「新世代CEOの本棚」(堀江貴文・森川亮・佐渡島庸平・他、文藝春秋)より
#08 仲暁子(ウォンテッドリーCEO)
ゴールドマン・サックス證券、Facebook Japanを経て起業。国内最大級ビジネスSNSを展開する若き女性CEOは、ジョブズをはじめとする創業者の本に学んできたという。
「採用」「解雇」の二大難問に答えてくれた本
読み継がれるビジネス書には力がある
古典と言える本の中で特に読んでよかったのが、『影響力の武器』。これは、経営者だとかビジネスパースンといった立場にかかわらず、だれしもが「読まないと損する本」だと思います。
本書は行動心理学に基づいて人間の行動の謎をひもといていて、ありていに言えば「人をコントロールする方法」について書かれています。「自分が望むように相手に動いてほしいとき、どのように働きかけたら気持ちよく動いてくれるか?」を知ることができるのです。人間の悩みはたいてい対人関係が原因ですから、この本は経営にもかなり役立ちました。
岡本太郎で目を覚まされた
「なに、これ?」と手にとったその本は、岡本太郎さんの『自分の中に毒を持て』。
この本から私が受けた影響は、はかりしれません。
たとえば岡本太郎は、多くの人が大型直通バスに乗り込み、安全で舗装された道をただ選ばれていくだけの人生を送っている、と警鐘を鳴らしています。「決して自分の足で踏み分け、イバラに顔を引っかかれたり、猛獣とぶつかって息をのむ、というような真正の人生は経験しないのだ」と。
#09 孫泰蔵(Mistletoe CEO)
ガンホーにてパズドラを大ブレイクさせたIT業界の雄・孫さん。その経営理念を支える本とは。若い社員と働くときの参考になるという、国民的マンガも登場。
『ワンピース』は、チーム経営の最高の教科書
江戸時代から、ITビジネスのヒントを得る
僕がずっとやってきたITは、ライフスタイルや産業など、あらゆるものの在り方を変えていくものです。パラダイムシフトという言葉がよく使われますが、既存のものを積極的に破壊し、新たなものを創造していくことで、社会構造における利便性や効率を向上させてきました。だからこそ、古今東西のいろんなものからヒントを得ることが重要なんです。
そういった江戸時代の社会については、山本博文さんの『学校では習わない江戸時代』『東大流よみなおし日本史講義』や、杉浦日向子さんの一連の書籍で学びます。
また研究所では、とりわけ歴史学者の網野善彦さんの本が参考になります。「異端の歴史学者」などと呼ばれることもある網野さんですが、たとえば『無縁・公界・楽』あたりには、いわゆる日本の正史にはない民の姿が書かれています。
#10 佐渡島庸平(コルクCEO)
講談社を経て、作家エージェントを起業。『ドラゴン桜』『働きマン』『宇宙兄弟』を世に送り出した名編集者の愛読書。本とコンテンツビジネスの未来はどうなるか。
ストーリーづくりは「観察力」が9割、「想像力」が1割
いつの間にか、見城語録を引用
経営者として勉強になった本というと、稲森和夫さんの『生き方』がまずあがります。稲森さんは人間としての器が大きいというか、経営者が座禅を組んでいるような感じがします。
同じ編集者兼経営者の先輩として、幻冬舎の見城徹さんはやっぱりすごいと思います。
「分人主義」とは何か
もう一つ、僕がすごく影響を受けているのは、平野啓一郎さんの『私とはなにか』。
自分というのは一つではなくて、相手によって違った自分が引き出されるという分人主義の考え方を取り入れてから、心の中が整理されるようになりました。今、目の前にいる人は、僕が引き出したその人の一面にすぎないわけです。
>>安全で舗装された道をただ歩むのではなく、既存のものを積極的に破壊し、新たなものを創造してゆきたい
「新世代CEOの本棚」(堀江貴文・森川亮・佐渡島庸平・他、文藝春秋)より
#06 迫俊亮(ミスターミニットCEO)
カリスマ社会起業家の率いるマザーハウスを経て、29歳で伝統企業のトップに抜擢される。若さゆえの経験不足を補いたい一心で、食費と睡眠を削って本を読みまくってきた。
「とりつかれたような読書」から見えてきたもの
仕事で焦りを覚え、超多読に着手
以前はゴールドマン・サックスのエコノミストを務めていたマザーハウスの副社長、山崎大祐さんに「これを徹底的に読めば、ほかの本は読まなくていいくらいだ」と薦められたのが、『マンキュー経済学』。
経済学の素地がなかった私でも「経済学とはどういう考え方をするのか」の本質がつかめたのは、この本のおかげです。日本経済はこれからどうなるか、なぜ貧困が起こるのかといった「応用編」にあたる本を読む前に、経済学の基礎をしっかり身につけられたのは大きかったですね。
