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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 切手歳時記:避暑地の恋人
2014-08-19 Tue 20:10
 ご報告がすっかり遅くなりましたが、公益財団法人・通信文化協会の雑誌『通信文化』8月号ができあがりました。僕の連載「切手歳時記」では、猛暑の折から、避暑地ネタということで、この切手を取り上げました。(画像はクリックで拡大されます)

      湖畔(趣味週間)

 これは、1967年の切手趣味週間の切手で、黒田清輝の「湖畔」が取り上げられています。
 
 この切手に取り上げられた黒田清輝の「湖畔」は、誰もが知っている名画ですが、この作品が、もともと「避暑」という題名だったことを知っている人は、そう多くはないのではないかと思います。

 “日本の洋画の父”と称される黒田清輝が、箱根・芦ノ湖畔の旅館「石川」に当時23歳の金田種子を伴って逗留したのは、1897年夏のことでした。

 1893年にフランス留学から帰国して間もなく、清輝は養父・清綱の決めた相手と結婚しましたが、すぐに離婚。その後、画家仲間の安藤仲太郎の紹介で知り合った種子が事実上の妻となります。

 養父の清綱は、歌人として明治・大正天皇の指南役を務め、貴族院議員・枢密顧問官などを歴任した人物で“芸者あがり”の種子と清輝の結婚を許しませんでした。2人が入籍し、種子が照子と改名したのは1917年に清綱が亡くなった後のことです。

 彼女の証言によると、1897年、箱根滞在中に清輝の仕事ぶりを覗きに行くと、清輝から目の前の岩に座るよう促されたそうです。彼女が言われたとおりに座ると、清輝は大いに絵心をそそられ、下絵も描かずにカンバスに筆を走らせました。ただし、そこは変わりやすい山の気候ゆえ、雨や霧の日などもあって作業は必ずしも順調には進まず、絵の完成までには約一ヵ月を要しています。

 作品は、団扇を右手に持ち、遠くを見るかのような眼差しで、浴衣を着て岩に腰かける種子を前景に描き、背景には、しっとりとした芦ノ湖の静かな湖面と小高い山々が広がっています。作品全体の空気感は、日本の夏に特有の湿った空気が表現されており、瑞々しく清潔な色彩や種子のたおやかな雰囲気との調和を醸し出しています。

 また、彼女の手に持つ団扇には萩の花がさりげなく描かれている点にも注目したいところです。

 清綱の詠んだ和歌では、萩の花は「恋人を待つ情趣」の象徴として用いられており、当然、清輝もそのことを踏まえて萩の団扇を描いています。もちろん、そこには、自分たちの結婚を認めない清綱に対する抗議の意味も込められていたとみるのが自然でしょう。

 完成した作品は「避暑」の題名で、同年の第2回白馬会展に出品され、1900年のパリ万国博覧会への出品に際して「湖畔」と改題されました。

 なお、清輝は1924年に57歳で亡くなりますが、未亡人の照子(入籍後、種子から改名)は、切手が発行された1967年の時点では93歳の高齢ながら健在で、東京・北沢の姪の家に同居していました。発行日の4月20日には郵務局長の曽山克巳が彼女の自宅を訪れて切手を贈呈。そのようすはテレビのニュースでも取り上げられ、大いに話題となっています。

 それから3年後の1970年2月13日、照子は96歳の大往生を遂げました。訃報記事での彼女の肩書は、いずれも「黒田清輝の妻、『湖畔』のモデル」でした。


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