2008-11-28 Fri 12:24
インドのムンバイ(ボンベイ)で現地時間26日夜(日本時間27日未明)、市中心部のターミナル駅や高級ホテルなどを狙った武装グループによる襲撃事件が発生。きょう未明までに日本人1人を含む少なくとも125人が死亡し、315人が負傷。犯行グループは、英米人を標的に多数の客らを人質に取り、タージマハルホテルとトライデントホテルなどに立てこもるという事件が起こりました。亡くなられた方々のご冥福を謹んでお祈りするとともに、無辜の市民を巻き添えにするテロリストの所業に怒りを感じます。
さて、今回の事件の舞台となったタージマハル・ホテルに関して、こんなマテリアルがありましたので、ご紹介しましょう。(画像はクリックで拡大されます) これは、1937年4月19日、ボンベイからイギリスのケント宛に航空便で差し立てられたタージマハル・ホテルの封筒です。 タージマハル・ホテルはムンバイのアラビア海に面した場所に位置する超高級ホテルで、開業は1903年です。 インドを代表する世界的な大財閥、タタ・グループの創立者であるジャムセトジー・タタは、あるとき、イギリス人の友人とムンバイの某ホテルに入ろうとしたところ、ドアマンから“非白人”であることを理由に入館を拒否されます。このことに激怒した彼は、インド人も入れる一流ホテルを作ることを誓い、贅を尽くして作り上げたのがタージマハル・ホテルだったというわけです。ちなみに、今回のカバーには6アンナと1.5アンナの通常切手が貼られていますが、このカバーが差し出される2年ほど前の1935年に発行されたジョージ5世即位25周年の記念切手には、本家のタージマハルを取り上げた2.5アンナの切手もありますので、どうせならそっちを使ってくれればよかったのに…と思わないでもありません。 ムンバイの欧米名“ボンベイ”は、ポルトガル語の“ボン・バイア(良港)“に由来するともいわれているように、欧米人にとって、ムンバイは海からインドへ入る玄関口でした。しかし、民族主義者のタタは、ホテルの正面玄関を、あえて、欧米人がやってくる海側にではなく、インド人が訪れる陸側に配し、気概を示しています。 今回のテロ事件の舞台となったムンバイには、インド準備銀行(中央銀行)や証券取引所があり、タタ・グループが本拠を構えるなど、インド経済の中心地ですが、今回のテロを受けて、ムンバイ証券取引所は27日の取引を中止しています。また、犯人グループの襲撃で、ムンバイの象徴ともいうべきタージマハル・ホテルも炎上し、屋根の一部が焼失したそうです。 まさに、インド資本主義に対する正面からの挑戦ともいうべき犯行がインド社会に与えた損害は、もちろん、物理的にも甚大なものですが、同時に、それがインド人にとっての深刻な精神的トラウマとなり、“911”後のアメリカのように、インド社会全体がおかしな方向に行かなければよいのですが…。 ★★★ 年末年始はコタツにミカンとこの1冊 ★★★ <解説・戦後記念切手>シリーズの別冊 『年賀切手』が12月25日日付で刊行されます!(下の画像は出版元制作の広告:クリックで拡大されます) 奥付上の刊行日は12月25日ですが、すでに、原稿は僕の手を離れて、印刷所の輪転機は回っていますので、17日の羽子板市の頃には実物はできあがっていると思います。なにとぞ、ご贔屓のほど、よろしくお願い申し上げます。 ★★★ 内藤陽介の最新刊 ★★★ アメリカ史に燦然と輝く偉大な「敗者たち」の物語 『大統領になりそこなった男たち』 中公新書ラクレ(本体定価760円+税) 出馬しなかった「合衆国生みの親」、リンカーンに敗れた男、第二次世界大戦の英雄、兄と同じく銃弾に倒れた男……。ひとりのアメリカ大統領が誕生するまでには、落選者の累々たる屍が築かれる。そのなかから、切手に描かれて、アメリカ史の教科書に載るほどの功績をあげた8人を選び、彼らの生涯を追った「偉大な敗者たち」の物語。本書は、敗者の側からみることで、もう一つのアメリカの姿を明らかにした、異色の歴史ノンフィクション。好評発売中! もう一度切手を集めてみたくなったら 雑誌『郵趣』の2008年4月号は、大人になった元切手少年たちのための切手収集再入門の特集号です。発行元の日本郵趣協会にご請求いただければ、在庫がある限り、無料でサンプルをお送りしております。くわしくはこちらをクリックしてください。 |
なんとも痛ましい・・・。
インド政府には、これにめげずテロ勢力と徹底抗戦してほしい。 安部さんが総理の時は、日本ももっとインドに目を向けようという動きがあった。(朝日新聞などが「インドなんかより朝鮮半島や中国と仲良くせよ」みたいな論調で安部さんを批判していたのが釈然としなかった) アジアの安定と発展のためにも、インドが資本主義国家として良い方向へ向かうよう応援できる政治力がこれからの日本にあればよいが。 #1300 コメントありがとうございます
ダイナマイト九州様
良くも悪くも、中国の脅威ということを真剣に考えれば、インドと仲良くしていこうという発想になるのが自然なはずなんですがねぇ。 国際社会におけるインドの姿勢というのは、日本にとって見習うべき点も多いと思います。たとえば、核武装に関して、インド政府は「最終的には核は全廃すべきだが、現実に、敵対関係になりかねない近隣諸国(=中国、パキスタン)が核兵器を保有している以上、自分たちも核を保有せざるを得ないし、核の独占体制を強要するNPTには参加できない」との基本姿勢を一貫して主張し続けています。誠に理にかなった見解で、日本でも同様の見解を展開する人があっても良いように思うのですが、なかなか難しいのが現実でしょう。 インドとの交流が密になって、こういう点ももっと日本人に伝わればいいのに…と思うのは僕だけではないはずです。 |
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