他者への共感と経済合理性は矛盾しない
『道徳感情論』は私のビジネス嫌いの考えが修正された1冊です。
社会性か経済合理性かの二律背反ではなく、両立することで社会は良くなる。社会や他者に対する想像力を捨てない限り、資本主義を最大限活用することが社会をよくするベストの方法である。そう納得させてくれたのが、本書でした。
本から得た「希望」の姿
『職業としての政治』も、胸に響くものがありました。
「社会が少しでもよくなればいい」というスタンスに対し、大いに共感したのです。
希望といえば、『夜と霧』もこの時期に読みました。
内容を説明するまでのまに有名な本ですが、「アウシュビッツ強制収容所で生き残ったのは、賢い人でも、身体が丈夫な人でもない。希望を捨てなかった人だ」ということが描かれているんですね。
「この会社でこんなことがしたい!」という思いが明確で、働くことに希望を持っている人のほうが、結果を出してくれるものです。
リーダーは下の者に使える存在
『ウィニング』には、「リーダーに選ばれることは、王冠を与えられることではない。ほかのメンバーの実力を最大限に発揮させる責任が与えられることだ」と書いてあります。ほかにもリーダーは下の者に使える(サーバントである)存在だと言わんばかりのルールが並べられていて、「アメリカ型リーダーの代表のようなジャック・ウェルチがこんなことを言うのか」と非常に驚きました。
>>希望を持って働いて、結果を出してゆきたい
「新世代CEOの本棚」(堀江貴文・森川亮・佐渡島庸平・他、文藝春秋)より
#04 佐藤航陽(メタップスCEO)
人工知能を生かしたビジネスを世界で展開。フィンテックの最先端をひた走る29歳の起業家。21世紀型の読書人である彼が、ゲノムと宇宙に注目する根拠とは。
「感情」「経済」「テクノロジー」で未来を俯瞰
読む時期と読まない時期を分ける
本の情報は、あくまで仮説を立て、自分の仮説が間違っていないかを検証するための一部なので、本を読むことと実際に試してみることは、私の中ではワンセットです。
何かを知りたいと思ったときは、関連書籍をまとめて買ってきて、1週間くらい部屋にこもって、朝から晩まで読んでいます。アポイントも入れません。
アマゾンでキーワード検索をかけて、上から5~6冊を購入し、興味のあるところだけを拾い読みして概要をつかむ。もっとくらしく知りたいときは、その著者の本をさらに買って読んでみます。
事業が多少軌道に乗ってきてから出会ったのが、ジェフリー・ムーアの『キャズム』をはじめとする一連の本です。
このシリーズは、本当に勉強になりました。そこに出てくる話がことごとく自分がぶつかってきた問題とそっくりで、自分のことが書いてあるんじゃないかと思うほど。
私はたまたま正解を選んで生き残ることができましたが、あそこで別の選択をしていたら失敗していただろうなと考えさせられる場面がいくつもありました。事前に呼んでいたらよかったなと思う本の一つです。
市場の偏りをいかに見つけるか
ここ5年くらいは、本で読んだ内容を自分の事業で実際に試してみて、本当だったか嘘だったか、すぐにわかるようになったので、フィードバックのスピードが格段に速くなりました。
気になった本をつまみ食いして、「もしかしたらここに書いてあることは、この事業と共通項があるんじゃないか」と思ったら、すぐに取り入れて試してみるということを繰り返しています。
たとえば、『ブラック・スワン』を読むと、不確実性やリスクというものがどういうものかがわかります。
事業でも資産でも、安全牌ばかり選んでリスクのあるものに投資していないと、逆にそのことがリスクになる。8~9割はほぼ確実に計算できる事業に投資しつつ、残りの1~2割は自分ではちょっとわからないけれども、とりあえずやってみようという事業に投資する。その比率は意識しています。
有名なグーグルの20%ルールも、創業者が意思決定を間違えたときのためのリスクヘッジとして、社員の創意工夫を引き出そうという仕組みです。
『新ネットワーク思考』が示すように、人間は最も古くて実績のある選択肢を選びがちなので、経済にはどうしても「偏り」が生じる。その偏りをスピーディーに見つけることができれば市場を押さえられる。
だから、マーケットのデータを全部集めて分析し、2割の偏りをいち早く割り出すことを極力速くやるようにしていまs。限られたリソースをムダにしないためです。
「人間の感情」に興味
人間の感情という意味では、突出した人物がどういうバックグラウンドで育ってきたのかを知りたくて、伝記を読むようになりました。
