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ISもフセインも元々米国が育てた怪物?


「憲法の涙」(井上達夫著、毎日新聞出版)


 以下は掲題書(第4章「愚行の権利・民主主義の冒険」)より。

 (その4)


『 「警米」のすすめ

 警米は親米と両立する。米国の善意を信じすぎて振り回されるのは「隋米」です。隋米で米国の戦争に巻き込まれたリしたら、日本で反米感情がかえって高まってしまうのは、火を見るより明らかです。真の日米親善関係は、隋米でなく、もちろん反米や嫌米でもない。警米の姿勢を保ちつつ、対等なパートナーとして、日本は日本の国益を守る、そういう主体性を米国に対して示していくことだ。そのために日米安保は維持しつつも、個別的自衛権の枠内にとどめるべきだ、それが私の考えです。

 今、世界を騒がせているIS、イスラム国がなぜ生まれたのか、という話。あれをつくった責任はだれにあるのか、と。
 1979年にイラン革命というのがありました。パーレビ王朝の親米政権を倒して、ホメイニが反米原理主義の政府をつくった。1980年、革命の混乱に乗じて、イラクがイランの領土紛争があった地域を先制攻撃して、イラン・イラク戦争が起こる。そのとき、イラクの政権をとっていたのがバース党のフセインです。彼はちょっと前にクーデターで権力奪取したが、まだ権力基盤が弱く、反体勢力も残存していたので、国内の不満をそらし、統制を強めるために、イランに戦争をしかけた。
 このとき米国はどういう態度をとったかというと、イスラム世界の紛争に米国は介入しません、と言った。しかし、実際には裏でフセインのイラクを支援した。米国の支援のおかげでフセインは権力基盤を強化できた。フセインという怪物は米国が育てたんです。
 その後、イラクがクウェートを侵略した。1990年の湾岸戦争です。フセインは、イスラム諸国間の戦争には中立を保つという米国の言葉を信じていたのに、米国はてのひらを返して国連の支援も調達して多国籍軍を率いてイラクを攻撃し、クウェートから手を引かせた。なぜか。ホメイニ革命のイランは反米国家だったけど、クウェートは新米国、しかもクウェート侵略を許すと、米港の中東での最大の牙城であるサウジアラビアがおびやかされるからです。
 21世紀に入り、米国は育ての親である自分の言うことを聞かなくなった怪物、フセインを始末するしかない、と決断した。米国は、大量破壊兵器開発保有という立証されない難くせをつけてイラクに侵攻して、怪物を殺す。その過程で、非戦闘員のイラク国民がひかえめな計算でも10万人死んでいます。
 フセインは倒したものの結局イラクは、フセイン時代の専制に代わる半無政府状態になる。そのとき、地下にもぐっていたバース党の残党が、ISをつくったと言われています。つまり、ISは、米国が「つくった」怪物の変身であり、この怪物が再び暴れ狂うことのできる環境──半無政府状態──も米国がつくった。
 こんな危ない国家、先見の明なく無責任に軍事力を濫用し、国際社会を戦乱に巻き込んでできた国家を信頼しすぎてはいけません。 』


<感想>
 ISもフセインも元々は米国の対イラン戦略から生まれた怪物であり、米国の戦略は常にウォッチし続けねばなるまい。

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サンフランシスコ講和条約以降、沖縄に基地集中


「憲法の涙」(井上達夫著、毎日新聞出版)


 以下は掲題書(第4章「愚行の権利・民主主義の冒険」)より。

 (その3)

