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自己株式ディスカウントTOBのメリット?


【 キヤノンマーケティングジャパン:自己株式取得TOB 】

 


 2024/7/24、キヤノンマーケティングジャパン(「CMJ」)が、「自己株式の取得及び自己株式の公開買付けに関するお知らせ」をリリースした。
https://corporate.canon.jp/-/media/Project/Canon/CanonJP/Corporate/ir/news/2024/pdf/20240724-2.pdf?la=ja-JP

 

 以下は、リリースからの概要(まとめ)。

 


目的:資本効率の向上を図るとともに機動的な資本戦略に備える


< 時系列 >
2023年9月下旬:
大株主が所有する株式を取得するのであれば、流動性を損ねることなく比較的短期間に相当規模の自己株式を取得でき、引き続き資本効率の向上が期待できるという観点から、筆頭株主かつ親会社であるキヤノン(所有株式数:75,708,684株、所有割合:58.38%)から、その所有する株式の一部を取得することを前提とした自己株式の取得の可能性について、キヤノンとの間で初期的なディスカッションを開始

 

2024年4月上旬:当社において自己株式の取得について本格的な検討を開始

 

4月中旬:当社は、キヤノンが所有する20百万株について同時期の株価約4,500円の10%ディスカウントの約4,000円×20百万株=約800億円(TOB決済資金)になるという想定で、TOB決済資金のすべてを当該現金及び預金から充当すると、今後の事業運営に影響が出ることが想定されることから、キヤノンに対する既存の短期貸付金1,300億円(2024/3/31時点)のうち、TOB決済資金として想定されていた800億円の返済を受けることによりTOB決済資金に充てることを打診
→ キヤノンより、売却に応じる意向がある旨の回答を得た

 

5月上旬:以下内容を判断
1.株主間の平等性及び取引の透明性の観点から、公開買付けの手法が最も適切である

 

2.適正な価格として市場価格を基礎とすべきである

 

3.市場価格に一定程度のディスカウントを行った価格により買付けることが望ましい

 

4.キヤノン所有の20百万株(所有割合:15.42%)のすべてが買付けられた場合でも、キヤノンの議決権比率は 50.79%となり、引き続き親会社としてとどまる

 

5.2024年5月上旬に推移する株価約4,400円に対して仮に 10%のディスカウント率を適用した買付価格約4,000 円×20百万株=約800億円になると想定されるところ、2024/3/31における当社連結ベースの現金及び預金は約978億円であり、TOB資金のすべてを当該現金及び預金から充当すると、今後の事業運営に影響が出る

 

6.キヤノンに対する既存の短期貸付金1,300億円(2024/331)のうち、TOB資金800億円の返済を受けた自己資金により買付けることが望ましい

5月下旬:キヤノンより、1)TOBの応募を前向きに検討する旨、2)当社のキヤノンに対する短期貸付金の一部800億円の返済に応じる旨、の回答を得た


< 他の自己株式TOB事例 >
事例:2021/5/10(決議)~2024/4/9(TOB期間終了)の48件

ディスカウント率:1)9%以下が5件、2)10%が最多の35件、3)11%以上が8件


< TOBにおける買付予定数 >
事例 :応募意向の株式数に10%上乗せした買付予定数が26件と最多
→ 本応募意向株式(20百万株、所有割合:15.42%)に対して10%上乗せした 22百万株(所有割合:16.96%)に設定


< 特別委員会 >
開催日:2024/7/11、同月16日及び同月24日
答申書:2024/7/24、TOBの実施は少数株主にとって不利益なものではないと判断する旨の答申書を取得


< TOB概要 >
TOB価格:取締役会開催日2024/7/24の前営業日(2024/7/23)までの過去1ヶ月間の終値の単純平均値4,546円に対して、10%のディスカウント率を適用した4,091円

 

TOB上限株式数:22百万株(所有割合:16.96%)

 

TOB応募契約書:当社は、キヤノンとの間で、2024/7/24付で、その所有する75,708,684株(所有割合:58.38%)の一部20百万株(所有割合:15.42%)を応募する旨のTOB応募契約書を締結

 


