2011-03-28 Mon 23:35
きのう(27日)投開票が行われたドイツ南部バーデン・ビュルテンベルクの州議会選挙で、“反核”や“反原発”の環境政党を標榜する緑の党が得票率24.2%で第2党に躍進。第3党の社会民主党との左派連立により、ドイツ史上初の環境政党出身の州首相が誕生することがほぼ確実となりました。というわけで、きょうはこの切手です。(画像はクリックで拡大されます)
これは、1950年に東ドイツで発行された反戦キャンペーン切手のうち、“反核”を取り上げた1枚です。 東西冷戦下において、核戦争の脅威が語られるようになると、さまざまな反核運動が展開されましたが、その多くは、アメリカや西側の核を非難するものの、中ソの核に対しては「自衛のために最小限必要なもの」などと称してほとんど批判をしないという奇妙なものでした。それもそのはずで、そうした反核運動には、東側諸国が国際世論を誘導するために背後で操っていたプロパガンダ工作だったという側面が少なからずありました。 日本でも、1970年代後半から80年代にかけて、“反核”という言葉が左派系市民運動の世界でクローズアップされていくことになりますが、その仕掛け役として重要な役割を果たしたのは、いわゆる“よど号”グループのメンバーとその支援者たちであり、その背後には北朝鮮の朝鮮労働党がいました。“ダイ・イン”と称して地面に寝転び“死んだふり”をする奇怪なパフォーマンスが流行ったことをご記憶の読者もあるかもしれませんが、あのパフォーマンスも、実は、ウィーンを工作の拠点としていた“よど号”グループの関係者(彼らは、1970年に北朝鮮入りしてからずっと北朝鮮にいたわけではなく、しばしば、ヨーロッパなどに出張し、日本人拉致などのさまざまな工作活動に従事してきました)が、日本に持ち込んだものといわれています。 さて、バーデン・ビュルテンベルク州の首相の座をほぼ手中に収めたドイツの緑の党は、もともとは保守系の市民が祖国ドイツの美しい自然を子々孫々に伝えていこうという趣旨で始まったもので、長らく、マイナーな保守系諸派の域を出ませんでした。 ところが、1960年代に左翼学生運動を展開してきた左翼過激派集団が、ベトナム戦争の終結後、“反戦”に代わって“環境”を持ち出してきたことから、緑の党の内部は、彼らを受け入れて党勢を拡大しようと考えるグループと、あくまでも保守団体としての矜持を守り、左翼勢力にはくみしないというグループが対立するようになります。特に、1979年11月4日にオッフェンバッハで行われた党大会で、左翼過激派の参加が認められるようになると、以後、大量の左派系活動家が相次いで入党。党の運営は実質的に左派に牛耳られるようになり、これに不満を持った保守系党員が1982年に脱退してドイツ独立環境党を創設すると、緑の党は完全に左派政党と化してしまいました。 すなわち、反原発と自然エネルギーの推進という彼らの主張は環境保護という観点から、まぁ(賛否は別として)理解できないこともないのですが、彼らが掲げてきた反核、反軍国主義、反NATO、“平和主義、移民規制反対、反中絶、マリファナ使用の自由化、同性愛者の権利向上などは、環境問題とは全く無関係の左派・リベラル勢力の主張にすぎません。これでは、真の意味での環境保護を考える保守系の人たちが出ていくのは当然ですし、どこが“環境政党”なんだと素朴な疑問を感じますな。 今回、福島原発の事故が起こると、彼らは「それみたことか」とドイツ国民の不安を煽るだけ煽り、投票日前日には25万人を動員した(と彼らは主張する)反原発の大集会を開催し、反原発を錦の御旗として選挙での躍進を果たしましたが、それでは、原発を廃止した場合の代替エネルギーをどうやって確保するのかという点については、なんら現実的な提案をしていません。