 
沖縄の問題

『 沖縄に基地が74%集中している。これは米軍専用基地の比率です。沖縄の基地負担をもう少し軽く見せたい人たちは、「米軍基地」概念を水増しして、米軍と自衛隊との共同利用基地を含めると沖縄は23%だと言う。それでも国土に対する沖縄の面積比はわずか0.6%ですから、土地面積に対する基地面積の比率でくらべると、沖縄の負担は本土の50倍になります。この現状を、地政学的ないし戦略的合理性があると、多くの人は信じているんじゃないでしょうか。
 しかし、これはまったく間違いです。沖縄に米軍基地が集中したのは、戦略的合理性の理由からではなくて、政治的都合からなんですよ。
 占領期には、米軍基地は日本全土にもっと拡散していたんです。ところが、サンフランシスコ講和条約で日本が主権を回復すると、本土のいろんな基地のところで住民の反対運動が起こります。そうすると、米軍としては基地保有の政治コストを軽減したい。ところで沖縄だけは、サンフランシスコ講和条約以降も。米国の施政権下にあった。だから基地を本土から沖縄に移転したんです。沖縄だったら、有無を言わさず押し付けられるから。
 で、沖縄に基地が集中した。戦略的にこれが合理的かというと、逆なんです。集中のリスクですね。74%の米軍専用基地が沖縄にある。もし核ミサイルが沖縄にぶち込まれると、在日米軍にとって戦略的にきわめて重要な自分たちの専用基地の大半が一挙に破壊されちゃうわけですよ。
 集中のリスクとは何か。それは、なぜインターネットが開発されたかを考えればわかるでしょう。インターネットは軍事情報技術として開発され、それが民生用に移転したわけ。
 従来の情報システムは、ハブ・アンド・スポーク・システムといって、中枢から末端の各地に情報を送り、末端の各地からまた中枢に情報を送るというやり方ですね。これだと、中枢をたたかれると、システムが全部崩壊してしまう。それでは非常に脆弱だということで、分散的な情報通信ネットワークをつくった。それがインターネットですね。
 それから考えると、沖縄に一極集中している、在日米軍基地というものが、いかに脆弱性をかかえているか、わかるでしょう。

 かりに、地理的接近性に意味があるというなら、中国やロシアのことも考え、福岡から新潟の日本海沿岸とか、青森、北海道とかにもっと基地がないとおかしい。
 こういうウソが流通しているということは、だれもそれを正そうとしない、要するに、それが本土住民にとって都合がいいからですね。なぜ沖縄がそうなのか、考えない。ただ、臭いものは沖縄にもっていけ、と。政治家も、そういう欺瞞のうえに乗っかっていたほうが、票が安泰だ。本土に基地を移そうなんて言ったら、政治的生命が危ないですよね。

 これだけの基地負担を負わされながら沖縄が得ている補助金は全国で9位にすぎず、沖縄はいまだに最貧県の一つです。
 さらに、経済的利益からいっても、米軍基地は沖縄経済の牽引車ではもはやない。米軍基地に経済的に依存している人が沖縄になお少なからずいることは確かですが、沖縄経済の基地経済への依存率は、復帰直後の15.5%が1996年には5.2%まで著しく低下しました。その後下げ止まりが続いていますが、日本経済全体の低迷による部分も大きいでしょう。最近の景気回復で依存率が4%台になったとも聞きます。いずれにせよ、この低いレベルにとどまり続けていることが重要です。
 もっと重要なのは、基地経済への既存が沖縄のもっとダイナミックな自律的経済発展をはばんでいるという自覚が庶民のあいだにも広まりつつあることです。
 一例を挙げると、私が参加した沖縄での基地見学ツアーのバスガイドさんがこんなことを言ってました。返還されたある米軍基地の跡地に、ショッピングモールなど一大商業地区ができた。基地時代の県民雇用数は150人くらいだったけど、今の商業地区の雇用は1万人を超えた、と。重要なのはこの経済的事実だけでなく、バスガイドさんのような普通の市民がそれを自覚しているということです。
 たしかに、沖縄内部にも、根強い特権層支配、少数の富裕層と多くの貧困層との経済格差、内なる民主主義の弱さ、地元メディアの寡占化と異論排除傾向など、さまざまな悪弊がある。それを指摘することは、沖縄が特権層・利益勢力の支配を掘り崩し、基地依存から脱却した自律的経済発展をさらに強力に推進するのを促すためにも必要です。本土の沖縄差別への批判が、沖縄の内なる差別・抑圧の現実を隠蔽する口実にされてはなりません。
 しかし。本土住民にとって、もっと重要なことは、沖縄内部の悪弊を指弾して、米軍基地という日米安保のコストを沖縄に集中転嫁している現実を合理化する口実にしてはならないということです。沖縄に甘えている本土住民が「沖縄よ、甘えるな」などと説教して自分の甘えを棚上げする権利はない。沖縄の膿は沖縄自身が出すべきです。同様に、本土住民は沖縄の欺瞞をあげつらう前に、自らの欺瞞の膿を出さなければなりません。 』


