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内閣は改革幻想とポピュリズムを利用?


「デモクラシーの毒」(藤井聡・適菜収、新潮社)


 
以下は掲題書からの抜粋(その5)

  第八章 改革詐欺と思考停止社会

適菜
  自民党は改憲を党是として掲げてきたわけです。でも、それをやる気力も能力もない。だからごまかし続けてきたわけじゃないですか。九六条をいじろうとしたり、法制局長官のクビをすげかえたり、友達を集めて懇談会をつくり閣議決定をやった。アメリカで演説し「夏までに必ず成立」と勝手に約束してきた。やり方が全部おかしいんです。これを批判しない「保守系」新聞や論壇誌は許し難いですね。

藤井  イギリスの憲法は慣習法です。成文法もいくつかありますが、それも習慣を含めたものです。習慣とは広義の解釈であり、その連続性が保証されていなければ、イギリスの憲法は空っぽになってしまう。だから、憲法にとって安定性は肝。日本ではどういうわけか「解釈」を軽く見るきらいがあって解釈をバカにしている。でもハイデガーの解釈学的循環が実存の動態そのものだという議論からも演繹されるとおり、解釈は人間の生命、社会、伝統の根幹にある問題。その連続性を破壊してしまうと大変なことになる。

適菜  そこが完全にぶっ壊れていて、「これまでだって政府は憲法を解釈してきたじゃないか。今回はなぜダメなんだ」みたいなことを言うやつもいる。

藤井  解釈には、どう生きていくべきか、という決意が含まれている。解釈により責任も発生します。その解釈をつなぎ合わせていくのが「筋」です。

適菜  要するに、自民党が戦後積み上げてきたもの、解釈の流れを安倍は断ち切ってしまった。これで改憲も難しくなった。

藤井  解釈を適当に変えればいいというのは、ウソをついてもいいと言っているに等しい。


  
改革というまやかし

藤井
  あくまでも一般論ですが、改革はポピュリズムに繋がり得る。閉塞感を突破してほしいという大衆に向けて改革を叫ぶ、ということはあり得る。

適菜  わかりやすい敵も設定できる。守旧派とか、抵抗勢力とか。そう考えると、この20年ぐらいの構図はほとんど同じです。小沢一郎や小泉純一郎の政治手法が典型ですね。

藤井  「改革なくして成長なし」と言ってましたが、結局成長しなかったどころか、衰退したし格差も広がったんだから、あれは「詐欺」だったと言う他ない。「人気」を得るために改革を叫ぶ政治家を支持し、結果、改革という名の破壊が進められ、最終的に大損する──という詐欺に、この20年日本国民はだまされ続けている。でもそろそも、詐欺がばれてもいい頃じゃないかと思うんですが。

適菜  でも、安倍政治の根幹にあるのは、改革幻想とポピュリズムですからね。

藤井  これもまた一般論で言うなら、少なくとも国会の中には改革をしないと日本はだめになると本気で思っている勢力がいる。だから一個一個の現場に対して改革をすべきかとうかを考えるのではなく、十把一絡げに改革を進めてしまう。それは抽象的な善を訴えるのと同じで、是々非々の思考を止めてしまう。

適菜  改革に対するオプティミズムが、日本人の身体に染み付いてしまっている。

藤井  戦後は古いもの、戦前のものを捨てるのが善だという発想が蔓延った。もっと遡れば、近代は古いものを捨て、新しいものを採用するのが善だという発想ですよね。情けない。

【憲法】
第九章 改正 
第九十六条   この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。


<感想>
 安倍内閣が改革幻想とポピュリズムを利用して古いものを捨て新しいものを採用し続けようとしているのであれば、大いに気を付けなければなるまい。

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憲法十三条に基づく個別的自衛権?


「デモクラシーの毒」(藤井聡・適菜収、新潮社)

 以下は掲題書からの抜粋(その4)

  第八章 改革詐欺と思考停止社会

 安保法制における思考停止

適菜
  今回の安保関連法案に、中国や韓国、朝日新聞、毎日新聞、民主党、共産党は反対している。
 一方、イギリスやドイツ、オーストラリアをはじめ多くの国は賛成している。世界はこんなに賛成しているんだ。安倍さんのやっていることは間違っていないと。
 でも、日本の集団的自衛権の行使により、益を得る国が賛成するのは当たり前ですよね。それが日本の国益になるかどうかは別。この手の思考停止もかなり多い。
 私は改憲派ですし、集団的自衛権自体を否定しているわけでもない。自衛隊は国軍にして軍備は強化すべきだと思っています。でも、正当な手続きなしに、違憲の法案を通していいかはまったく別の話。これを破れば、法秩序の連続性が切断されることになる。これは左翼全体主義の手口で一種のクーデターですよ。