また、彼らの主張する“反原発”は、あくまでもドイツ国内の原発に限られており、フランス国内の原発によって作られた電力を購入することについては必ずしも否定されていないというご都合主義ぶりです。 福島原発の事故以降、わが国でも、世論は反原発・脱原発の方向に大きく傾いているようですが、はたして原発に代わる発電方法をどうやって確保するのか、説得力のある代案が提示されているようには思えません。あるいは、電力供給がへればそれに見合った“エコな生活”をすれば良いという人もいるでしょう。そう主張する人が個人の主義主張や趣味嗜好で個人的に“エコな生活”をなさることについては、僕は決して止めはしませんが、喫緊の課題である被災地復興のためには十分な電力を確保しなければならないはずです。そのためには、まずは、無駄を省きつつも、使えるものは何でも(もちろん原発も含めて)使うという、總動員体制が電力においても必要なのではないでしょうか。 もちろん、今後の原発建設については、今回の事故の経験も踏まえて慎重に議論を進めるべきですが、反原発・脱原発のムードを利用して、反原発を隠れ蓑にした怪しげな集団が跋扈することのないよう、十分に気をつけなければならないと思います。 なお、反核や環境保護を唱える一部の国家や団体のいかがわしさについては、拙著『事情のある国の切手ほど面白い』でもいろいろと実例を挙げてご説明しておりますので、機会がありましたら、ぜひご覧いただけると幸いです。 【無錫アジア展のご案内】 僕が日本コミッショナーを仰せつかっているアジア国際切手展 <China 2011> の作品募集要項が発表になりました。くわしくはこちらをご覧ください。 ★★★ 内藤陽介の最新刊 ★★★ マカオ紀行:世界遺産と歴史を歩く 彩流社(本体2850円+税) マカオはこんなに面白い! 30の世界遺産がひしめき合う街マカオ。 カジノ抜きでも楽しめる、マカオ歴史散歩の決定版! 歴史歩きの達人“郵便学者”内藤陽介がご案内。 全国書店・インターネット書店(amazon、bk1、boox store、coneco.net、DMM.com、HMV、JBOOK、livedoor BOOKS、Yahoo!ブックス、カラメル、紀伊国屋書店BookWeb、ゲオEショップ、ジュンク堂、セブンネットショッピング、丸善、楽天ブックスなど)で好評発売中! |
#1982 原発事故を大喜びしている連中
日本にもこの原発事故を「それみたことか」と大喜びしている唾棄すべき連中が少なからずいますね。社民党や共産党のような落ち目のサヨク政党や反核、環境保護を隠れミノにしたウサン臭いサヨクの連中です。特に社民党は今になって「社民党は長年原発に反対してきた」と後出しジャンケンのような調子のいい主張を繰り広げて、これを党勢挽回の最後のチャンスにしようと躍起になっています。もっとも、社民党は日本の原発に反対しても、愛する北朝鮮の原発建設は賛成していたのですから、この調子のいい主張も全く説得力がありませんが・・・。
#1983 とはいえ
こういう時だからこそ、この国に暮らす者たちが一時的にせよ右翼も左翼も無い、主義主張を超えて踏ん張らなきゃならないと私は思うんですがね。でも所詮は甘い考えですかそうですか。投げやりな物言いですみません。
#1987 コメントありがとうございます
・アルファ様
社民党の党勢挽回ねぇ。まぁ、エイプリル・フールですから、きょうは。 ・まちえ様 誤解のないように申し上げておきますが、僕も基本的には現状では立場の違いを超えて挙国一致で行くべきだと思っています。 ただ、残念ながら、この状況を利用(悪用)して、自分たちの主義主張を拡散させようという輩が少なからずいることもまぎれもない事実です。今回の記事の趣旨は、みんなで協力すべきことは協力するにしても、そうした連中に騙されないよう注意が必要だという趣旨とご理解いただければ幸いです。 |
|
||
管理者だけに閲覧 | ||
|
| 郵便学者・内藤陽介のブログ |
|