問題は英国ではない、EUなのだ 21世紀の新・国家論(エマニュエル・トッド著、文藝春秋、2016年9月20日 第1刷発行)
掲題書で、今、世界で起こっている現象を、エマニュエル・トッドが、明快に解説している。
第2次大戦後の3つの局面第1局面 1950年から1980年までの経済成長期 ヨーロッパと日本がアメリカに追いついた、消費社会が到来した時代
第2局面 1950年から2010年 経済的グローバリゼーションを経験した時期
アングロ・アメリカン、英米によって推進。ソ連や中国の共産主義は抵抗し得ず
第3局面 2010年~ グローバリゼーションのダイナミズムが底をつき、その兆候が米英の2国で現れてきている。グローバリゼーション・ファティーグ(疲労)に苦しんでいる
米国でトランプが勝利した背景 不平等の拡大、支配的な白人グループにおける死亡率の上昇、社会不安の一般化
⇒ナショナルな方向への揺り戻しの象徴
英国がEU離脱(Brexit)した背景 イギリス議会の主権回復。「ドイツに支配されている欧州」からの独立。「サッチャリズム」と呼ばれる市場原理主義的な経済政策(「ゆりかごから墓場まで」に象徴される手厚い福祉に守られてきた国民に対して、「個人の力」の重要性を強調して「社会だとというものは存在しない[There is no such thing as socoiety.]という言葉に代表される)から、イギリス国民の「いや、社会は存在している。我々は我々として存在しているんだ」というイギリス国民の叫びだった
ドイツがEUで1人勝ちする背景 熱烈な重商主義と過剰な貿易黒字が示す、グローバリゼーションの理想に忠実であり続いている唯一の先進国。東ヨーローッパの労働力と西ヨーロッパの消費者を組み合わせている。ナチス・ドイツと熾烈に戦った連合国側兵士の90%がロシア人だったことをドイツ人は知っている。ソ連ブロック瓦解後にアメリカの反ロシア政策によりドイツは自国の過去から解放された結果、米国はドイツに対するコントロール力を失った
フランスが迷走する背景 ドイツとの良きバランスの回復の鍵となるのが、フランスにとって破壊的に働くユーロではなく、パリ-ロンドン軸だということを理解せず、そのことを予測する能力を持ち合わせなかった。ドイツに対する自主的隷属は、ドイツのネイションとしての再形成に貢献した(だけ)
アメリカ帝国の弱体化 「アメリカ帝国」とはいわば、各地域の同盟国との関係によって維持されるフランチャイズ・システムだった。どころが、ドイツはアメリカの意見に耳を貸さず、欧州全体を引き連れて不況に突入するような経済政策を続けている。かつての同盟国、サウジアラビアやトルコなども言うことを聞かず
イラクのクルド人組織を創設することで、ようやく解決に向かっていた「クルド人問題」を再燃させて、トルコのクルド人問題も深刻化し、トルコは内戦のような状態に
アメリカが西洋世界にとって、中東における重要拠点であるサウジアラビアと特別な関係を築いて、中東の原油をコントロールしてきたのは、欧州と日本をコントロールするため(アメリカは中東の石油に依存している訳ではない)。
サウジアラビアは昔から部族社会、出生率の急減など深層では大きな地殻変動が起きて、社会全体が不安定化しつつある。現在、イエメンなどの周辺情勢に積極的に介入しているのも自国問題からの逃避にしか見えない
家族システムから見たスンニ派とシーア派 シーア派では、後継者として息子がいなければ、娘が相続することがあるが、スンニ派では、父系の親戚筋が相続人となり、女子が相続することはない。同じイスラム圏でも、シーア派のイランは、父権性がより弱く、女性の地位がより高く、より核家族的で、より個人主義的
ロシアの復活、しかし脅威論は幻想にすぎない 先進国の中で出生率を1.8にまで劇的に回復した唯一の国がロシア。伝統的な家族構造は、父権的な共同家族で、中国やアラブ圏に似ているが、女性の高等教育進学率や地位が高いことにロシア復活の秘密あり
ウクライナ危機もロシア語を話せる教育水準の高い移民の増加は人口問題があるロシアの利益に
共産主義が崩壊した後も、共同体家族に由来する集団的行動の文化を維持しており、自分たちのネイションを信頼している
とはいえ、人口が1億4千万人で日本と同規模である以上、大帝国かなど不可能。中級のパワー、安定的で保守的なパワーとして再擡頭しているのであって、西側諸国のロシア脅威論は幻想
中国超大国論は神話にすぎない 高等教育の進学率が5%未満、出生率の急減、GDPに占める「総固定資本形成(インフラ整備などの公的および民間の設備投資)」が40~50%と過剰でバブル崩壊の可能性もあり、不安定な極
米露こそ日本のパートナー 中国の存在を考えれば、ロシアとの関係構築は地政学的に理に適っている。アメリカの尊厳を傷つけない仕方で進める必要がある。アメリカには、もはや「世界の警察官」を独力で担えるだけの力はない(「アジア重視」なのに空母配備は一隻のみ)ため、日本は自主的な防衛力を整えつつ、アメリカを助けるために、軍事的、技術的に貢献すべき
12月の安倍首相のプーチンやオバマとの会談、トッド氏の主張にも合致していることが理解できる
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元証券マンが「あれっ」と思ったことの
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