たとえば、ウィキリークスを創設し、米国の外交機密文書を暴露して、ホワイトハウスを敵に回したジュリアン・アサンジ。彼の自伝『ジュリアン・アサンジ自伝』を読むと、頭の回転がすさまじく速いことがわかります。
子どもの頃から抑圧された環境にいて、権力というものをものすごく憎んでいた。それが大人になっても変わらない。めちゃくちゃなんだけど、そこに一本筋が通っています。
バフェットとソロスの相違点
ハンガリー生まれのユダヤ人であるソロスは、ナチスの支配下にあったブダペストで、同胞のユダヤ人を密告することで生き残り、そこで十字架を背負います。
ソロスを知るには、もう一人の世界的な投資家、ウォーレン・バフェットと比べるとわかりやすい。バフェットの評伝『スノーボール』を読めばわかりますが、同じ投資家でも、二人の目的はまったく違います。
バフェットは一流の投資のあるげき姿を掘り下げていく職人タイプで、投資そのものに興味がある。一方、もともと哲学者になりたかったソロスは、再帰性という自分のロジックがこの世界に当てはまるか試してみようということで、自分の理論を実験する場として株式市場を選びます。
だから、ソロスにとって投資はただの手段にすぎない。自分自身を突き放し、離れたところから観察する冷徹さに惹かれます。私自身、自分の精神と身体が切り離された感覚を持っているからです。
私が起業したのは、自分自身を実験台にして、この世界がどんなメカニズムで動いているかなしかめてみようと思ったからです。私とってビジネスは、自分の仮説を確かめるための手段なのです。
世の中は「嫉妬」と「そろばん」で動く
日本人では、田中角栄の本が面白かったです。『田中角榮』を読むと、なぜ角栄があそこまでスピーディーに全くのゼロから総理大臣まで昇りつめたのか、その理由がわかります。
また、世の中は嫉妬とそろばんで動くという話も出てきます。嫉妬というのは感情です。そろばんというのはお金です。
人間誰しも自分がお金に卑しいとは思いたくないから、お金を受け取る相手が自分を正当化できる理由まで用意する。角栄の人心掌握術はすさまじいものがあります。
未来予測でしか差別化できない
中でも印象に残っているのは、『貨幣論』。単行本が出たのは四半世紀も前ですが、その時点で電子マネーがどうなるかをかなり正確に予測していて、衝撃的な1冊でした。
「何で成長するのか」が決定的に重要
ビジネスというのは、そもそも99%の人が負ける世界です。上位1%が残りの99%の利益を総取りする世界なので、他人と同じことをしている時点で勝ち目はありません。その非対称性に注目して大成功を収めたのが「Yコンビネーター」の創業者、ポール・グレアムです。
経営者はバカじゃないとつとまらない
『ルールを変える思考法』には、みんなが「これはイケる」と口をそろえるプロジェクトは時すでに遅しで、みんなが反対するところに勝機があると述べられています。みんなが反対しても押し切るには、バカでいる必要があるのです。
何かを思い込んでいる人がすごい集中力を発揮する。その人の思い込みが強いほど、その熱が周りに伝わり、世の中が動いていきます。ところが、いろいろ考えて、この人の立場もわかるし、この人の立場もわかるとなると、動けない。
スティーブ・ジョブズがスタンフォード大学で語った有名なスピーチの締めの言葉、「Stay hungry, stay foolish」。「ハングリー」の意味はすぐにわかりましたが、「フーリッシュ」の意味が最初はよくわかりませんでした。
もちろん、経営者はバカなだけでも務まりません。私自身はカリスマ性で社員を引っ張るタイプではないので、人はなぜ人についていくのか。その要所をはずさないことだけ気をつけています。それは成果です。
結果に依存しているから、そこだけは絶対に守る。それを自分に課しています。
>>本の情報を元に仮説を立ててながら、市場の偏りを見つけてゆきたい
「新世代CEOの本棚」(堀江貴文・森川亮・佐渡島庸平・他、文藝春秋)より
#03 朝倉祐介(ミクシィ元CEO)
スタンフォード大学客員研究員。クミシィ前社長。1982年兵庫県生まれ。中学卒業後、オーストラリアの競馬騎手養成学校へ。その後、競走馬育成牧場の調教助手となるが、交通事故で断念する。大学受験資格を取得し、東京大学法学部へ入学。マッキンゼーを経て、自身が学生時代に起業したネイキッドテクノロジーに復帰し代表に就任、2013年より代表取締役社長。在任中に、スマホゲーム「モンスターストライク(モンスト)」が大ヒット。業績の回復を機に退任。2014年より現職。