藤井  一般論で言うなら、思考停止している人々は、感情、気分、ムードで動いています。それは水ものですから変化していく。だから彼らには筋を通すなんて不可能。ムードの裏側にある筋なんて見えるはずがない。

適菜  民主党政権のときに法令解釈担当大臣みたいなのを置いて、内閣法制局長官の答弁を禁止したんです。小沢一郎も菅直人も憲法について相当デタラメなことを言っていた。それで私は論壇誌で批判したんです。今回は、それとまったく同じロジックで、安倍の手法を批判しているのですが、民主党政権のときは「よく言った」と喜んでいたような連中が、民主党よりもっとデタラメなことをやっている安倍に声援を送っているわけですね。ネットでも、安倍を擁護するためのテンプレートみたいなものがあって、それをひたすら貼ってくるわけです。


 「解釈」の連続性を壊すな

適菜
  今はネットレベルの思考停止が、全国紙や論壇誌、評論家の中でも進んでいる。先日、読売新聞の世論調査の項目を見て絶句しましたよ。「安全保障関連法案は、日本の平和と安全を確保し、国際社会への貢献を強化するために、自衛隊の活動を拡大するものです。こうした法律の整備に、賛成ですか、反対ですか」だって。単なる誘導尋問でしょう。

 時の政府の解釈で何でも通せるということになれば、また民主党が政権を取ったらどうなるのかという話です。悪しき前例をつくることになりますよ。万が一、「個別的自衛権も認めない」という政権ができたら自衛隊をなくすんですか?そういう勝手なことをさせないための憲法なのに、頭の中がとっ散らかってるんですね。「保守系」と呼ばれるメディアがこの惨状なのだからどうしようもないんです。

藤井  憲法十三条が優越するので、九条があっても個別的自衛権が発生するというロジックさえ共有されていないですからね。その共有認識がないのに、集団的自衛権の説明をするのも難しい。

適菜  集団的自衛権は同盟国である他国の戦争をお手伝いする権利ですね。だから、歴代の内閣、法制局長官、防衛省(庁)も違憲という立場だった。

藤井  自分を護る権利の延長に他社を護ることが含まれる場合があるとしたら、集団的自衛権は広義の個別的自衛権とも言える。ただし、どこまでが個別的自衛権の範囲なのかの線引きは難しい。

適菜  反対派も賛成派も議論が変。反対派は「憲法九条が」とか「徴兵制になっちゃう」とか左翼の思考停止を引き継いでいるのが多いし、賛成派は安全保障担当の総理補佐官である礒崎陽輔が本音を漏らしたように「法的安定性は関係ない」と。こうした中、粛々とロクでもない方向に政権が向かっている。非常に危ない状況です。

藤井  もちろん政府は合憲だと主張しているわけですから、理性ある者なら誰もが納得できる説明が求められている。

【憲法】
第二章 戦争の放棄 
第九条   日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
○2   前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

第三章 国民の権利及び義務
第十条~第十二条 省略
第十三条   すべて国民は、個人として尊重される。
生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。


<感想>
 憲法九条があっても十三条が優越するので個別的自衛権が発生するという認識を持った上で、改めて集団的自衛権について考えてみる必要があるかもしれない。

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首相は理想を語るべきでない?


「デモクラシーの毒」(藤井聡・適菜収、新潮社)


 以下は掲題書からの抜粋(その3)

  
第四章 保守と近代

 安易に理想を語るな


適菜  そういう保守の感性が指導者には必要です。
 安倍が憲法について変なことを言っていたのですが、「憲法についての考え方の一つとして、国家権力を縛るものだという考え方がありますが、しかし、それはかつて王権が絶対権力を持っていた時代の主流的考え方であって、今まさに憲法というのは日本という国の形、そして理想と未来を語るものではないかと、このように思います」と。
 頭が痛くなりましたね。王権が絶対権力を持っていた時代に立憲主義が存在するわけはないし、「理想と未来を語る」って、極左のジャコバン派の憲法観じゃないですか。ベンチャー企業の社長ではあるまいし、国のトップは安易に理想なんて語るべきではないんですよ。オークショットは、保守的政治家は統治される人間を夢に押し付けるのではなく、むしろ夢の実現に向けて情熱的になっているところに節度を保つという要素を投入することだと言っている。
 国のトップが率先して、理想と改革を唱え、日本の国柄自体を変えてしまうようなことをやっている今のような状況は、大衆社会の末期的症状と判断せざるを得ません。

藤井  きちんとした保守的な政策は刺戟がないので、大衆的な人気が出ない。だから、大衆社会は保守的な政治家が生まれにくい土壌であることは間違いない。

 人間の生物としての性向上、保守的な傾向がないと、生命を維持できない。そもそも毎日、すみかや食習慣をバンバン変えるような生物は、その変化への対応に莫大なエネルギーを割かないといけなくなってしまい、結果的に衰弱し、最後には死滅する。一方で、単に「守旧」という態度なら、気候や政治的状況が変化したときに、臨機応変に対応できず、滅びる。つまり、何もかも昔のものを大事にするというのは愚かです。そして保守はそんな愚かな選択をしない。

