2008-11-13 Thu 12:12
きのう(12日)、台湾の陳水扁前総統が総統府の機密費流用と資金洗浄などの疑いで逮捕されました。というわけで、今日はこの切手をもってきました。(画像はクリックで拡大されます)
これは、2004年、陳水扁の2期目の総統就任を記念して発行された切手で、陳と副総統の呂秀蓮のほか、総統府の建物や当時は建設中だった台湾高速鉄道(当初は2005年10月の開業予定だったが、実際には2007年1月に開業)なども描かれています。 陳水扁は1950年10月12日、台湾の台南県官田郷の小作農家の家庭に生まれました。幼少時より学業成績が優秀で、国立台南第一高級中学を経て台湾大学商学部へと進学。その後、法学部に入学しなおし、在学中に司法試験に合格しています。 1979年の美麗島事件(世界人権デーに高雄で行われた雑誌『美麗島』主催のデモに際して、主催者らが投獄されるなどの弾圧に遭った事件)に際しては、陳は被告弁護団に参加し、主犯格とされた黄信介の弁護を担当。以後、党外活動(反中国国民党運動)の闘士として名を馳せ、1981年には台北市の市議会議員選挙に立候補し、最高得票で当選しました。 その後、1986年に国民党立法委員(国会議員)の馮滬祥から名誉毀損で告訴され実刑判決を受けて下獄しますが、刑期満了で出獄後の1987年、前年結成されたばかりの民主進歩党(民進党)に参加し、中央常務委員に就任。1989年に立法委員に当選し、同党を代表する議員となりました。 1994年、初めての台北市長直接選挙が実施されると、これに立候補して当選。台北捷運の建設や下水道を初めとする治水事業などを実施し、また既得権益に打撃を与える清廉さで高い支持率を得ましたが、1998年の選挙では国民党の宿敵・馬英九(現総統)に破れて落選。しかし、2000年の総統選挙で民進党候補として当選を果たし、半世紀に及ぶ国民党支配体制を民主的選挙によって終わらせました。 しかし、当選後は国民党の影響力を十分に払しょくすることができず、政権運営は多難を極めます。そして、2004年の総統選挙では再選を果たし、今回ご紹介の切手も発行されたものの、2005年8月には息子で総統府秘書長だった陳哲男が、高雄捷運の建設工事に関係した業者の招待を受けて海外旅行したとのスキャンダルが発覚。さらに、翌2006年5月には、娘婿の趙建銘が台湾土地開発公司の不正取引に関与していたことが表面化するとともに、夫人の呉淑珍についても太平洋崇光百貨(そごう)の商品券及びインサイダー取引疑惑が浮上。さらに、呉淑珍が、総統府機密費1480万台湾ドルを私的流用していたとして、汚職と文書偽造の罪で起訴されるにいたり、陳政権は完全にレームダック化してしまいます。 この結果、今年3月の総統選挙では、陳に対する不信感から与党候補が惨敗。国民党の馬英九政権の復活を許してしまうことになりました。 今回の逮捕に関して、陳は連行される際に「政治的迫害だ」と叫んだそうですが、仮にそうであるのなら、常識的に考えて、陳が無罪放免ということはあり得ないわけでしょう。もちろん、容疑が事実であるのなら、最高で30年の刑が待ち受けているということですから、陳の政治生命はほぼ断たれたとみてよいでしょう。 まぁ、このあたりに関しては、今後の捜査と裁判を見守っていくしかないのですが、台湾独立派の旗手であった陳が逮捕されたのを好機とばかりに、台湾内の媚中派が勢いを増し、独立派を封じ込める動きが出てくることが多いに懸念されます。こういうときこそ、陳の犯罪とは別に、我々は、台湾は決して“中国”の領土ではないことを十分に認識し、台湾の中国への併吞に抵抗しようとしている人々への支援を強化していかなくてはならないように思います。 ★★★ 内藤陽介の最新刊 ★★★ アメリカ史に燦然と輝く偉大な「敗者たち」の物語 『大統領になりそこなった男たち』 中公新書ラクレ(本体定価760円+税) 出馬しなかった「合衆国生みの親」、リンカーンに敗れた男、第二次世界大戦の英雄、兄と同じく銃弾に倒れた男……。ひとりのアメリカ大統領が誕生するまでには、落選者の累々たる屍が築かれる。そのなかから、切手に描かれて、アメリカ史の教科書に載るほどの功績をあげた8人を選び、彼らの生涯を追った「偉大な敗者たち」の物語。本書は、敗者の側からみることで、もう一つのアメリカの姿を明らかにした、異色の歴史ノンフィクション。好評発売中! もう一度切手を集めてみたくなったら 雑誌『郵趣』の2008年4月号は、大人になった元切手少年たちのための切手収集再入門の特集号です。発行元の日本郵趣協会にご請求いただければ、在庫がある限り、無料でサンプルをお送りしております。くわしくはこちらをクリックしてください。 |
まったく同意です。
日本は台湾から目をそらしているとしか思えません。 それどころか、いざとなれば与野党揃って中国の肩を持つに違いありません。 とにかく、日本人は関心が無さ過ぎで歯がゆい思いです。 #1270 コメントありがとうございます
ダイナマイト九州様
中国を刺激したくないという気持ちもわからなくはないのですが、だからといって、親日国家の台湾をないがしろにしていいということにはならないはずです。戦前、日本がドイツと同盟関係にあったときでも、日本はユダヤ人問題についてはドイツに対して堂々と反論していたわけですが、現在となっては望むべくもない対応なんでしょうかねぇ。悲しいことです。 |
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