組織の「グチャグチャ」は歴史本で疑似体験
ミクシィ再生を請われて30歳の若さでCEOに就任。在任中にモンスタが大ヒットし、同社は復活。ヒリヒリする経営の修羅場を乗り越えるのに役立った本とは。
気になる言葉は、ググるよりアマゾンで検索
どうしても頭の中で音に出しながら読んでしまうため、本を読むのは決して早くありません。流さずにきちんと読めるのは週に1、2冊程度。読める数に限りがあるので、本当はもっと慎重に選ぶできなのですが、とにかく本は大量に買います。気になるキーワードがあったら、グーグルで検索するよりも先に、アマゾンで検索して本を探すくらいです。
昔から「本は値段を見ないで買う」と決めているので、部屋の中は「積ん読」本の山です。本以外のものを買うときは値段をかなり気にしますが、本は高くでもせいぜい数千円。アマゾンのマーケットプレイスなら10円程度から古本を売っていますから、気になった本は全部ポチって買い、それがストレス発散になっています。
最近はもっぱらキンドルの電子書籍です。本がうずたかく積まれることがないので、QOL(生活の質)は格段に向上しました。キンドルで読むときは、気になったところを全部ハイライトしています。ハイライトしたところは、キンドルのウェブの管理画面でコピペできるから、それをEvernoteに貼り付ければ、メモを取る手間が省けます。
そうやってためておいた内容は、折に触れて見返したり、何かを伝えたいときに引用してほかの人に送ったりしています。同じことを言うのでも、自分の言葉より、「昔の人はこんなことを言っていたらしいよ」と援用するほうが説得力が増すからです。
たとえば、5000社以上を指導したとされる経営コンサルタント、一倉定さんの『一倉定の経営心得』は名言の宝庫で、「企業内に良好な人間関係が維持されているということは、革新が行われていない実証である」など、非常にマッチョな、それでいてドキっとするような本質を突いた言葉がそこかしこに出てきます。
時には雲隠れして、本を片手に自分と向き合う
ミクシィで代表を務めていた際、重大な決断をしなければいけない局面で、とにかく一人きりになって考えようとしたことがあります。たまたま週末に仕事で大阪に行く予定があったので、神戸の須磨海岸まで足を伸ばしました。そこで孫正義さんの評伝『志高く孫正義正伝』を再読したり、ドラッカーの『チェンジ・リーダーの条件』を読み込んで、今の自分が下すべき意思決定の指針になるものは何かを必死に考えたりしたこともあります。
経営者として悩んだ人間関係のさばき方
ITベンチャーの世界でいうと、『社長失格』は最高の読み物です。1990年代、まだVC(ベンチャーキャピタル)も今ほどはいませんでしたし、返済義務があるデットファイナンスと株式の発行を通して資金調達するエクイティファイナンスの違いも十分には理解されていなかったような時代の話です。
一方で、返済義務を伴わないエクイティファイナンスがいいのかというと、そんなことはありません。当時史上最年少で上場したクレイフィッシュの元社長が社長の座を追われてまでに至った顛末をまとめた『追われ者』を読めば、外部の投資家に株式を発行するということがどういうことなのかが理解できます。
たとえば、オーナー創業者が資金調達のために第三者割当増資をした時点で、部分的には「身売り」しているということをわかっておく必要があります。
同じく失敗本の『シリコンバレー・アドベンチャー』は、1990年代、キーボードの代わりにペンで入力するペン・コンピューターというタブレットPCの走りのような製品の開発をめぐる企業物語です。
結論から言うと「早すぎた」わけですが、開発途中でキャッシュが枯渇して、最後はグチャグチャになっていきます。失敗本のほうがそうしたグチャグチャっぷりが赤裸々に語られているので、読んでいて生々しく感じるし、そのグチャグチャを疑似体験しておくことで、自分が当事者になったときの学びになるはずです。
「空気」に流されないために
ウェルチの『ウィニング』が潔いと感じるのは、タイトルが『ウィニング』であることです。私たちはビジネスにおいて成功するため、勝つために会社に集まっています。
友達づくりのために集まっているわけではありません。価値を生み、お客さまのニーズに応えることでおカネをいただくわけですが、それは端的に言えば、勝負に勝つことであり、自分自身に克つことでもあります。
だから、組織が居心地のよさ優先のサークル活動であってはいけません。コミュニティではあっても、せめてインターハイでの優勝を目指しますというくらいの部活程度のマインドセットは最低限持っておく必要があります。そうしたことを、本書は躊躇なく言い切っているのです。