ご参考1)キヤノン「当社子会社による自己株式の公開買付け及び当社による応募に関する決定のお知らせ」
https://global.canon/ja/ir/release/2024/mj2024jul24j.pdf

当社が以下の通り本公開買付けに応募する旨の公開買付応募契約をCMJと締結したことをお知らせいたします。

 

<本公開買付への応募の概要>
応募予定株式数 普通株式 20百万株
買付価額 1株につき4,091円

 


ご参考2)受取配当等の益金不算入の改正
https://www.koyano-cpa.gr.jp/archives/knowledge/13104

 


<感想>
本件は、CMJの自己株式TOBに、親会社のキヤノンが応じる事例。
1)キヤノン:連結子会社の維持&受取配当等の益金不算入、2)CMJ:10%ディスカウント価格での自己株式取得&資本効率の向上、のメリットが双方にあり、今後、他社においても同様の取組が想定される。

 

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元証券マンが「あれっ」と思ったこと
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ディスカウントTOBで三方よし?

 

【 ハウス食品:ディスカウントTOB 】

 


 2024/5/16、ハウス食品グループ本社が、「自己株式の取得及び自己株式の公開買付けに関するお知らせ」をリリースした。
https://housefoods-group.com/newsrelease/pdf/240516_osirase.pdf

 

 以下は、時系列での主な概要。

 


【 買付け等の目的 】

 

1.2023年4月上旬〜:第八次中期経営計画(2025年3月期-2027年3月期)(「第八次中期計画」)の具体的な検討を開始

 

株主還元策の基本方針:
・総還元性向 40%以上を目標とし、中間配当・期末配当あわせて46円/株以上を安定して継続配当する

 


2.2024年2月初旬:当社グループが保有するいわゆる政策保有株式の一部売却を原資とした自己株式の取得(総額150億円)を行う方針を決定


→ 総還元性向の目標を達成する

 


3.2024 年2月中旬:当社の主要株主である筆頭株主のハウス興産株式会社(「*ハウス興産」。所有株式数 10,711,116株(11.05%))より、現金化を目的として約60億円に相当する株式(「売却意向株式」)を売却する意向がある旨の連絡を受けた

 

*ハウス興産:当社代表取締役社長・浦上博史氏の配偶者が代表取締役を務め、浦上博史氏が議決権の82.25%及び浦上博史氏の母であり当社の第7位の株主である浦上節子氏が議決権の17.75%を所有する、株式・不動産等の投資運用を事業の内容とする会社

 


4.2024 年2月下旬:当社は、ハウス興産の所有の一部の売却(60億円)を自己株式として取得することについて、以下を勘案して、具体的な検討を開始

(1) 一時的にまとまった数量*の株式が市場に放出された場合の当社普通株式の流動性及び市場価格に影響を与える可能性があること
*売却意向株式数:2024/1/31の終値3,253円で換算すると1,844,451株(1.89%)

 

(2) 財務状況等

 


< 判断1 >
当社が売却意向株式を自己株式として取得する

(1) 当社の1株当たり当期純利益(EPS)及び自己資本利益率(ROE)等の資本効率の向上に寄与

 

(2) 株主の皆様に対する利益還元に繋がるものであり、2024年2月初旬時点で方向性が固まっていた第八次中期計画における自己株式の取得によって株主還元を行う方針とも合致

 

(3) 自己株式の取得に要する資金についてはその全額を自己資金により充当

・2023/12/31年12月31日の手元流動性(現金及び預金)は約671億円(手元流動性比率2.7月)

→自己株式の取得資金として約60億円を充当した後も、当社の手元流動性は611億円程度(手元流動性比率2.4月)と見込まれ、当社の財務状況や配当政策に大きな影響は与えない

 


< 自己株式の具体的な取得方法 >
以下を勘案して、一定のディスカウントを行った価格で買付ける

(1) 株主間の平等性
(2) 取引の透明性
(3) 市場価格
(4) 当社資産の社外流出の抑制に繋がる
(5) ハウス興産以外の株主の皆様にも一定の検討期間を提供した上で市場価格の動向を踏まえて応募する機会を付与することが望ましいこと

 


< 判断2 >
5.2024年3月上旬:公開買付け(「TOB」)の手法が適切である

 

