2014-08-29 Fri 02:47
ご報告が遅くなりましたが、財団法人・日本タイ協会発行の『タイ国情報』第48巻第4号ができあがりました。僕の連載「泰国郵便学」では、今回は、1969年2月の総選挙以降のトピックをいろいろと取り上げました。その中から、きょうはこの切手をご紹介します。(画像はクリックで拡大されます)
これは、1969年11月18日、タイの輸出産業を紹介する一環として、錫鉱山を取り上げた切手です。ちなみに、切手が発行される前年の1968年、タイはILO条約の中の「鉱山の地下作業への最低就労年齢に関する条約」を批准していますので、今回ご紹介の切手には、前年批准したILO条約をきちんと遵守していることをアピールする意図も込められていたのかもしれません。 じっさい、 アンダマン海に面したプーケット県、パンガー県、ラノーン県には豊かな錫の鉱床があり(余談ですが、観光地として開発が進められる以前のプーケット経済は錫によって支えられていました)、アユッタヤー王朝時代の1518年には現在のタイの領域で初めて錫が産出したとの記録があります。 錫の輸出が始まったのは、16世紀、ポルトガル人がプーケットを交易の拠点としてからのことですが、19世紀に入って缶詰・石油缶が発明され錫の需要が急増すると、多数の華人労働者が流入して錫鉱山の開発が進められ、20世紀初頭までには、タイは世界的な錫の産出国となりました。今回ご紹介の切手は、一義的には、そうしたタイの錫産業を対外的に宣伝するためのもので、その甲斐あってか、1976-82年にはタイの錫産出高はマレーシアに次いで世界第2位の規模を誇るまでになりました。 ところで、錫には山錫と川錫(砂錫とも)があります。 錫の鉱床は主として花崗岩に関連して存在していますが(ペグマタイト、堆積岩へ貫入したグライゼン、スカルンなど)、その岩塊を砕いて採集するのが山錫です。一方、花崗岩は風化に弱い岩石で、地表の露頭は長い年月の間にボロボロに崩れ、雨水に流されて下流の河川沿いに堆積します。そのため沖積層中(漂砂鉱床)にもスズが大量に、かつ高純度で含まれていることがあり、これが川錫とよばれます。 切手の図案について公式な説明はないのですがが、おそらく、一大生産地であったプーケットでの川錫の採取と選別の風景ではないかと考えられます。 なお、最盛期にはタイ国内で700近い錫鉱山が稼働しており、1985年以前はおおむね年産4万トン以上の産出がありましたが(ピーク時の1979年は4万6364トンの産出)、1985年に国際市場で錫の価格が急落。さらに、中国やブラジルなどの新興国でより安い錫が産出されるようになったことで、タイの錫産業は壊滅的な打撃を受けました。この結果、2007年の時点では年産2万7542トンにまで落ち込み、操業を続けている鉱山もわずか11、精錬会社もプーケットのタイ精錬精製株式会社1社のみとなり、原材料の大半は輸入に頼っているというのが現状です。栄枯盛衰は世の習いとはいえ、ちょっと寂しいですな。 ★★★ 講演会のご案内 ★★★ ~韓国文化院 講演会シリーズ2014 『韓日交流史』~ 第9回は内藤陽介「韓国の切手でひも解く韓国近現代史」 です! ◇日時:2014年9月5日(金) 開場 18:30 開演 19:00 ◇会場:韓国文化院 ハンマダンホール ◇募集人員:300名様(お申し込みはお一人様2名まで) ◇入場無料(事前のお申込みが必要です) ◇主催・お問い合わせ先:駐日韓国大使館韓国文化院 03-3357-5970 ■ 韓国文化院のホームページ・トップの 「イベント応募コーナー」欄(こちらをクリックしてください)からお申し込みいただけます。たくさんの皆様のお申し込みを心よりお待ち申しております。 * 表向き、応募の〆切は過ぎていますが、直接内藤宛にご連絡いただければ、お席は確保できます。どうぞ遠慮なく、ご連絡ください。 ★★★ 内藤陽介の最新刊 『朝鮮戦争』好評発売中! ★★★ お待たせしました。約1年ぶりの新作です! 本体2000円+税 【出版元より】 「韓国/北朝鮮」の出発点を正しく知る! 日本からの解放と、それに連なる朝鮮戦争の苦難の道のりを知らずして、隣国との関係改善はあり得ない。ハングルに訳された韓国現代史の著作もある著者が、日本の敗戦と朝鮮戦争の勃発から休戦までの経緯をポスタルメディア(郵便資料)という独自の切り口から詳細に解説。解放後も日本統治時代の切手や葉書が使われた郵便事情の実態、軍事郵便、北朝鮮のトホホ切手、記念切手発行の裏事情などがむしろ雄弁に歴史を物語る。退屈な通史より面白く、わかりやすい内容でありながら、朝鮮戦争の基本図書ともなりうる充実の内容。 本書のご注文は版元ドットコムへ。同サイトでは、アマゾン他、各電子書店での注文ページにリンクしています。また、主要書店の店頭在庫も確認できます。 *8月24日付『讀賣新聞』読書欄、韓国メディア『週刊京郷』8月26日号で拙著『朝鮮戦争』が紹介されました! ★★★ ポストショップオンラインのご案内(PR) ★★★ 郵便物の受け取りには欠かせないのが郵便ポストです。世界各国のありとあらゆるデザインポストを集めた郵便ポストの辞典ポストショップオンラインは海外ブランドから国内製まで、500種類を超える郵便ポストをみることができます。 |
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