経営者も人間なので、気を許すと、自然にゲマインシャフト(共同体組織)寄りの発想に陥りがちです。目の前にいる従業員とは日々接しているわkですから、「社食がまずい」という声があがってきたら「なんとかしなきゃいけない」と思ってしまう。けれども、株主や投資家とは毎日顔を合わせるわけではありません。そこはしっかり線を引いておかないと、どんどん空気に流されてしまいます。
空気に流されるといういうと、思い出すのは山本七平さんの『「空気」の研究』ですが、今から40年近く前に出た本なのに、ここに出てくるのは完全に現在進行形の話です。なぜ、戦艦大和は事前に「作戦としてのかたちをなさない」とまで指摘された無謀な戦闘に出撃しなければいけなかったのか。連合艦隊司令長官の「当時ああせざるを得なかった」という戦後の述懐は非常に示唆に富んでいます。
最も官僚的で、ゲゼルシャフト(機能体組織)的であるはずの軍隊でさえ「空気」に支配され、ベスト&ブライテストたちが寄ってたかって合成の誤謬を引き起こす。離れて見れば明らかに間違っている方向に、みんなで全力で突っ走ってしまう。同じ問題は、今も多くの企業で起きているのだと思います。
焼け野原では自然とイノベーションが生まれる
必要に迫られて読んだときのほうが迫力もあるし、得られることも多いものです。今は、もっと俯瞰的に見たい時期でもあるので、歴史物のほうが楽しめます。
たとえば、明治維新の話を読むと、「勝てば官軍」という言葉が実感としてよくわかります。とくに、半藤一利さんの『幕末史』がおすすめです。
明治維新というのは不思議な革命です。たとえば、吉田松陰は尊皇攘夷で「夷狄を追い払え」と主張し、彼の教え子たちの活躍もあって倒幕もあって倒幕は成ったけれど、明治新政府が実際にとった政策は、吉田松陰の考えとは真逆の「開国」ですから。
そもそも、当時の幕府は開国政策を進めていたわけで、何のなために争ったのか、正当性の面では疑問の余地が多々あります。正義が勝つわけではなく、勝ったほうが正義になる。これが歴史の真実なのでしょう。
それでも、大義は必要です。吉田松陰がビジョンを打ち出したから、そこにだんだんと人が集まり、大きなうねりとなっていく。そうしう連鎖を生み出すもととなるのは、やはり大義です。旗を掲げる人の資質や能力も大事かもしれませんが、それよりも、大きな絵を描くことそのものに意味がある。
『幕末史』だけではなく、同じ半藤さんの『昭和史1926-1945』『昭和史戦後編(1945-1989)』を読むと、日本人のメンタリティは大して変わらないんじゃないかと思います。起こってほしくない可能性からは目を背けて、想定さえ避けるのが日本人のメンタリティではないでしょうか。
事業が衰退局面にあることは誰もが気づいているのに、口に出すことさえ許されない雰囲気が支配する。これでは時代の変化に対応できません。
歴史の知識があると想像力が働く
今も昔も人間はそれほど変わらないので、歴史の知識があると、こういう出来事が発生したら次はこうなる可能性が高いと、ある程度、想像力が働くようになります。『失敗の本質』は言わずと知れた名著です。
組織の中には、全体の意思決定を無視して走り出す「関東軍」のような人たちもいれば、どう考えても勝ち目のない「インパール作戦」を強行しようと主張する人たちも出てきます。
その結末がどうなったか、知識として知っていれば、「ああ、出た出た」ということで先回りして食いとめることができます。挑戦はできるだけ応援すべきですが、周囲が制止できないまま当事者の意地で進めるインパール作戦であれば、早急にとめないと傷口が深まります。
むき出しの権力闘争から交渉術を学ぶ
「闇社会の守護神」と呼ばれた男、元東京地検特捜部の田中森一さんが書いた『反転』も、バブル期の黒い人脈や派手な生き様に興味がわきます。本人がやっていたことはさておき、強烈な人物が、時代の波に翻弄されながら本気で生きてきた足跡を巡るのは純粋に面白い。
リーダーシップという意味では、マキアヴェリの『君主論』も外せません。人間が集まって何かを決めるときは、必ず政治力学が働くものです。「政治=汚いもの」と思って敬遠すべきではありません。
たとえば、交渉事では圧倒的に優位な立場にあっても、あまりに勝ちすぎてはいけない。ある程度は相手に逃げ道を残すことで、その後の関係がうまくいったりするものです。マキアヴェリの言葉の断片から、そうした気付きを得ることができます。
>>歴史の知識を得て、想像力が働くようになりたい