<感想>
 本土の住民として、サンフランシスコ講和条約以降の米軍基地の沖縄集中への歴史を思い、沖縄自身の経済発展のために何ができるかを考えてみたい。

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集団的自衛権行使に見合う米国の反対給付?


「憲法の涙」(井上達夫著、毎日新聞出版、2016年3月20日発行)


 以下は掲題書(第4章「愚行の権利・民主主義の冒険」)より。

(その2)

 愚かな交渉

『 実際には安倍政権は、集団的自衛権行使について、米国と大人の交渉をしたとは思えないですね。米国主導の集団的自衛権行使に踏み出して、日本が米国の戦争に巻き込まれるという、これまでにない自己犠牲的な献身を米国にしたのに、米国から見返りの反対給付をちゃんと取り付けたのか。取り付けてないですよ。
 尖閣諸島については、日米安保が適用される日本の施政権の範囲内だということを米国はすでに宣言している。しかし、これは1996年、クリントン政権下での声明以来、米国が何度も繰り返してきた反復儀礼(ルーティーン)です。しかも、施政権の範囲内というのは日本の実効支配下にあるということで、日本の主権下にあるということではない。米国は当たり前のことを言い続けてきただけで、中国との領土紛争で日本の肩をもったわけではない。安保の適用対象というのは米軍出動を当然には合意しないという留保も付けられてきた。
 集団的自衛権行使解禁で日本が米国への献身をこれまでより強めるなら、この当たり前の宣言を超えた具体的な米国の軍事的反対給付の約束を見返りに取り付けなければいけない。たとえば中国軍が尖閣に対してさまざまなレベルの軍事行動を起こしたとき、アメリカが対抗的にどのような軍事行動を実際起こしてくれるのか。こういったことについて、明確なコミットメントは、アメリカから取り付けていない。
 中国との戦争のリスクはとりたくない、自衛隊を前面に立てて、自分たちはせいぜい後方支援と称して離れた地点から見守りたいというのが米国の本音ではないか。

 反対給付の見返りの確たる約束を取り付けないまま、自分たちはこれだけリスクある自己犠牲を、自己献身をしてあげますよ、という。これは本当におろかで、ちょっとこの比喩はジェンダーに関わるかもしれないけど、老獪な大人の男に弄ばれていることを知らないで、その大人の男に好かれようと身を任せる純情な少女のように見える。今の安倍政権は。
 自分たちは立派な大人だと思っているかもしれない。おれたちは交渉できる、と言うかもしれないけど、もし政治的な交渉力があるんだったら、そもそも最初から集団的自衛権解禁なんてことをやるはずがないですよ。米国の反対給付の約束を取り付けたうえでやるならわかるけれども、取り付けもせずにやるというのは、そんな交渉力がないということをむしろ露呈しているわけです。



<感想>
 平成26年7月1日の安倍内閣総理大臣記者会見(添付HP※)に、次のような記載がある。
 ※
http://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/statement/2014/0701kaiken.html


『 例えば、海外で突然紛争が発生し、そこから逃げようとする日本人を同盟国であり、能力を有する米国が救助を輸送しているとき、日本近海において攻撃を受けるかもしれない。我が国自身への攻撃ではありません。しかし、それでも日本人の命を守るため、自衛隊が米国の船を守る。それをできるようにするのが今回の閣議決定です。 』

 確かに、日本から米国宛の一方的な宣言にも見える。「交渉」には、政治に限らず、どんな場面でも困難さを伴うが、少なくとも、北朝鮮や中国の暴発時の「米国から反対給付の約束」を取り付けていることを祈念する。

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日米安保はそもそも片務契約ではない?


