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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 ガガーリン切手の謎
2011-04-12 Tue 16:38
 ソ連(当時)のユーリ・ガガーリンが1961年4月12日に人類初の有人宇宙飛行を行ってから、きょうでちょうど50年です。というわけで、きょうは数あるガガーリン切手の中からこんなモノを持ってきました。

     ルーマニア・ガガーリンMC

 これは、1961年にルーマニアで発行されたガガーリンの顕彰切手をソ連製の絵葉書に貼り、“発行初日”と表示されたルーマニアの消印を押して作られたマキシマムカードです。

 ガガーリンは、1961年4月12日午前9時7分、ボストーク3KA-2(ボストーク1号)でバイコヌール宇宙基地を飛び立ち、地球を1周した後、10時25分に逆噴射をかけて大気圏に再突入。高度7000mからパラシュートで降下し、無事帰還を果たしました。

 人類初の有人宇宙飛行の成功と同時に、ソ連当局は東西冷戦における自国の優位を示すものとしてこれを大々的に宣伝しましたが、準備段階では、計画は極秘裏に進められていました。ちなみに、ガガーリンは飛行中(帰還後ではなく)に中尉から少佐に二階級特進したことを告げられていますが、そこには、彼が無事に帰還できない可能性が少なからずあると判断したソ連当局の“温情”があったとも言われています。したがって、不幸にして彼が無事に帰還できなかったときには、事前に用意されていた切手もすべて破棄されていたことでしょう。

 結局、ガガーリンが無事に帰国したことを確認して、ソ連は人類初の有人宇宙飛行の成功を記念する切手を発行します。今回ご紹介のマキシマムカードに使われている絵葉書も、それにあわせて製造されたものですが、記念切手ともども、その実際の発行日をどう考えるかということは、ちょっと厄介な問題です。

 おそらく、ソ連当局の公式な記録では、飛行当日の4月12日に切手が発行され、即日、各地の郵便局で売りさばかれたということになっているのでしょうが、前日の4月11日まではソ連の一般国民はガガーリンのことを全く知らされておらず、各地の郵便局にも記念切手は配給されていなかったと考えるのが自然です。そうすると、飛行成功が確認されてすぐに切手の配給を始めたとしても、最短で4月12日の午後にならないと郵便局の窓口で売り出すことは不可能でしょう。

 ちなみに、スコットカタログではソ連のガガーリン切手は4月15日発行の切手と22日発行の切手の間で、日付不詳の4月発行としてリストされていますが、僕自身は、ソ連のガガーリン切手を貼った4月19日付の“初日カバー”を見たことがあります。まぁ、妥当な日付でしょうが、はたして、その日がホントに発売初日なのかどうかは確定できません。いずれにせよ、現在残されているソ連のガガーリン切手の“初日印”は、大半が飛行当日に当たる4月12日付ですが、それらが後押しであることはほぼ間違いなさそうです。

 このように、当事者のソ連でさえ、4月12日にガガーリン切手を発行することは事実上不可能だったわけですから、他の共産圏諸国が4月12日にガガーリン切手を発行することはありえません。ところが、今回ご紹介のマキシマムカードの消印は1961年4月12日となっており、後押しであることは明白です。

 また、自国民にさえガガーリンのことを秘匿していたソ連当局が、友好国(衛星国)とはいえ東欧諸国に対して、それも、切手制作のスタッフに情報を事前に流すとは考えにくいですから、今回ご紹介のルーマニアを含め、共産圏諸国はガガーリンの飛行成功のニュースを確認してから、ガガーリン切手の制作を開始したと考えるのが妥当だと思われます。そうすると、飛行から1週間後の4月19日にルーマニアが、今回ご紹介のガガーリン切手を発行したとするスコット・カタログの説明も、ルーマニア当局の公式発表がどうなっているかはともかく、「ホントかな?」と疑いたくなりますな。ちなみに、ルーマニアで出ているルーマニア切手のカタログにもあたってみたのですが、こちらでは、発行年の記述はあっても月日は記されていませんでした。やはり、ルーマニアのガガーリン切手がいつから現地の郵便局で実際に発売されたのか、本当のところを確定するのは難しそうです。

 ちなみに、ガガーリンが1968年に飛行訓練中の事故で亡くなった時の詳細が公表されたのでさえ、ごく最近のことでした。ガガーリン研究の世界では、傍流も傍流というべき記念切手発行の状況については、人々の関心も向きにくいでしょうから、いまなお多くの謎が残されているのも無理からぬことかもしれませんね。

 なお、共産主義時代のルーマニアとその切手については、拙著『トランシルヴァニア/モルダヴィア歴史紀行』でも、現地の旅行記とあわせていろいろとご紹介しております。機会がありましたら、ぜひ、ご覧いただけると幸いです。
 

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この記事のコメント
末期はボロボロで見る影も無かったソ連でしたが、60年代はソ連が輝いて見えた時代でしたね。そしてその象徴が人類初の有人宇宙飛行に成功したガガーリンでした。そのガガーリンが乗っていた宇宙ロケットがボストークでしたが、その名前は未だに郵趣協会が出しているボストークアルバムに残っています。60年代に郵趣協会が著しく左傾していたのは前にも述べましたが、ボストークアルバムはやたらにソ連や中国を賞賛していた当時の郵趣協会の名残りですね。おそらく、当時の郵趣協会の関係者がこの“偉業”に感激してアルバムの名前に冠したのでしょう。長年使っているので特に気に止めませんでしたが、ボストークアルバムの名は郵趣協会のあまり好ましくない一時代を今に伝えているんですね。
2011-04-13 Wed 10:33 | URL | アルファ #-[ 内容変更] | ∧top | under∨
 アルファ様
 水原さんは息子に“宙一”と名付けたくらい、宇宙も好きでしたからねぇ。そういえば、アポロの月の郵便局のカバーをJAPEXに借りてきたこともありましたな。
2011-04-24 Sun 10:08 | URL | 内藤陽介 #-[ 内容変更] | ∧top | under∨
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