2014-08-15 Fri 13:33
きょう(15日)は、拙著『朝鮮戦争』の奥付上の刊行日です。というわけで、プロフィール画像にも使っている表紙カバーで取り上げた葉書についてご説明しましょう。
これは、1958年に来た北朝鮮で発行された“朝鮮人民軍創建10周年”の記念葉書の見本(印面部分にその旨のハングルの印が押されているほか、パンチ穴が開けられています。ただし、表紙カバーでは穴の部分をふさいでいます)です。葉書の印面に取り上げられているのは“国旗勲章”で、単色のイラストでは識別できないのですが、実物の勲章は、中央の星の周囲が国旗の色と同じ赤色と藍色で装飾されています。そのデザインは、1945年にソ連が対独戦の勝利を記念して制定した“祖国戦勝勲章”のデザインと酷似しており、こうしたところからも、当時の北朝鮮に対するソ連の影響力の大きさをうかがい知ることができます。 さて、北朝鮮における軍事組織は、解放直後の1945年10月、ソ連占領軍による駐留日本軍の武装解除と2000名からなる“保安隊(隊長は金日成)”の創設が最初となります。その後、同年11月、占領下の地域行政機関として北朝鮮五道行政局が設置されると、その一部局として「保安局」が設置されたほか、これに先立ち、10月には早くも新義州で航空隊が創設されています。 さらに、1946年になると、1月に五道行政局の傘下に鉄道施設の保護を目的とした鉄道保安隊(同年7月、鉄道警備隊に改編)が組織されたほか、同年7月には水上保安隊が、翌8月には海岸警備隊が、それぞれ組織されました。これらが、後の朝鮮人民軍の母体となります。 一方、1946年2月には幹部養成のための平壌学院(ただし、1945年11月創立説もあります。1949年に第2軍官学校と改称)が、6月には保安訓練所が、7月には軍事指揮官を養成するための中央保安幹部学校(1949年に第1軍官学校と改称)が、それぞれ創設され、政府・軍隊の正式発足前に軍幹部の養成も開始されました。 さらに、解放1周年にあたる1946年8月には、実質的な軍司令部として保安幹部訓練大隊部が創設されるとともに、北朝鮮労働党の創立にあわせて「民族軍隊組織と義務的軍事徴兵制を実施すること」が確認されています。 1947年に入ると、ソ連からの軍事援助が本格的に到着するようになり、5月には全将兵に階級章が付与軍されるとともに、保安幹部訓練大隊部も人民集団軍に改編。そして、1948年2月4日、北朝鮮人民委員会の下に民族保衛局が設置されると、これを受けて同月8日、人民集団軍は朝鮮人民軍に改称され、同年9月の朝鮮民主主義人民共和国政府の正式成立以前に“国軍”が誕生しました。 ちなみに、北朝鮮では、金日成から金正日への権力世襲の過程で、満州での金日成の抗日武装闘争の経歴が誇張して宣伝されるようになった結果、1978年以降、朝鮮人民軍のルーツは“朝鮮人民革命軍”(金日成の抗日遊撃隊)に求められるようになり、建軍記念日も、本来の1948年2月8日から、朝鮮人民革命軍が結成されたとされる1932年4月25日(ただし、これは北朝鮮当局がそう主張しているだけであって、資料的な裏付けはありません)に変更され、現在に至っています。 今回ご紹介の葉書は、1948年の(本来の)朝鮮人民軍創建から10周年になるのを記念して発行されたもので、朝鮮戦争時に朝鮮人民軍がソウルを占領し、人民軍の兵士が中央庁の屋上に北朝鮮国旗を掲げている場面が描かれています。 1950年6月25日に南侵を開始した朝鮮人民軍は、奇襲攻撃の利を活かして進撃を進め、同月28日、ついにソウル市街の一角に突入します。 当時、朝鮮人民軍の首都(当時は、北朝鮮側も建前としてはソウルを首都としていました)侵攻に対して、韓国軍の蔡秉徳参謀総長は、漢江に架かっていた漢江大橋と広壮橋、それに複線2本・単線1本の鉄道橋の爆破を命令。朝鮮人民軍の進撃を少しでも遅延させようとしました。 しかし、このプランには、ソウル以北の韓国軍部隊の撤退やソウル市民の避難をどうするのかという視点が欠落していました。このため、蔡は、いったん、爆破の延期を決定したものの、混乱の中で司令部と現場との連絡が不首尾に終わり、漢江大橋と2本の鉄道橋が予定通り爆破されてしまいます。この爆破により、橋の上にいた数百人の将兵・市民等が犠牲になったほか、ソウルの外郭を防衛していた韓国軍主力も士気を失い、なだれをうって崩壊。韓国側の極度の混乱状況の中で、開戦からわずか3日で、ソウルは朝鮮人民軍の前に陥落。中央庁に北朝鮮国旗が翻ることになりました。 このあたりの事情につきましては、拙著『朝鮮戦争』で詳しくご説明しておりますので、機会がありましたら、ぜひご覧いただけると幸いです。 ★★★ 講演会のご案内 ★★★ ~韓国文化院 講演会シリーズ2014 『韓日交流史』~ 第9回は内藤陽介「韓国の切手でひも解く韓国近現代史」 です! ◇日時:2014年9月5日(金) 開場 18:30 開演 19:00 ◇会場:韓国文化院 ハンマダンホール ◇募集人員:300名様(お申し込みはお一人様2名まで) ◇入場無料(事前のお申込みが必要です) ◇主催・お問い合わせ先:駐日韓国大使館韓国文化院 03-3357-5970 ■ 韓国文化院のホームページ・トップの 「イベント応募コーナー」欄(こちらをクリックしてください)からお申し込みいただけます。たくさんの皆様のお申し込みを心よりお待ち申しております。 ★★★ 内藤陽介の最新刊 『朝鮮戦争』好評発売中! ★★★ お待たせしました。約1年ぶりの新作です! 本体2000円+税 【出版元より】 「韓国/北朝鮮」の出発点を正しく知る! 日本からの解放と、それに連なる朝鮮戦争の苦難の道のりを知らずして、隣国との関係改善はあり得ない。ハングルに訳された韓国現代史の著作もある著者が、日本の敗戦と朝鮮戦争の勃発から休戦までの経緯をポスタルメディア(郵便資料)という独自の切り口から詳細に解説。解放後も日本統治時代の切手や葉書が使われた郵便事情の実態、軍事郵便、北朝鮮のトホホ切手、記念切手発行の裏事情などがむしろ雄弁に歴史を物語る。退屈な通史より面白く、わかりやすい内容でありながら、朝鮮戦争の基本図書ともなりうる充実の内容。 本書のご注文は版元ドットコムへ。同サイトでは、アマゾン他、各電子書店での注文ページにリンクしています。また、主要書店の店頭在庫も確認できます。 ★★★ ポストショップオンラインのご案内(PR) ★★★ 郵便物の受け取りには欠かせないのが郵便ポストです。世界各国のありとあらゆるデザインポストを集めた郵便ポストの辞典ポストショップオンラインは海外ブランドから国内製まで、500種類を超える郵便ポストをみることができます。 |
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