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内藤陽介 Yosuke NAITO
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 イギリスへの亡命
2008-08-12 Tue 11:15
 タイのタクシン元首相が昨日(11日)、渡航先のロンドンから地元メディアに声明を送り「公正な裁判が望めないため、帰国せず英国に滞在する」として事実上の亡命を表明しました。タイからイギリスへの(事実上の)亡命というと、僕なんかが思いだすのは、やっぱりこのお方でしょうかねぇ。(画像はクリックで拡大されます)

 ラーマ7世(高額)

 これは、1928年にタイで発行された1バーツの通常切手で、立ち姿の国王ラーマ7世が描かれています。

 ラーマ7世は、1893年、ラーマ5世と側室の間の子として生まれ、青年時代にはイギリスやフランスに留学し、1924年の帰国後は軍務に就いていました。ところが、翌1925年に国王で異母兄のラーマ6世が成人した子を残さないまま亡くなったため、急遽、王として擁立されます。

 物心両面での準備が全く整わないまま国王となってしまったラーマ7世は、即位するといきなり、先王時代に膨らんだ財政赤字の問題に直面。このため、大規模な人員整理などの財政再建策に取り組み、財政を好転させることに成功します。しかし、当時のタイは一般の国民には参政権が与えられていなかったこともあって、王室や貴族の特権は維持されているにもかかわらず、国民に負担を強いたことで、フランス留学組の中堅官僚・軍人を中心に絶対王制への不満が高まりました。

 一方、国王は世界的に猛威をふるっていた共産主義がタイ国内にも流入し、革命が発生することを真剣に恐れ、次善の策として、段階的な国会開設の方針を立てました。具体的には、まず、国民の政治参加を訓練するための移行措置として、市制(地方自治制度)の導入が検討されましたが、そのモデルのひとつとされた日本の市制に関する文献の翻訳に手間取り、このプランは立ち消えになってしまいます。

 そうしているうちに、1929年10月、世界恐慌が発生。タイの輸出は大幅に減少し、経済状況が一挙に悪化すると、ふたたび、王制に対する不満が高まることになります。このため、国王は1932年4月のバンコク建都150年祭にあわせて、立法議会法案を含む憲法の公布を目指したものの、有力王族の反対で実現できませんでした。

 このため、同年6月24日、立憲君主制の実施を求めていた人民党がクーデターを起こして王族を人質に取り、国王に憲法公布を要求する立憲革命が発生。国王は人民党の要求を受け入れて人民主権の憲法に署名・公布し、ラーマ5世以来の絶対王制は終焉を迎え、タイは立憲君主制に移行します。

 ところが、革命後の人民党は、かつての“民主化”要求とは裏腹に複数政党制の導入を拒否して独裁色を強めていきます。これに対して、巻き返しを図る国王は“真の議会制民主主義”の実現を求めて人民党政権と対立しますが、かえって“護憲民主勢力”と自称する人民党は反対派を“旧体制への復帰を意図する憲法の敵”として弾圧してしまいました。

 このため、人民党の傀儡となることを嫌った国王は1934年1月、眼病治療の名目でイギリスに事実上亡命し、いつまで経っても民主制に移行しようとしない革命政権に抗議するため、1935年、自らの意志で退位してしまいました。このため、人民党政権は、スイス修学中の国王の甥をラーマ8世として即位させ、急場をしのいでいます。ただし、ラーマ8世は即位の大礼を終えた後、再びスイスへ戻ってしまい、タイは一時期、実質的に国王不在の状況に陥りました。
 
 なお、退位後のラーマ7世はその後もイギリスにとどまり、2度と帰国することのないまま、1941年にロンドンで客死。遺骨がタイに戻ったのは1949年のことでした。

 ちなみに、このあたりの事情については、拙著『タイ三都周郵記』でもいろいろとご説明していますので、機会がありましたら、ぜひ、ご一読いただけると幸いです。

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