2008-05-06 Tue 13:52
ご報告が遅くなりましたが、雑誌『東亜』の2008年5月号ができあがりました。3ヶ月に1回のペースで僕が担当している連載「郵便切手の歴史に見る台湾の独自性」では、今回は台湾民主国の話を取り上げました。台湾民主国の切手は以前の記事でもご紹介しましたので、今日はこの切手を持ってきました。(画像はクリックで拡大されます)
![]() これは、1973年10月5日に台湾が発行した丘逢甲の切手です。丘は1864年生まれ。曽祖父の代に福建省から台湾にわたってきた客家の出身で、26歳で進士参甲に合格した台湾籍の漢人官僚です。 1894年8月1日に始まった日清戦争は、本質的には、朝鮮の権益をめぐる戦いであって、台湾からみれば遠くの戦争でした。ところが、1895年4月7日に締結された講和条約(下関条約)では、敗戦国となった清朝は日本に対して台湾を割譲することが規定され、同年5月8日の批准交換の完了によって、台湾は国際法的に日本の領土に編入されることになります。 清朝にとっての台湾は、自国の領土ではあるが、あくまでも辺境の未開の土地としてしか認識されていなかった。そのことが端的に表れているのが、1871年の牡丹社事件です。 1871年11月、琉球の宮古島から首里への年貢を運んで帰る途中の御用船が台風による暴風で遭難し、台湾南部の琅●(王へんに喬)付近の八瑤湾に漂着。漂着した乗員は原住民のパイワン(排湾)族牡丹社に救助を求めたものの、逆に牡丹社にあった彼らの集落へ拉致され、逃げ出したところをパイワン族から敵対行為とみなされて54名が殺されました。生き残った12名は漢人の移民により救助され、宮古島へ送り返されています。 この地では、翌年にも漂着した日本船が略奪にあったため、1873年、日本の外務卿・副島種臣が清朝に対して賠償を求めると、清朝側の交渉窓口となっていた吏部尚書・毛昶熙は「台湾生蕃の地は化外に置き政教逮はず」などと返答し、清国の領土ではないことを主張して責任を逃れようとしました。結局、この件は、1874年5月、西郷従道ひきいる3000名の兵による台湾出兵がおこなわれ、清朝が50万両の賠償金を支払うことで決着するのですが、当時の清朝の台湾に対する姿勢を象徴的に示すものといえましょう。 さて、下関条約の批准に伴い、日本側は5月10日に樺山資紀を台湾総督および台湾接収の全権委員に、清朝側は李経芳(李鴻章の息子で駐日公使)を台湾引き渡しの全権委員に任じ、台湾授受の手続を行うことになりました。 ところが、自分たちの頭越しに日本への割譲を知らされた台湾の漢人たちの間では、これに反発する声が高まり、割譲阻止を叫ぶ官僚と一部住民が5月23日に“台湾民主国”(以下、民主国)の独立を宣言。24日には独立宣言を各国語に翻訳して、台湾駐在の各国領事館に通知するとともに、25日に独立式典を挙行し、元台湾巡撫の唐景を総統に、台湾籍進士の邱逢甲を副総統兼義軍統領に選出するとともに、虎を描いた国旗を定め、清朝による統治が永続するようにとの意味を込めて、元号を永清と定めています。 これに対して、台湾で割譲反対の動きが盛り上がっていたことに恐れをなした李経芳は台湾への上陸を拒み、5月29日になってようやく、三貂角沖の海上で日本側と領土授受の手続きを完了。これを受けて、日本側は北白川能久親王ひきいる近衛師団第一旅団が台湾島東北部の澳底に上陸。5月31日に三貂嶺を占領し、6月3日には基隆を制圧しました。 一方、当初こそ、「誓死抗日」、「与台共存亡」と豪語し、徹底抗戦を呼びかけて民衆を煽っていた唐景や丘逢甲ら民主国の幹部は日本軍が上陸するや浮足立ち、基隆が陥落すると我先に大陸へと逃亡。民主国の中央政府は事実上崩壊。さらに、混乱の中で、基隆から台北城内に落ち延びてきた敗残兵たちは、住民に対して放火や略奪、婦女暴行などを働き、場内は阿鼻叫喚の生き地獄となりました。このため、台北住民の中には、日本軍の入場による秩序の回復を望む者も少なくなく、辜顕栄が基隆に派遣され、日本軍の入城を先導したほどでした。 こうして、6月7日、日本軍は台北に無血入城しましたが、その後も台湾に残った劉永福の黒旗軍(清朝の元軍務督弁で、民主国では大将軍の地位にあった)などは、住民から構成された義勇軍とともに台南などを拠点として日本軍に頑強に抵抗を続けたため、結局、日本の台湾総督・樺山資紀が大本営に対して「全島平定」を報告したのは、同年11月18日のことです。 ご案内 5月10日(土)10:00より、東京・池袋の桐杏学園にて開催の切手市場にて、拙著『近代美術・特殊鳥類の時代』の即売・サイン会を行います。当日は、切手市場ならではの特典もご用意しておりますので、ぜひ、遊びに来てください。 もう一度切手を集めてみたくなったら 雑誌『郵趣』の2008年4月号は、大人になった元切手少年たちのための切手収集再入門の特集号です。発行元の日本郵趣協会にご請求いただければ、在庫がある限り、無料でサンプルをお送りしております。くわしくはこちらをクリックしてください。 |
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