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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 切手に描かれたソウル:馬術
2012-10-27 Sat 23:24
 『東洋経済日報』10月26日号が刊行されました。僕の月1連載「切手に描かれたソウル」では、“乗馬ダンス”を取り入れた韓国人歌手PSY(サイ)の「江南スタイル」のミュージックビデオが動画投稿サイトYou Tubeで約5億回という驚異的な再生回数を記録したことにちなみ、ソウルでの馬術史を取り上げました。その記事の中から、この切手をご紹介します。(画像はクリックで拡大されます)

         ソウル五輪・馬術競技

 これは、ソウル五輪に先立つ1986年3月25日、五輪の資金を集めるために発行された寄付金つき切手のうち、馬術競技が取り上げた1枚です。

 馬術競技の頂点は競馬ですが、韓国における競馬の歴史は1898年5月に行われたロバの競争から始まるといわれています。まぁ、ロバの競争を“競馬”のうちに含めることが妥当かどうかはいろいろと議論もあるのでしょうが、ともかくも、日本統治時代以前から、一応、近代競馬に類するものが行われていたということにしたいということなのでしょう。

 馬券の売買を伴う競馬は、日本統治時代の1920年、ジョセオン競馬場で行われたのが最初で、1922年には社団法人朝鮮競馬倶楽部が設立されています。

 本格的な競馬場としては、1928年に東大門区の新設洞に建設された新設競馬場が最初で、1933年には半島各地の9競馬場を傘下に置く朝鮮競馬協会が設立され、朝鮮競馬令に基づき、全国の非法人競馬団体による競馬は禁止され、いわゆる近代競馬が制度的に整えられました。

 朝鮮競馬協会は、1942年に朝鮮馬事会に改組され、1945年の解放を経て、1948年に大韓民国が発足したことを受けて、1949年、韓国馬事会(KRA)となりました。これが、現在の韓国における競馬主催団体です。

 1950-53年の朝鮮戦争では共産側の攻撃により、各地の競馬施設は破壊され、競走馬のみならず繁殖用も含め、多くの馬が北側に持ち去られるなどしたため、競馬の開催も休止を余儀なくされましたが、1953年に休戦になると、翌1954年から競馬も再開。5月8日の最初のレースでは、出走した馬の大半はポニーだったといわれています。

 競馬の再開にあたり、競馬場は新設洞から漢江北岸のトゥクソムに移転。以後、ここが、いわゆる競馬を含む韓国馬術競技の中心地となりました。

 ちなみに、ソウルメトロ2号線のトゥクソム駅は、1983年9月16日に開業しましたが、当初、駅名は“競馬場前”となる予定でした。しかし、この時点ではすでに、競馬場の移転が計画されていたため、現在の駅名になったそうです。

 トゥクソムから競馬場が移転することになったのは、1988年のソウル五輪に合わせて国際規格の競技施設が必要となったためで、新たな競技場はソウル市の南に隣接する果川市に建設されました。果川の施設は、1986年のアジア大会と1988年の五輪大会の馬術競技が行われた後、1989年9月、周辺一帯を含めてソウル競馬公園(いわゆるソウル競馬場は、その敷地内にある)としてオープンしました。

 ちなみに、ソウル五輪の馬術競技には、今年のロンドン五輪にも最高齢選手として出場し話題となった法華津寛選手が馬場馬術で出場する予定でしたが、ソウルへの出発前、愛馬が名古屋の検疫所で検査を受けたところ、抗体反応が陽性と出たことから、他の馬に感染する恐れのあるウィルスが馬体に潜伏している疑いがもたれ、日本から出国できなくなり、残念ながら出場を断念するという出来事がありました。

 なお、競馬公園の最寄り駅となる、韓国鉄道公社(KORAIL)果川線(4号線)競馬公園駅は、当初の建設計画にはなかった駅だが、KRAの依頼により、KRAが建設費用を全額負担することで建設されました。1994年の開業当時は“競馬場”という駅名でしたが、賭博のイメージが強すぎるとして、2000年、現在の駅名(競馬公園駅)に改称されています。

 果川の競馬場がオープンすると、トゥクソムの競馬場は廃止され、その跡地は、“トゥクソム乗馬訓練院”として、“ソウルの森公園”の一部に組み込まれました。乗馬訓練院は気軽に乗馬体験ができる施設として一般に開放されているのですが、レッスンは韓国語でしか行われていないため(外国語対応のコースはなし)、日本人観光客の場合は経験者ではないと騎乗は受け付けられません。

 今回ご紹介の切手については、原画の制作時期には、まだ、果川のコースは工事中だったでしょうから、切手のデザイナーは、トゥクソムで取材して原画を作成したのではないかと思います。ただし、過去のいきさつを知らない人が見たら、五輪の記憶ともあわせて、現在のソウル競馬場を連想するかもしれません。

 いずれにせよ、PSYのミュージックビデオの“乗馬ダンス”は、江南に住む金持ち(のお坊ちゃま)を“乗馬をする人”というイメージで表現したそうですが、ソウルにおける馬術と競馬の歴史を調べてみると、実は、いわゆる江南エリアは馬術とは縁が薄いことがわかります。まぁ、トゥクソムにしても果川にしても、江南から通えないという場所ではありませんので、江南のお坊ちゃまが馬術のために通っているのだと言われてしまえば、それまでなのですが…。

 さて、かねてご案内の通り、10月30日から、よみうりカルチャー(読売・日本テレビ文化センター)荻窪で、“T-moneyで歩くソウル歴史散歩”と題する一般向けの教養講座を行います。30日の授業では、ソウルの紅葉(黄葉)スポットについてのお話が中心となる予定ですが、今回ご紹介した内容を含めて、適宜、タイムリーなネタもいろいろとご紹介したいと思っておりますので、よろしかったら、ぜひ遊びに来てください。(詳細は下記ご案内ならびにリンク先ページをご覧ください)


 ★★★  T-moneyで歩くソウル歴史散歩 ★★★
   
・よみうりカルチャー荻窪
 10月30日、12月4日、1月29日、2月5日、3月5日 13:00-14:30

 8月の韓国取材で仕入れたネタを交えながら、ソウルの歴史散歩を楽しんでみようという一般向けの教養講座です。詳細につきましては、青色太字をクリックしてご覧いただけると幸いです。皆様のご参加を心よりお待ちしております。


 ★★★ イベントのご案内 ★★★

 ・11月3日(土) 10:15- 切手市場
 於 東京・池袋 東京セミナー学院
 詳細は主催者HPをご覧ください。新作の『喜望峰』を中心に、拙著を担いで行商に行きます。 会場ならではの特典もご用意しておりますので、ぜひ、遊びに来てください。

 ・11月10日(土) 11:00- 全国切手展<JAPEX>
 東京・池袋で開催される全国切手展<JAPEX>会場内で、拙著『喜望峰』刊行記念のトークイベントを予定しております。よろしかったら、ぜひ遊びに来てください。なお、詳細は主催者HPをご覧いただけると幸いです。


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