企業価値評価 バリュエーションの理論と実践 第6版上(マッキンゼー・アンド・カンパニー、ダイヤモンド社)
本書を通じて、マッキンゼーの人たちが考える「事業単位ごとの企業価値評価をどのように活用すべきか」を考察してみたい。
『
第17章 事業単位ごとの企業価値評価 Valuation by Parts
要約 多くの大企業には複数の
事業部門があり、それぞれが異なる経済的特性を備えた分野(
業界)において競合している。そのような企業を
事業部門ごとに
価値評価することは
業界の代表的企業や投資経験の豊富な投資家にとっては基本的な作業である。それが単により優れた
企業価値評価を生むためだけではなく、
価値を創出している分野と方法についてのより深い洞察をもたらすからである。企業を
事業部門から
価値評価するには、
事業部門が独立起業だった場合にはどのような業績をあげるかをおおよそ示す
NOPLAT*、
投資資産、事業からの
フリー・キャッシュ・フローが必要である。そのような情報を用意する段階において、本社機能のコストを割り出し、内部取引に対応し、金融子会社の株式
キャッシュフローの
価値評価を行う必要がある。
最も適切な同業他社の負債比率やベータ値に基づいて、
事業部門ごとに分けて加重平均資本コストを見積もる。
DCF表による
企業評価の見積もりを三角測定するには、
事業部門ごとにマルチプルに基づいて
企業価値評価を行う。資産収益率と成長率がきわめて類似した同業他社グループを必ず取り上げる。筆者らの経験では、企業グループがコングロマリット・ディスカウントに悩まされる理由は、極めて高い資産収益率と成長率を備えた同業他社を比較対象に選択した結果であることが多い。
第21章 資産収益率を測定する別の方法 Alternative Ways to Measure Return on Capital
要約 ほとんどのビジネスにとって、
ROICは資産収益率の優れた指標である。ビジネスが生み出す
キャッシュフローの内部収益率は経済的リターンを正確に反映する。しかも、これは標準的な財務諸表から入手できる情報に基づいており、管理職にも理解しやすい。しかし、場合によっては、資産収益率の代替指標のほうが
価値創造について優れた洞察をもたらすことがある。
研究開発や
ブランドなどの
無形資産に多額の投資を行うビジネスについては、
ROICを調整してこれらを資産計上するべきである。資本の使用が皆無に近いビジネスの場合は、経済的利益のほうが
価値創造の指標として優れている。規模が異なるビジネスを比較するには、経済的利益を売上高比で比較する。当初多額の資本投資が必要だが、その後長年にわたって安定した
キャッシュフローを生み出すビジネスについては、
ROICと比較して手間がかかったり複雑であっても、
CFROI**などの指標が適切か検討することができる。
訳者あとがき Closing Thoughts 日本企業においても近年、組織スキル面では
企業価値評価に対する理解度は大きく向上してきていると感じる。日本企業によるクロスボーダーM&Aが増加する中で、実際に案件を経験した人材が増えてきていると同時に、投資銀行などの出身者を積極的に採用し組織スキル強化に努めていると同時に、投資銀行などの出身者を積極的に採用し組織スキル強化に努めている企業も多い。ただ、
企業価値評価を実施するスキルは向上してきたもののM&Aを
企業価値向上のためのツールとしてうまく活用することができている企業はいまだ多くはないというのが筆者らの感覚である。
たとえば、M&Aにおける買い手としては確かにスキルが向上し経験値も蓄積されてきているが、一方で事業の売却についてはいまだに消極的である。売却に踏みきる場合でもその判断が遅く、最適なタイミングを逃している事例が散見される。M&Aは、買収だけではなく、
事業ポートフォリオ組み換えの手段として捉えることが重要である。また、M&Aからのシナジーの創出についても、いまだ米国企業などと比べると改善の余地が見られる。例えば、M&A後も買収先事業の「独立」経営が継続されて、調達・購買、生産、間接部門の最適化など、売上面でのシナジーと比較して相対的に実現が容易とされるコスト面のシナジーですら、十分に実現されていないことが多い。
本書において読書に紹介したのは、
企業価値評価を行うにあたり、バリュードライバーを検証し、DCF法を用いて計算する手法である。この基本的な
企業価値算定の手法をベースに、税金の取り扱いやリースの処理といった会計上の技術面での扱い、資本政策上の観点からの検討、新興市場やボラティリティが高い業界への適用、自由度の
オプション評価価値など、幅広い適用事例を紹介してきた。しかし、これらの手法を習得するのに併せて、経営陣がM&Aを経営戦略の実現手段として最大限に活用すること、また、その各プロセスにおいてM&Aの責任者が適切な検討や判断を行えるようになることが、M&Aを成功させるためには求められている。本書の内容が読者の
企業価値評価の習熟度を向上させ、それが日本企業のより巧みなM&A活用と、
企業価値向上に資することにつながれば望外の喜びである。
訳者 マッキンゼー・コーポレート・ファイナンス・グループ 』
*Net Operating Profit Less Adjusted Tax(みなし税引後営業利益)
**Cash Flow Return On Invested Capital(キャッシュフロー投下資産収益率)
・
事業部門ごとに価値を評価し、最適なタイミングで
事業部門ごとに売却し、
事業ポートフォリオの組み換えを通じて、より
企業価値を向上することが重要である
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