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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 二の酉
2014-11-22 Sat 10:45
 きょう(22日)は二の酉です。というわけで、一の酉の時と同様に、拙著『朝鮮戦争』の重版を祈願して、同書で使った図版の中から、“鳥”にまつわるこんなモノを持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)

      朝鮮戦争捕虜郵便

 これは、朝鮮戦争中、共産側に捕えられた捕虜差出の郵便で、収容所側から支給されたレターシートには、ピカソの“平和の鳩”を模した鳩のイラストが印刷されています。

 朝鮮戦争における捕虜の正確な数は明らかになっていませんが、休戦会談の資料として1951年12月13日時点の数字として提出されたのは、国連軍の捕虜となった者が13万2474名(朝鮮人民軍11万1754名、中国人民志願軍2万720名)、共産側の捕虜となった者1万1559名(韓国軍7142名、米軍3198名、その他1219名)です。朝鮮人民軍の出身者が群を抜いて多いのは、1950年9月上の仁川陸作戦によって、5-6万人が捕えられたという事情があったためです。

 韓国・国連軍は捕虜としてとらえた敵兵を巨済島など6ヵ所の収容所に収容し、ほとんど釈放しませんでした。これは、朝鮮戦争中も、韓国の国内では反政府ゲリラの活動が李承晩政権の足枷になっており、解放された捕虜が彼らと合流することが懸念されたためです。

 一方、共産側は韓国軍の将校と国連軍の軍人は純然たる捕虜として扱い、一般の韓国兵に対しては共産主義思想で洗脳した後、釈放しました。ただし、洗脳に屈しない捕虜に関しては、当然のことながら、そのまま収容所に留め置かれています。

 今回ご紹介のカバーは、戦争末期の1953年5月17日、共産側の捕虜となった“ミゾグチ・ハヤナリ”氏が日本在住の母親宛てに差し出した捕虜郵便です。

 朝鮮戦争が勃発すると、戦乱を逃れて日本に密入国してくる韓国人が多かった一方で、独立後まもない祖国を守るべく、志願して義勇兵として朝鮮の戦場に赴いた在日コリアンの若者もいました。いわゆる“在日義勇兵”である。その総数は642名で、うち135名が戦死もしくは行方不明となっています。この捕虜郵便を差し出したミゾグチも、おそらく、そうした“在日義勇兵”の一人だったのではないかと思われます。

 差出地は“世界平和のための中国人民委員会”気付・北朝鮮第5収容所で、6月27日、横浜駐留の米野戦郵便局を経て、7月2日、名宛人の元に届けられています。

 差出人の住所が“世界平和のための中国人民委員会”気付となっているのは、中国からはあくまでも義勇兵による志願軍が参加しているだけで、中国政府が派兵しているわけではないという建前と平仄をあわせたものですが、郵便を差し出す捕虜に対しては、共産側こそが“世界平和”のために戦っているという洗脳プロパガンダの意味合いもあるものと考えられます。

 なお、戦時下で捕虜の差し出す郵便物は、国際法上、無料で配達されることになっていますが、上述のように、表向き、中国政府は朝鮮戦争には関与していないということになっていたため、この郵便物は朝鮮人民軍の軍事郵便という形式(右上にある円形の印には“朝鮮人民軍・軍事郵便”の表示がある)をとって、料金無料の扱いになりました。

 通信文は日本語で、収容者の中には水泳に行くものがいることや、5月10日にはイベントが行われたこと、まもなく春季運動会が行われるであろうことなど、収容所内の生活が記されています。また、「多分新聞か又はラヂオで聞いてご存知の事と思ひますが先月我々捕虜の一部、結局病人等は家に歸りました。僕が未だ歸らないのは健康であると云ふなによりの證處です。その中には停戰會議が順調に終るだらうと考へられます。…(中略)…とにかく体だけが一番大切な事と思ひますから、お互いに良く気を付け、再會の日を待つ事にしませう」との記述もあり、捕虜たちが、休戦交渉の内容をある程度把握していたことが伺えます。

 なお、1952年4月28日の対日講和条約の発効により在日コリアンは国籍を失ったため、在日義勇兵のうち242名が日本への再入国を拒否され、日本へ帰還できたのは除隊兵士の3分の1に過ぎませんでした。ミゾグチがこの手紙を書いてから約2カ月後の1953年7月27日、彼が待ち望んだ休戦が成立しましたが、その後の彼が、無事に母親との再会を果たすことができたかどうかは定かではありません。

 なお、このあたりの事情については、拙著『朝鮮戦争』でも詳しくご説明しておりますので、機会がありましたら、ぜひご覧いただけると幸いです。 


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 毎週水曜日、インターネット放送・チャンネルくららにて、内藤がレギュラー出演する番組「切手で辿る韓国現代史」が配信されています。青字をクリックし、番組を選択していただくとYoutube にて無料でご覧になれますので、よろしかったら、ぜひ、ご覧ください。(画像は収録風景で、右側に座っているのが主宰者の倉山満さんです)

 
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 日本からの解放と、それに連なる朝鮮戦争の苦難の道のりを知らずして、隣国との関係改善はあり得ない。ハングルに訳された韓国現代史の著作もある著者が、日本の敗戦と朝鮮戦争の勃発から休戦までの経緯をポスタルメディア(郵便資料)という独自の切り口から詳細に解説。解放後も日本統治時代の切手や葉書が使われた郵便事情の実態、軍事郵便、北朝鮮のトホホ切手、記念切手発行の裏事情などがむしろ雄弁に歴史を物語る。退屈な通史より面白く、わかりやすい内容でありながら、朝鮮戦争の基本図書ともなりうる充実の内容。

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 *8月24日付『讀賣新聞』、韓国メディア『週刊京郷』8月26日号、8月31日付『夕刊フジ』、『郵趣』10月号、『サンデー毎日』10月5日号で拙著『朝鮮戦争』が紹介されました!


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この記事のコメント
先生の写真が載っていますが、普段和服は良くお召しになるのでしょうか?私も休みの日は和服を来て外に出たりします。
2014-11-23 Sun 22:11 | URL | 磯五郎 #-[ 内容変更] | ∧top | under∨
・磯五郎様
 一般に、スーツを着てくるように要求されるような場所には、最近ではもっぱら和装で出かけています。決してスーツが嫌いなわけではないのですが、40を過ぎたら、いつの間にかそうなりました。(笑
2014-12-31 Wed 23:34 | URL | 内藤陽介 #-[ 内容変更] | ∧top | under∨
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