「憲法の涙」(井上達夫著、毎日新聞出版、2016年3月20日発行)

 昨日、掲題書を読了した。
 以下は掲題書(第4章「愚行の権利・民主主義の冒険」)より。

 (その1)

『 見捨てられ不安

 まず、日米安保が片務条約だという前提が大間違いです。
 日本と米国は、何と何を交換しているか。
 日本が与えているのは、膨大な面積の米軍基地と、ものすごく高度な兵站網。米国にとっての、代替不能な、海外における最大の戦略拠点を日本は米国に提供している。
 
 いっぽう、米国が与えてくれているのは、日本を守ってあげるという保障。しかしその場合、日本を守るという以上に、日本に存在している米国の戦略拠点を守るというほうが、本当は強いわけですよね。
 給付と反対給付、ギブとテイクということでいえば、日本のギブのほうが実際に大きい。
 米軍基地のために払う思いやり予算だって、そうとうな規模ですからね。
 さらに、たとえば、もし北朝鮮が何か変なことをやったとき、いきなり北アメリカ大陸に大陸間弾道弾を飛ばすはずがない。最初に沖縄の米軍基地をたたこうとするはずですよね。そうしないと、米軍にすぐ迎撃ないし反撃されるから。米国に戦略拠点を提供したために、すでにわれわれは米国の敵に攻撃されるという大きなリスクを負っている。
 これは、片務契約どころか、日本のギブのほうがどうしたって大きいでしょう。
 そのうえで、次の問題。
 集団的自衛権行使に踏み切らないと、米国は守ってくれなくなる、日本は見捨てられる、という心配は、実はまったく根拠がない。
 もし、米国が、集団的自衛権行使をやらないと、日米安保を破棄するぞ、と言った場合、それは二つのことを意味する。
 第一に、さっき言った、米国の海外における最大にして代替不能な戦略拠点を自分から放棄することになる。
 第二に、そうなったら、日本は自ら核武装する可能性が強まる、ということです。

 もし米国が安保廃棄を求めてきたら、日本は自衛のために核武装という選択肢を考えざるを得ない。 核武装する技術力は少なくとも潜在的には日本にはあるし、核兵器の原料となるプルトニウムも原子力発電の副産物としてすでに十分蓄積されている。米国に戦略的知性があるなら、安保を廃棄して米国の核の傘の下から日本を追い出したら日本は核武装に突き進むだろうと当然予測するでしょう。
 そうしたら、集団的自衛権行使をやらなければ日米安保を廃棄するぞ、なんて米国が求めてくるはずがない。それは、海外における自らの最大にして代替不能な戦略拠点を放棄し、かつ日本を核武装に追い込んで、戦後せっかく従順な同盟国になってくれたこの「旧敵国」を再び統帥困難な危険な存在にするということです。
 そんな馬鹿なことを米国がするはずはない。そう思うのは、私が米国の善意を信じているからではない。米国は何が自分たちの地政学的権益に資するかぐらいわきまえる程度の、合理的な計算ができる国だと思っているからです。逆に、米国がそんな計算もできない馬鹿な国だとしたら、そんな馬鹿な国に日本が追従するのはもっと馬鹿であり危険だということになります。



<感想>
 著者の「集団的自衛権行使をやらなければ日米安保を廃棄するぞ、なんて米国が求めてくるはずがない」とする2つの根拠。(1)米国の海外における最大の代替不能な戦略拠点を自ら放棄することはない、(2)日本の核武装する可能性が強まる。少なくとも前者の指摘はその通りで、「集団的自衛権行使」の必要性の理由を改めて考え直してみる必要があると思われる。


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