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「自白の研究」



自白の研究


 先日、NHKの『勇敢なる者「えん罪弁護士」』を見て、今村核弁護士に興味を持った。

番組HP(http://www4.nhk.or.jp/P4012/x/2016-11-28/21/33589/2225445/)より


「無罪」獲得「14件」。その実績に他の弁護士は「異常な数字」「ありえない」と舌を巻く。“えん罪弁護士”の異名を持つ今村核(いまむら・かく)は、有罪率99.9%と言われる日本の刑事裁判で20年以上も闘ってきた。過去に取り組んだ放火事件や痴漢事件では、通常裁判の何倍もの労力をかけて科学的事実を立証し、矛盾や盲点、新事実の発見からえん罪被害者を救った。自身の苦悩を乗り越え、苦難の道を歩み続ける男に迫る。 


 今村弁護士が自著「冤罪と裁判」(講談社現代新書)」(http://tsuruichi.blog.fc2.com/blog-category-339.html)の中で引用していた本を読んでみた。


自白の研究 取調べる者と取調べられる者の心的構図」(浜田寿美男著、三一書房、1992年5月15日 第1版第1刷発行)より



『 第八章 否認力動を低減させる要因

 第二節 やっていない犯行を認めることの非現実

  1 予想されるべき刑罰の非現実感

 こうした現実の取調べの場に身をおいて考えれば「予想される刑罰」という概念がいかに空虚なものかが分かるであろう。Aの頭の中にあるのは、たったいま自分がさらされている「死の恐怖の取調べ」であり、「死ぬよりも辛いことでしたこの脅迫や拷問の取調べ」であって、それ以外のものではないのである。

 同時に、私たちはここで先の主張の二つ目の錯覚に気づく。それは「予想される刑罰」と言うときの「予想」に関わる問題である。同じく「自白によって予想される結果」と言っても、実際に犯行を犯した犯人が予想するところと、無実の人間が予想するところとは当然異なってくる。強盗殺人で三人も四人も人を殺したということになれば、誰が予想しようと、いまの日本では死刑だろうという、その予想自体については大差ないかもしれない。しかし、その「予想される死刑」についての現実感はまったく異なる。実際の犯人ならば、まさに自分の行った犯行から予想されるものであるがゆえに、その「死刑」には実体的な感覚が伴う。これだけのことをしたんだから自分の犯行だとばれれば死刑だろうと実感的に予想せざるをえない。しかし無実の人間ならばどうであろうか。無実の人にとっては逮捕・拘留されて取調べられているということ自体が、非現実的なこととしか受けとめられない。第三者的な観念のレベルでは、自分に容疑をかける何らかの事情があって逮捕・拘留され、取調べられているのだと理解しているだろうし、またここで自白して自分の犯行だと言って、裁判でもそう認定されれば「死刑」だろうということも認識できるであろう。しかしそこに真犯人のような現実感が湧いてくるだろうか。無実の被疑者の視点に身を寄せて考えてみれば、「予想される刑罰」はただ単に論理的・観念的なレベルのことであって、実感的に身に迫ってこないことがわかるはずである。 』


 やっていないことを自白する結果としての「予想される刑罰」が非現実的であるという。冤罪で刑罰に処せられた人の大半が罪のない自白であろうと思われるが、冤罪を救う今村弁護士のような方が増えることを心より祈念する。


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「冤罪と裁判」



「冤罪と裁判」(今村核著、講談社現代新書)より
2012年5月24日第1刷発行


 第1章 虚偽自白


  なぜ自分に不利な嘘をつくか


 人は、どんな場合に嘘をつくだろうか。

 自分が嘘をついたときのことを思い出してみると、都合の悪いときや、見栄を張りたかったときなどに、つい、自分に有利な嘘をついており、後で思い出して寒くなることがある。

 では、あえて自分に不利な嘘をついたことはあるだろうか・・・・・・。

 虚偽自白は、自分に不利な嘘をつき、しかもその嘘をもっともらしく見せるため、ほとんど必死に努力するという、一見すると異常なふるまいだ。しかしそれは、ある異常な状況に追い込まれたときの、人間のほとんど必然的な反応なのだ。

 取調べに対して、無実の人が「私がやりました」と虚偽の自白をし、それが自白調書にまとめられることがある。日本ではこれが誤起訴、誤判原因としてもっとも多いかもしれない。


  現実感のなさ

 もし虚偽の自白をすれば死刑や無期懲役になる、ということは、抑止力にならないのだろうか。

『自白の研究』によれば、真犯人であれば「死刑」というのは生々しい現実感をもって迫ってくるのに対し、無実の被疑者には現実感がない。しかもそれは遠い将来のことと感じられる。裁判で本当のことしゃべればわかってくれると思う。それに対して、取調べに耐えるつらさは、まさに今の、現実の苦しみなのだ。そうすると、虚偽自白をして楽になる方向にぐんと天秤が傾くというのだ。

 なるほど、私も冤罪に陥った無実の人々を弁護してきて共通に感じるのは、彼らの「現実感のなさ」である。「どうして自分が今こうして捉えられてここにいるのか、わからない。狐にでもつままれたようだ」というポカンとした感じがどこかにある。


  インボー方式

 アメリカでは、フレッド・E・インボーという捜査心理学者が考えた取調べ技法が行われている。そこでは、捜査官は「被情緒的な被疑者」に対しては「絶対にお前が犯人だとという確実な証拠があがっている」と嘘をつくことが推奨される。他方で「情緒的な被疑者」に対しては、あの女にも悪いところがある、お前が殺したのも仕方がなかった、誰だってそうするさ、と、相手を非難してなだめることや、より悪質ではない動機を示唆することが推奨される。

 そうした取調べの中で、被疑者の価値基準は混乱させられ、「自白をするのが自分にとってのベストの選択だ」と思わされたり、「記憶がないだけで、本当は自分がやったのかもしれない」と自分を疑ったりするようになる。


 第9章 冤罪・誤判防止のために、裁判員制度はどう変わるべきか

  捜査過程を明らかにするための9つの提案


 以下にあらためて、私が必要だと思う点を9点あげる。

(1)捜査全過程の記録化

(2)被疑者取調べの全過程の録音、録画化

(3)参考人取調べの全過程の録音、記録化

(4)物証の採取、保管過程の記録化

(5)再鑑定の保障のための、捜査側鑑定における全量消費の禁止

(6)被疑者、被告人に有利になりうる物証の収集・保全の義務化

(7)警察からの全証拠の検察への送付義務の明文化

(8)検察官による全証拠の目録一覧表の作成、交付義務

(9)検察官による証拠の全面開示義務


  謝辞

 本書は、亡き父に捧げます。

  2012年4月 今村核


>>生前は確執のあった大企業の副社長だった父親に捧げる本書、冤罪を救おうとする著者の強い心意気が感じられる


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