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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 チェルノヴィッツ/チェルニウツィー
2010-02-08 Mon 14:33
 昨日(7日)行われたウクライナ大統領選挙の決選投票は、ヤヌコビッチ前首相が勝利宣言を行い、ティモシェンコ首相に辞任を求める結果となりました。というわけで、ウクライナがらみのマテリアルです。(画像はクリックで拡大されます)

      チェルノヴィッツ葉書

 これは、1905年4月、ハプスブルク支配下のチェルノヴィッツ(現・ウクライナ領チェルニウツィー)から差し出された葉書です。

 カルパティア山脈とドニエストル川に挟まれたブコヴィナ地方は、1775年以降、ハプスブルク帝国の支配下に置かれ、ドイツ語名でチェルノヴィッツと呼ばれていた都市がブコヴィナ州の州都となりました。今回ご紹介の葉書は、ハプスブルク支配下のチェルニウツィーから差し出されたもので、オーストリア切手が貼られ、ドイツ語風に“チェルノヴィッツ”と表示された消印が押されています。

 これに対して、第一次大戦でドイツ、オーストリアが降伏すると、その直後の1918年11月28日、ブコヴィナの人々はチェルニウツィに集まり、ブコヴィナとルーマニア王国との統一を決議。これは、翌1919年のサンジェルマン条約(オーストリアに対する講和条約)で認められ、ブコヴィナは正式にルーマニア領となり、チェルノヴィッツはルーマニア語でチェルナウツィと呼ばれるようになりました。

 しかし、大戦勃発直前の1939年8月23日に結ばれた独ソ不可侵条約と、9月1日の開戦を経て同月28日に結ばれた独ソ境界・友好条約を経て、ソ連はルーマニア東部、ベッサラビアを勢力圏とする密約が結ばれ、フランス降伏翌日の1940年6月23日、ソ連は独ソ不可侵条約の密約に基づいてルーマニア領ベッサラビアを併合するとともに、突如、ブコヴィナの割譲も要求しました。

 ブコヴィナは帝政ロシアの時代にもロシア領となったことはなく、密約の範囲を超えたソ連の要求に対してはドイツも抗議しましたが、結局、ブコヴィナ地方のうちウクライナ系住民の多い北ブコヴィナ(チェルナウツィ県)のみをソ連に割譲することで独ソの妥協が成立。同月26日、ソ連から24時間の時限つきで最後通牒を突きつけられたルーマニアは、翌27日、これを受け入れ、28日にはソ連軍が北ブコヴィナに進駐します。そして、8月2日、ソ連は北ブコヴィナを南部ベッサラビアと合わせて、連邦を構成するウクライナ・ソビエト社会主義共和国に割譲しました。このときひかれた境界線が現在のルーマニアとウクライナとの国境となり、チェルナウツィーはロシア語でチェルノフツィーないしはウクライナ語でチェルニウツィーと呼ばれるようになります。

 その後、1941年に独ソ戦が始まると、ドイツ・ルーマニアの連合軍がブコヴィナに進攻しこの都市は再びルーマニアの支配下に入りますが、1944年、ソ連が再奪還。以後、1991年にウクライナが独立するまで、ソ連の支配下に置かれていました。ちなみに、現在のウクライナ領チェルニウツィーは、同州の州都となっています。 

 なお、ブコヴィナをめぐるハプスブルク帝国、ルーマニア、ソ連、ウクライナの複雑な関係については、拙著『トランシルヴァニア/モルダヴィア歴史紀行』でも解説しておりますので、機会がありましたら、ぜひご覧いただけると幸いです。

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