本TOBにおける買付け等の価格の決定:
(1) 当社普通株式が金融商品取引所に上場されていること

 

(2) 上場会社の行う自己株式の取得が市場の需給関係に基づいて形成される株価水準に即した機動的な買付けができること

 

(3) 金融商品取引所を通じた市場買付けによって行われることが多いこと

 

→本TOB価格の基礎:明確性及び客観性を重視し、当社普通株式の市場価格

 


< 判断3 >
当社普通株式の市場価格に一定のディスカウントを行った価格で買付けることが望ましいと判断
→本TOBに応募せず当社普通株式を引き続き所有する株主の利益を尊重する観点から、資産の社外流出を可能な限り抑える

 


< 判断4 >
2024年3月中旬:本TOB価格について検討を進め、以下を考慮して、当社普通株式の市場価格に対するディスカウント率を10%とすることが適切である

 

(1) 本TOBと同様に特定の株主からの取得が予定されたディスカウント価格による自己株式のTOBの事例:2022/1/1〜2024/2/29の東証における自己株式のTOB事例42件中

 

1)基礎となる株価に対するディスカウント率を10%程度(9%から11%)とした事例が31件と最多

 

2)東証におけるTOBの実施にかかる決議の全営業日
(ア)終値
(イ)同日までの過去1ヶ月間の終値の単純平均値
(ウ)同日までの過去3ヶ月間の終値の単純平均値
のいずれかを基準として算出している事例が36 件と最多
→ 上記ア・イ・ウのうち、最も低い価格を基準とすることが妥当であると判断

 

3)当社普通株式の株価のボラティリティ

 


6.2024/4/30:ハウス興産から、上記内容で本TOBに応募することに合意する旨の回答あり

 


7.2024/5/16:取締役会決議
(1) TOB価格:2024/5/15の東証終値 2,960円に対して10%のディスカウントを行った2,664円
(過去1ヶ月間の単純平均値3,071円に対して 13.25%ディスカウント、過去3ヶ月間の単純平均値3,096円に対して13.95%ディスカウント、過去6ヶ月間の単純平均値3,151 円に対して15.46%ディスカウントした金額)

 

(2) 買付予定数:2,477,420株(2.55%)
1)本事例 42 件のうち、特定の株主が応募を予定する株式数に対して10%程度(9%から11%)上乗せした株式数を買付予定数に設定している事例が25件と最多

 

2)ハウス興産以外の株主の皆様にも応募の機会を提供するという観点

→ハウス興産が応募を合意した株式2,252,200株(売却意向金額60億円÷本TOB価格2,664円×1.1=2,477,420株(2.55%))

 


< 当社連結ベースの手元流動性(現金及び預金)>
約808億円(手元流動性比率3.2月):自己株式の取得資金として約60億円を充当後の手元流動性は748億円程度(手元流動性比率3.0月)

→当社の財務状況や配当政策に大きな影響は与えない

 


< 当社代表取締役社長である浦上博史氏 >
ハウス興産の議決権の 82.25%を所有する株主であり取締役を兼務
→ 本TOBに関して特別な利害関係を有する

 

(1) 当社とハウス興産との事前の協議:ハウス興産の立場からのみ参加

 

(2) 当社の立場からは参加しておらず、本TOBに関する当社取締役会の審議及び決議には参加していない

 


< 取得株式の消却 >
本TOBにより取得する自己株式については、本TOB終了後速やかに、その全部を消却する予定

 


< 自己株式の取得に関する取締役会決議内容 >
株券等の種類:普通株式
総 数:2,477,600株(上限)
取得価額の総額:6,600,326,400円(上限)
買付期間:2024/5/17〜2024/6/13(20営業日)
(発行済株式の総数100,750,620株に対する取得する株式の割合:2.55%)

 


ご参考)ハウス食GがTOB、創業家が株一部売却
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC167SG0W4A510C2000000/

 


<感想>
本件は、売り手を創業家の資産管理会社とするディスカウントTOB。1)会社側は市場価格より低価で自己株式が取得でき、2)創業家側はみなし配当の益金不算入が利用でき、3)投資家側にもメリットがあり、三方に良い手法と言えよう。

 

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