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「プライベートバンカー カネ守りと新富裕層」


「プライベートバンカー カネ守りと新富裕層」(清武英利著、講談社)より
2016年7月12日 第1刷発行


 一億ドルという大金を果たして集められるのか――という不安はもちろん杉山にもある。
 だが、彼は野村證券で十二年以上揉まれ、徹底的に鍛え上げられてきた。たいていのことは耐えられる。その後、三井住友銀行で二年二ヵ月、さらに東京に視点を置くフランス系の信託銀行に転じて二年十ヵ月間働いてきた。それらを合わせると、日本の金融界の空気を十七年間も吸い、自分の顧客を増やしてきたのだ。


  ジョブズの言葉

 顧客を取られたり、理不尽な目にあったり、迷ったりした時、彼はアップル創業者であるスティーブ・ジョブズの言葉を思い浮かべることにしていた。

 If today were the last day of my life, would I want to do what I am about to do today?
(もし今日が人生最後の日だとしたら、今やろうとしていることは本当に自分のやりたいことだろうか?)
――いや、これは俺のやりたいことやない。十分に我慢して得るものは得たよ。


 そもそも、一人で五百人や一千人も富裕層を管理できるわけではない。一人でメンテ8彼らは富裕層の資金管理、運用をそう呼んでいた)ができるのは、せいぜい二十五人ほどの資産家で、無理して頑張っても五十人が限度である。

 日本人富裕層が増え続けていたことを考えると、まだまだ潜在的な需要が見込めたのだ。スイスの金融大手クレディ・スイスの調査によると、2015年の日本には、資産総額百万ドル(約1億2千万円)超の富裕層が212万人もいた。今や、米国(1565万人)、英国(236万人)に次ぐ世界三位の金持ち国である。


  あとがき

 主人公である杉山智一氏は日本人バンカーやアシスタントの多くは、怜悧で狡猾というプライベートバンカー像を覆して、人間味と向上心にあふれた人々である。一億ドルものノルマを背負って南十字星の国に渡り、異国での競争と矛盾に揉まれ、もがきながら日々を送っていた。

 主人公である杉山智一は実名である。漫画『巨人の星』に登場する星一徹に似た父親の影響を受けた、典型的な日本人だ。


>>日本の富裕層のニーズに対応するビジネスはまだまだ開拓の余地がある

「世界のプライベートバンキング[入門]」



「世界のプライベートバンキング[入門]」(米田隆著、ファーストプレス)より


  第4章 日本にプライベート・バンキングは根付くのか 

  本格的に始まった外資系金融機関の日本攻略


 日本の金融機関がプライベート・バンキングを提供するにあたって、モデルとすべき金融機関はどのようなものだろうか。流れは二つある。
 一つは、UBSに代表されるような、コーポレート・ファイナンスとプライベート・バンキングを一体として行う形式。もう一つは、ピクテのように、運用のみを中心にじっくり行っていく形式である。
 一般的に言えば、前者のほうが資産規模が膨らみやすく、成長性という意味では優れている。オーナー系企業への融資取引を通じた優越的地位の濫用にならないような配慮は必要になるが、有機的にコーポレート・ファイナンスと連携を結ぶことで、企業経営者と長期的な関係を持つことが可能になるだろう。
 プライベート・バンキングで遅れを取っている地方銀行について言えば、事業承継がキーワードになるのではないだろうか。具体的には、中小企業のMBOファイン度を組成し、次世代への事業承継を円滑化する手助けをするべきだと考えられる。同族会社で相続が発生した場合に、いったん銀行が安定株主としてその株式を預かり、世代交代後に株式を返すという流れである。


  日本の金融機関に求められる三つの資源
 
 日本の金融機関がプライベート・バンキングを提供するために必要なのは次の三つである。

 ①リレーショナルシップ・マネジャーのコミュニケーション能力を高める
 ②ハードウァエを揃える
 ③非金融サービスを提供する

 ただし、③の非金融サービスについては、内製化しようとせずにアウトソーシングして、業者を選ぶゲート・キーパーに徹する方向に進む必要がある。


  専門家から信頼されるアドバイザーへ

 専門家は、自分の領域内に顧客の課題を押し込めて自らにとって説明しやすいように処理しようとする。自分の眼鏡にかなうように、出っ張った顧客の現実を削り落としてコントロールしようとするのだ。しかし、その出っ張ったところにこそ、課題解決の大きなヒントがあり、悩みの根が潜んでいることがある。
 信頼されるアドバイザーであれば、顧客や顧客の周辺の人々と共に、協同で課題を解決しようとする、より協調的なアプローチを行うはずだ。信頼されるアドバイザーにとって、分析はあくまでもツールに過ぎない。彼らは、それを踏まえて顧客がどのような課題を抱えていて、どのように話を進めていくべきかという、経験を踏まえた洞察を提供することができる。顧客に対して、より総合的なアプローチを行うのだ。
 

  プライベート・バンキングの醍醐味

 「人間力」に関する研究を行っている慶應義塾大学の花田光世教授の言葉を借りるならば、人間力は五つの要素で構成されているという。
 まず、どんな困難な状況、境遇にあっても自己を動機づけ、自らを高め、チャンスを作り、力を発揮することである。それが「達成動機」である。
 次に、相手の立場に立った理解ができ、それに対して自分の意見を述べ、関係性を構築でき、課題解決できることが重要である。これがEQ(Emotional Quotient)である。
 そして、異なる状況にフレキシブルに対応でき、多様な考えを受け入れ、自己を変革することもやぶさかではないという姿勢が重要である。これがオープンマインドであること。オープンマインドさがなければ、チーム運営ができなくなる。
 さらに、自分の価値観をしっかり持ち、自分自身の考える「正しいこと」を追求でき、自分の価値観の修正・ストレッチもできなければならない。これがインテグリティである。
 最後に、人間的な幅を持ち、自己効力感(セルフ・エフィカシ)があるだけでなく相手の自己有能感、自己効力感を高め、相手が価値ある存在であるという認識を持てるようにし、信頼を得ることが必要となる。これが、ソーシャルキャピタルである。
 こうした人間力を構成する諸要素は、リレーショナルシップ・マネジャーに求められる能力と一致するものである。花田教授は「人間力は育成可能」と指摘する。リレーショナルシップ・マネジャーの素質も、個々の場で工夫することで育てることができるものだ。日本のプライベート・バンキングの成長力に期待したい。


>>コーポレート・ファイナンスとプライベート・バンキングを一体として行う信頼されるアドバイザーを目指したい



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