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「自省録」


「自省録」(中曽根康弘著、新潮社)より


 徳富蘇峰先生との邂逅


 非常に驚いたのは、あのお歳になっても非常に柔軟性のある発想力を持っていらしたことです。「勝海舟の言に『天の勢に従う』というのがある。政治家は救世軍の士官ではないのだから、イデオロギーや既成概念に固執する必要はない。これからの時代は流動するから、大局さえ失わないなら、大いに妥協しなさい。西郷南州くらい妥協の好きな男はいなかった。中曽根さんも見習いなさいよ。毛沢東は、チトーみたいになる。いつまでもソ連に服従している中国民族ではない。必ずチトーみたいにスターリンに対して反逆児になる。中国民族は独自性を回復してくる。中国文化とはそういうものだ」あのころの中国共産党、中共は、マルキシズム全盛の時代、スターリンに跪いていました。徳富先生の観察は、世界を良く知っているし、良く見ている。これに最も感銘しました。

 アメリカについては、「提携して仲良くしなさい」という持論でした。「しかし、アメリカも判断を謝ること、間違えることはよくあります。それはわきまえて、時には忠告したほうがよろしい」。これを、戦後まもなく指摘していたのです。

 アメリカの占領政策自体については、どちらかといえば、冷笑的でせせら笑っていました。要するに、植民地政策を知らないアメリカ人が日本へやってきて、千五百年以上の歴史を持つこの民族を統治して押さえつけようとすることに、片腹痛い思いでいたのでしょう。GHQのやり方を良く見ていらした。「ソ連という強大な共産国家が、やがて出てくる。だから、日本をいつまでもこんなふうにしておくものか。日本を利用するに違いない」。この予測は、その通りになりました。

 国内の政局で印象的な言葉があります。

 1950年に自由党ができたとき、民主党が分裂して小坂善太郎くんらが自由党に走るのですが、そのとき、徳富さんはこういったのです。

「中曽根さん、今の政治は満員列車と同じでね、小坂君みたいに腰を上げると、すぐ人が座っちゃう。だから、こういうときは我慢して座っているんですよ」

 伊豆山での一日、当時の政治家についての人物月旦をお願いしたことがあります。

 緒方竹虎=悪いところがないのが悪いという男。引っ張る力はないが、押せば進む。この点、中野正剛よりあてになる。カネにもきれいで、人物は緒方と松村謙三だろう。大きな太鼓のようで、大きくたたけば大きく鳴り、小さくたたけば小さく鳴るよ。

 重光葵=長い間ロンドンにいたので、霧がかかっていて晴れだか曇りだか分からん。外交文書を書かせておくには最適任。官僚で気が小さいから、あまりいじめなさんな。

 吉田茂=黒白をはっきりさせる男だが、近頃は灰色になって存在を失った。もう歳だね。

 鳩山一郎=父の時代からの自由主義者。温室のお坊ちゃんのほうが皮が厚い。根が善人で人にだまされる。

 三木武吉=大野伴睦が弁護士になったような男。一世の勝負師だ。性は善。大麻唯男と同じで、敵を崩したり、足がらみをやったりするのに没頭する。君はそんなことはやらずに、専門家に任せておきなさい。

 大麻忠男=茶坊主第一等。手をたたけば最初にお茶を持ってくる。ウナギのようにどこかへもぐりこんで、ひょっと頭の上の石垣の穴から顔を出す。喧嘩をとめたり、人のやりくりに適任。カネに近いが、カネにきれいで蓄えない。苦手な相手のところに飛び込んでくるから、中曽根さんあたりも狙われるよ。


>>大局を失わずに大いに妥協する道を目指してみたい



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