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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 “茜襷に菅の笠”の本家
2015-05-02 Sat 15:09
 今日は八十八夜。というわけで、“茜襷に菅の笠”を描いた切手です。(画像はクリックで拡大されます)

         奥の細道・早苗

 これは、1987年8月25日に発行された「奥の細道シリーズ」の“早苗”の切手です。

 「夏も近づく八十八夜」で始まる文部省唱歌の「茶摘」の一節なので誤解されがちですが、茜襷に菅の笠の組み合わせは、茶摘み専用の服装ではなく、もともとは、今回ご紹介の切手に見られるように、早乙女の服装でした。

 早乙女とは、田植えの日に田の神を迎えるため、水田の一角で苗を田に植える若い女性のことで、村娘たちは、その日だけは、神に奉仕する神聖な存在になります。

 その彼女たちがハレの日に身にまとう伝統的な衣装が、単衣の長着に赤い襷(茜襷)、白い手ぬぐいと新しい菅笠でした。ほぼ同じ時期に行われる茶摘みも、年に一度のハレの日だったため、早乙女と同じ服装になったものと思われます。

 茜襷は止血効果のある茜草(薬草)で染めた襷で、作業の過程で、傷ついた指先に茜草の成分をすりこむという先人の知恵によるもので、田植えに比べて手先が傷つきやすい茶摘みの場合には、なおさら欠かせないアイテムでした。一方、菅笠は竹ひごを円錐状に組み立てた笠骨に、菅の葉を巻きつけ、最後に糸で縫って仕上げます。

 さて、切手の絵は「早苗とる手もとやむかししのぶ摺」の句をイメージしたもので、元になった句は、芭蕉が、現在の福島市郊外にある“しのぶもぢずりの石”を訪ねたときの感慨が詠まれています。

 小倉百人一首の「みちのくの しのぶもぢずり 誰故に 乱れ染めにし 我なら泣くに」で知られる“しのぶもぢずり”は、山繭を紬いで織り、天然染料で後染めをした織物で、福島県の旧信夫郡が名産地だったため、この名で呼ばれるようになりました。律令時代には特産品として都に献上され、平安から鎌倉時代に全盛期を迎えましたが、江戸時代以降は衰退し、現在ではその技術は残っていません。

 ところで、早乙女たちは茜襷に菅の笠のスタイルですが、茶摘みの場合、茜襷は必需品でも、菅の笠を用いず、姉さん被りの女性も多かったようで、過去に発行された茶摘みの切手でも、菅笠ではなく、姉さん被りの女性がメインに描かれています。

 じっさい、茶の名産地・京都宇治では、茶の古木を茶摘女の姿に彫り、彩色した“茶の木人形”が江戸時代から作られてきましたが、その考案者の上林清泉以来、人形の主流は、笠を被らず、姉さん被りの姿です。

 もちろん、何をかぶって作業をするかは個人の好みですから、姉さん被りの女性と菅笠の女性が同じ茶畑にいるという構図もありうるわけですが、現実の問題として、菅笠は遮光性・通気性には優れているものの、少し強い風が吹くと、ずり落ちたり、飛ばされたりすることが多いため、穏やかな日の平地での田植えならともかく、山の斜面の作業では使いづらいのではないかと思います。そして、それゆえ、実際の茶摘み風景を元に原画を作成すると、唱歌の「茶摘」とは裏腹に、菅笠ではなく姉さん被りの女性が主流を占めるという結果になったのでしょう。

 ちなみに、文部省唱歌「茶摘」の元ネタの一つと思われる宇治市の茶摘み歌は、「お茶が済んだら早よ帰れよと言うた親より殿が待つ」で始まり、その後しばらくして「竹に雀はしなよくとまれ とめてとまらぬ 色の道」と歌った後、「茜襷に菅の笠」のフレーズが続いており、かなり、艶っぽい内容です。

 このあたりの事情については、拙著『日の本切手 美女かるた』でもまとめておりますので、機会がありましたら、ぜひご覧いただけると幸いです。


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