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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 普天堡事件75年
2012-06-04 Mon 22:51
 抗日ゲリラ時代の金日成の唯一の戦闘実績とされる“普天堡戦闘”が1937年6月4日に起こってから、きょうでちょうど75年です。というわけで、きょうはこの切手です。(画像はクリックで拡大されます)

        普天堡銅像

 これは、1959年6月4日に北朝鮮で発行された“普天堡戦闘勝利22周年”の記念切手のうち、戦闘の現場に建てられた金日成の銅像を取り上げた1枚です。北朝鮮では、普天堡戦闘を題材とした切手を数多く発行していますが、今回ご紹介のモノは、その最初のものとなります。なお、この切手と同時に発行された口号木の切手は、以前の記事でもご紹介したことがありますので、よろしければ、こちらをご覧ください。

 後に北朝鮮の“首領様”となる金日成こと金成柱は、1932年頃から、コミンテルンの一国一党原則に従い、中国共産党の指導下で、豆満江沿岸で抗日パルチザンを組織して抗日武装闘争を展開したといわれています。

 このパルチザン時代の最大の“功績”とされているのが、1937年6月4日に起きた普天堡事件です。

 この日、金成柱ひきいるパルチザン部隊は、朝鮮と満洲国の国境地帯、咸鏡南道(現在の北朝鮮の行政区分では両江道)の甲山郡普天面保田里(普天堡)で駐在所を襲撃。当時、駐在所には2人の朝鮮人を含む5人の警察官がいましたが、犠牲になったのは警察官ではなく、彼らのうちの1人の妻と幼子でした。

 金成柱らは駐在所から武器弾薬を奪った後、面事務所(村役場)や郵便局も襲い、書類に火を放ちましたが、その火は近隣の小学校にも延焼しています。さらに、近隣の商店と住宅も襲撃に遭い、現金合計4000円(当時としてはそれなりの大金である)が奪われました。

 襲撃後、金成柱らはいったん満洲方面に引き上げましたが、翌日、日本の警察が追撃したところへ引き返して銃撃戦になり、日本側は7名の警察官が殉職しています。

 当時の普天堡は人口1400人弱の寒村でしたが、鉄道・恵山線の終点、恵山鎮に近いことから、日本側は鉄道に対するテロを警戒し、事件の首謀者である金成柱は2000円(最終的には2万円に増額)の懸賞首となりました。

 普天堡事件は、文献記録で確認できる限り、“金日成”と日本の官憲との唯一の直接の戦闘であり、北朝鮮は、この戦闘を若き“首領様”の最大の業績として喧伝しています。今回ご紹介の切手の銅像も、金日成の権力基盤が確立されていく過程で、1955年8月7日、戦闘の現場に建立されたものです。

 もっとも、事件の概要を冷静に見るかぎり、彼らの行動は単なる強盗・放火・殺人事件にしかみえませんな。しかも、朝鮮解放のための抗日の戦いという美辞麗句とは裏腹に、事件によって、朝鮮人の商店・住宅や地元の小学校も少なからず被害に遭っているわけで、当時の朝鮮人にしてみれば“ありがた迷惑”以外のなにものでもないといえましょう。まぁ、金一族とそれに連なるエリートたちが潤えば、あとは「汝人民飢えて死ね」というのが現在のかの国の基本的な姿勢ですから、人民の被害なんてなんとも思っていないということなんでしょう。

 さて、当然のことながら、事件後、当時の朝鮮の治安に責任を負う立場の日本側は、朝鮮内における非合法独立活動の取締りを強化。1937年10月には、共産ゲリラ勢力の指導者を一網打尽に逮捕する恵山事件が起こり、満洲との国境地帯での抗日武装闘争は事実上、不可能になりました。

 その結果、金日成らはソ連領内に逃れ、祖国へ凱旋する日を夢見つつ、ハバロフスク近郊のヴャツコエで軍事訓練を受けるようになるのですが、そのあたりの事情については、拙著『ハバロフスク』で現在のヴャツコエの写真と共にご説明しておりますので、機会がありましたら、ぜひご覧いただけると幸いです。

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