武岩や黒曜石の石斧で加工して、7-8世紀頃には石の祭壇“アフ”を作り始めました。ただし、青銅器や鉄器が使われた形跡はありません。 モアイ像の制作は、遅くとも10世紀頃には始まったと考えられていますが、制作年代によって像のスタイルには相違がみられます。 最初期の第1期に作られた像は人間の姿に近く、下半身も作られていますが、第2期以降は下半身がなくなる。第3期の像には、頭上に赤色凝灰石で作られた被り物の“プカオ”が載せられています。しかし、一般的なモアイ像のイメージに近いのは第4期の像で、長い顔、狭い額、長い鼻、くぼんだ眼窩、伸びた耳、尖った顎、一文字の口などが特徴的です。 モアイ像は集落を守るように立てられているため、海沿いの像は海を背にしていますが、内陸部の像には海を向いているものもあります。なお、アフの上に建てられた像の中で最大のものは、高さ7.8m、重さ80tにもなります。 さて、モアイ像は17世紀まで盛んに作られていましたが、18世紀以降は作られなくなり、その後は破壊されていきました。 そのきっかけは、急激な森林破壊(その原因については、人口が一挙に拡大したとの説や、外部から持ち込まれたネズミが天敵のない環境で大量に繁殖したとの説などがあります)にあったと考えられています。すなわち、島内で人口が一挙に増加し、そのため、森林破壊が進行して沃土が海に流出し、農業不振から食糧不足が生じ、耕作地域や漁場を巡って部族間の武力闘争が発生。モアイは目に霊力が宿ると考えられていたため、敵対する部族を攻撃する場合、彼らはモアイ像をうつ伏せに倒し、目の部分を粉々に破壊しました。 いずれにせよ、島内での“モアイ倒し戦争”は50年ほど続き、島民の生活は大いに疲弊し、生活水準も大きく後退したと考えられている。 1722年の復活祭(イースター)の夜、オランダ海軍のヤーコプ・ロッヘフェーンは西洋人として初めてラパ・ヌイを発見。その日付にちなんで、この島を“イースター島”と命名し、モアイ像の存在が西洋にも知られるようになります。ちなみに、スペイン語名の“パスクア島”は“イースター島”のスペイン語訳です。 1774年には、英国の探検家、ジェームズ・クックも上陸。クックは倒壊したモアイ像を数多く目にしたが、それでも、この時点では半数ほどは直立しており、作りかけの像も放置されていたという。今回ご紹介の切手には、まさにそうした光景が描かれています。 さらに、18世紀後半から19世紀にかけて、スペインのペルー副王領政府の命を受けた奴隷商人がイースター島を訪れるようになり、1862年にはペルー人による大規模な奴隷狩りが行われます。この結果、わずか数ヶ月間での内に当時の住民の半数に当たる約1500人が島外に拉致されました。そこへ、追い打ちをかけるように、外部から持ち込まれた天然痘や結核が蔓延し1872年には島民はわずか111人にまで激減します。 その後、イースター島は1888年にチリ領になり、現在に至っているわけですが、現在、島内に立っている像は、基本的に、チリによる領有後、倒壊した像をクレーンなどを立て直したものです。 さて、『世界の切手コレクション』6月7日号の「世界の国々」では、イースター島についての長文コラムのほか、チリ・ワイン、パン・デ・アスカル国立公園、サンティアゴ中央郵便局、イキケ海戦の英雄・プラット艦長の切手などもご紹介しております。機会がありましたら、ぜひ、書店などで実物を手に取ってご覧いただけると幸いです。 なお、「世界の国々」の僕の担当回ですが、今回のチリの次は、6月7日発売の6月14日号でのウズベキスタンの特集になります。こちらについては、近々、このブログでもご紹介する予定です。 ★★★ NHKラジオ第1放送 “切手でひも解く世界の歴史” 次回 は15日! ★★★ 6月15日(木)16:05~ NHKラジオ第1放送で、内藤が出演する「切手でひも解く世界の歴史」の第4回目が放送予定です。今回は、6月10日に開幕したばかりのアスタナ万博にちなんで、開催国のカザフスタンにスポットを当ててお話をする予定です。みなさま、よろしくお願いします。なお、番組の詳細はこちらをご覧ください。 ★★★ 内藤陽介 『朝鮮戦争』(えにし書房) 重版出来! ★★★ 本体2000円+税 【出版元より】 「韓国/北朝鮮」の出発点を正しく知る! 日本からの解放と、それに連なる朝鮮戦争の苦難の道のりを知らずして、隣国との関係改善はあり得ない。ハングルに訳された韓国現代史の著作もある著者が、日本の敗戦と朝鮮戦争の勃発から休戦までの経緯をポスタルメディア(郵便資料)という独自の切り口から詳細に解説。解放後も日本統治時代の切手や葉書が使われた郵便事情の実態、軍事郵便、北朝鮮のトホホ切手、記念切手発行の裏事情などがむしろ雄弁に歴史を物語る。退屈な通史より面白く、わかりやすい内容でありながら、朝鮮戦争の基本図書ともなりうる充実の内容。 本書のご注文は版元ドットコムへ。同サイトでは、アマゾン他、各ネット書店での注文ページにリンクしています。また、主要書店の店頭在庫も確認できます。 |
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