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「チルドレン」



「チルドレン」(伊坂幸太郎著、講談社文庫)より


「でもさ、非行の原因が親のせいとも思えないけどな」志朗君は言った。「俺の周りには、暇つぶしで犯罪に手を出す奴もいるし。そういう奴のほうが多いんじゃない?」ポテトに手を伸ばした。口に入れてくちゃくちゃとやった。「で、武藤さんのような調査官をころっと騙してみせる、したたかにね」

 それは事実だ。遊び半分で非行に走り、家裁に来た途端に、「親が悪い。親の愛がない」と言い出す子も中にはいた。ただ、正直なところ、僕はそういう子供たちについては楽観視している。そもそも彼らは一人きりでいる時は問題がなくとも、集団になると歪むのだ。陣内さんは、「子供のことを英語でチャイルドと言うけれど、複数になるとチャイルズじゃなくて、チルドレンだろ。別物になるんだよ」とよく言った。そういう性質なのだ、と。

 そういったタイプの少年たちは、勝手に歳を重ね、集団が成立しなくなると、いずれ暇つぶしの非行から離れていく。だから僕も、彼らのことはあまり心配していない。

 けれどその一方で、そういう軽薄さとは別の理由から、生きるのに苦労している子供たちがいるのも事実だった。そういう深刻さは簡単には見分けられなくて、だから僕たちは、少年たち全員の味方をするほかない。

「僕たちはお見通しなんだよ。したたかな少年に騙されるんじゃない。騙されてあげてるんだ」

「負け惜しみだね」志朗君が茶化す。

 実際、それは負け惜しみだったが、「拳銃を持った牧師が騙されるわけないだろ」と言ってやった。


>>家裁調査官の陣内の融通無碍なアプローチは今だに健在だろうか



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