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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 切手が語る宇宙開発史(3)
2009-08-14 Fri 21:16
 雑誌『ハッカージャパン』の9月号が出来上がりました。僕が担当している連載「切手が語る宇宙開発史」では、今回はこんな切手を取り上げました。(画像はクリックで拡大されます)

 スプートニク2号

 これは、1957年にソ連が発行したスプートニク2号打ち上げの記念切手です。

 1957年10月4日、ソ連は人工衛星スプートニク1号の打ち上げに成功しましたが、当初、ソ連の最高権力者であったフルシチョフは人工衛星の打ち上げを単純に科学技術上の問題と考えており、そのことの持つ軍事的ないしは政治的な意味をほとんど理解していませんでした。ところが、全世界が大騒ぎになるのを見た彼は、ただちに、事態の重大さを認識。国威発揚の手段として、すでに準備が進められていた2発目の衛星の打ち上げをロシア革命40周年の記念日(11月7日)までに行うよう指示します。

 最初の人工衛星打ち上げに成功した後、2発目の衛星では生物を宇宙に連れ出すことが目的とされましたが、そのための研究は早くも1949年にはスタートしていました。

 当初、衛星に乗せる実験動物の候補は猿と犬でしたが、最終的に、躾が容易で飢えにも強く、なおかつ、見栄えが良い(実験成功の暁には、大々的にそのことが報じられることを考慮してのことです)、などの理由から犬が採用となりました。そして、スペースの都合から、体重6キ以下、体長は35センチを越えない雌犬(排泄の時に片足を上げない)のうち、実験結果の撮影のために体色は白もしくは明るいもの、ロシア原産の種であること、などの条件で野良犬がかき集められます。

 その後、大気圏内での犬を乗せたロケット打ち上げ実験が繰り返され、集まったデータをもとに、巻き毛の“クドリャフカ”という名の犬が人工衛星スプートニク2号に乗って宇宙に飛び出すことになりました。ちなみに、この犬は“ライカ犬”という名前でも知られていますが、これは、ソ連側が犬種を“ロシアン・ライカ”と発表したことによるものです。

 さて、クドリャフカを乗せ、10日分の酸素と食糧と実験データを取るための各種の計測器を積み込んだスプートニク2号は、スプートニク1号の打ち上げから1ヵ月後の1957年11月3日、バイコヌール宇宙基地から打ち上げられ、記念切手も発行されました。

 ただし、このとき発行された記念切手には、打ち上げのハイライトともいうべき犬の姿はどこにも描かれていません。その代わりに、背景にクレムリンが描かれているあたりは、衛星の打ち上げが革命40周年の記念事業であったという事情を如実に反映しているといってよいでしょう。もっとも、クドリャフカに関しては、切手のデザイナーには実験の詳細な内容など知らされていなかっただろうし、クドリャフカの宇宙飛行は国家のために片道燃料で死地に向かう“特攻”のようなものだったから、動物愛護派の国際世論からの批判を恐れたということもあったのかもしれません。

 なお、スプートニク2号からの地上への通信は11月10日に途絶え、機体そのものも打ち上げ162日後の1958年4月14日に大気圏に再突入し消滅しましたが、打ち上げ後4周目にしてすでに衛星からの信号では生体反応は確認できなかったそうです。そのとおりだとすると、衛星はおよそ100分で地球を一周していましたから、6時間後にはすでにクドリャフカは死んでいたということになります。ただし、当時のソ連当局者はこの事実を隠蔽して、“ライカ犬”は一週間程度生きていたと発表しました。まぁ、このあたりは、いかにも共産圏といってしまえばそれまでですが。


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