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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 アチェのジャングルに潜む
2013-07-09 Tue 10:07
 インドネシア・スマトラ島アチェのグヌン・レウセル国立公園で、スマトラトラに追われて木の上に逃げていた男性5人が5日ぶりに救助されました。というわけで、現在制作中の拙著『蘭印歴史紀行』(仮)のなかから、アチェのジャングルに関係するモノは何かないかと探してみたら、こんなモノがありました。(画像はクリックで拡大されます)

       ジャングルのアチェ兵

 これは、いわゆるアチェ戦争末期の、オランダ軍に抵抗してジャングルで戦っていたアチェ兵(写真はおそらく投降した時に撮影されたものでしょう)を取り上げた1910年の絵葉書です。

 1819年、英国東インド会社のトマス・ラッフルズがシンガポールを拠点として確保すると、オランダはこれに猛反発。このため、1824年、いわゆる英蘭協定が成立し、マラッカの利権と北アチェでの平等な交易権を英国に保証するのと引き換えに、スマトラ島におけるオランダの支配権が認められることになります。ただし、この段階でも、アチェ王国の独立は一応保障されていました。

 ところが、オランダの支配がスマトラ島を北上していくとともに、スエズ運河が開通してアチェ沖が国際航路として重要性を増すようになると、1871年、英国はフランスやドイツの介入を防ぐための次善の策としてオランダに対してアチェにおける“行動の自由”を承認。これを受けて、1873年3月、オランダはアチェ王国に対する侵攻を開始します。

 いわゆるアチェ戦争の勃発です。

 当初、在地のウレーバラン(地方領主)はスルターンのマフムード・シャーの下に団結し、1873年4月にはいったんオランダ軍を撃退します。ところが、同年12月にオランダが再侵攻し、激戦の末に首都クタ・ラジャ(現バンダ・アチェ)が陥落。このため、マフムード・シャーはクタ・ラジャを脱して山間部に撤退したましが、翌1874年1月、コレラに罹って亡くなりました。

 その後も、アチェ側は新スルターンとしてムハンマド・ダウト・シャーを擁立して抵抗を続けますが、戦況は次第に不利になっていき、1878年までに、オランダはアチェの主要都市をほぼ制圧します。

 これに対して、1880年代以降もチック・ディ・ティロら徹底抗戦を主張するウラマー(もともとは“知識ある者たち”を意味するアラビア語で、イスラム諸学に通じた学者・知識人ないしはその集団を指す。実態としては、いわゆるイスラム法学者とほぼ同義)は農民を動員してゲリラ戦を展開。これにテウク・ウマルら新興領主も加わってことで、クタ・ラジャ周辺の防御線の外側には、なかなかオランダの統制が及ばない状況が続きました。

 1890年代に入ると、オランダはウレーバランを懐柔してウラマーの封じ込めに乗り出し、1903年にスルターンと抵抗派の領主を降伏させ、アチェ王国は事実上滅亡します。ただし、その後もスルターンは退位せず(1907年に没)、ウラマーの一部は、今回ご紹介の葉書のように、ゲリラ戦による抵抗活動を継続。最終的にオランダが彼らの組織的抵抗を鎮圧したのは、1912年のことでした。

 さて、今回の事件ですが、地元の男性6人が希少な香木を求めて今月2日に国立公園の敷地内に入り(これはこれでまずいんじゃないかと思いますが…)、食事用のシカを獲る罠を仕掛けたところ、4日になって、誤ってトラの子供が罠にかかって死んでいたそうです。そこで、これに怒ったトラ数頭が男性たちを襲い、28歳の男性1人が死亡。残る5人は木の上に逃れていましたが、地元住民から連絡を受けた景観・兵士からなる30人の救助隊が6日、現場に向けて出発し、このほどようやく救助されたそうです。

 まぁ、現場は、国立公園の敷地内で昔からの自然環境が残っている場所でしょうから、おそらく、今回ご紹介の絵葉書の背景にあるような風景の中を皆さん、進んでいったのでしょうね。

 なお、現在、夏の終戦商戦にあわせて、8月上旬の刊行を目指している『蘭印戦跡紀行(仮)』ですが、今週中にも表紙カバーの最終デザインを決める予定です。正式なタイトルや発売日、定価などが確定しましたら、逐次、このブログでもご案内してまいりますので、よろしくお願いします。


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