適菜  復古主義も革新主義も根本は理想主義です。過去にユートピアを見出すか、未来に見出すかの違いだけで。特に革新主義は宗教です。現状を変えればよくなるという信仰ですね。根本にあるのは、キリスト教、ヘーゲル、マルクス的な進歩史観。それが近代の発想につながってくる。合理的に思考を積み重ねれば、結果的に正しい未来がやってくるという信仰は、日本の「保守」にも根付いています。

藤井  「偽装保守」という問題で言えば、そこが一番深刻な問題です。彼らがなぜ偽装するかと言えば、結局は偽装により精神的、物理的、金銭的満足が得られるから。特に政治家が「偽装保守」だとまずい。個人的な金儲けやええ格好しいのために国が潰れるなんて最悪です。


<感想>
 本来、夢の実現に向けて情熱的になっている国民を保守的政治家が抑えるというのが理想であろうが、バブル崩壊後25年間デフレが続く日本ではそれを望むべくもない。首相自身で理想と改革を唱えるのが大衆社会の末期的症状との指摘が正しいとしたら、それを阻止せねばなるまい。

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民意が反映されるのは立法府だけ?


「デモクラシーの毒」 (藤井聡・適菜収、新潮社)

 以下は掲題書からの抜粋(その2)

  
第三章 「大衆社会」に抗う

 ゾンビと「大衆」

適菜
  改革派官僚、脱藩官僚みたいな滑稽な人たちが暴走することにより、ますます官僚の弊害が大きくなるという話が『大衆社会の処方箋』の中にありますね。
 よく、官僚組織は開かれていないと批判されますが、開かれていないことが官僚制の優れた点でしょう。国民の声が簡単に官僚に届いたら、逆に問題ですよ。わが国は議会制であり、民意が反映されるのは三権のうち立法府だけです。また、司法、行政には民主主義に対する防波堤の役割がある。
 もっとも、裁判員制度や参院廃止論、政治主導という名の行政府支配により、国の根幹が攻撃されているのがここ20年の傾向ですが。

 藤井さんがおっしゃっていたNHK『ピタゴラスイッチ』に登場するピタゴラ装置の話と同じで、最初の時点で玉が見当違いのところに転がっていくと、あとのシステムは全部関係なくなってしまう。「日本」という主語が抜けているから、政府が率先して売国に励むようになる。

【三権分立】(出所:
http://consti.web.fc2.com/14shou1.html

 わが国、日本の憲法は統治のしくみとして三権分立を採用しました。
 三権分立とは、国家権力を立法権(法律の制定を担当)、行政権(行政を担当)、司法権(裁判を担当)の3つに分けて分離し、お互いに抑制と均衡を図る制度のことです(チェックアンドバランス)。
 立法権は国会に、行政権は内閣に、司法権は裁判所に割り振っています。
 こうして権力が一極集中して暴走してしまうことを防ぎ、人々の人権を保障するための制度なのです。

<感想>
 民意が直接反映されるのは三権のうち立法府だけ、司法・行政には民主主義に対する防波堤の役割があると言われて、「なるほどそうだなぁ」と改めて思う。

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閣議で憲法を拡大解釈?


「デモクラシーの毒」(藤井聡・適菜収、新潮社)
2015年10月15日発行


 以下は掲題書からの抜粋(その1)


  第三章 「大衆社会」に抗う

適菜  特に五人ひどい政治家を挙げるなら、小沢一郎、その手法を踏襲した小泉純一郎、そして菅直人、橋下徹、安倍晋三だと思います。もちろん、プチ小沢、プチ小泉みたいな奴は大勢いますけどね。

 一時期《戦後民主主義》という言葉がよく使われましたが、その一番病んでいる部分がこの五人の政治家に表れている。菅直人と安倍晋三は言っていることも政治観もそれほど変わらない。自分は選挙で国民の審判を受けたのであり、だから憲法の解釈も仲間内で変更できると。こうして議会を形骸化させていく。民主主義と全体主義はきわめて似通ったイデオロギーですが、これらは議会主義の敵なのですね。

 一番の問題は、政策がどうこう以前に、法治国家としてありえないことが白昼堂々と行われていることです。議会と法を平然と踏みにじっている。改憲が難しいから96条をいじると言い出し、それも難しいから憲法の解釈を変更すると。

 閣議で拡大解釈できるなら、党是の改憲も必要なくなる。私は、自衛隊は軍隊にすべきだと思っていますが、政府がその場に応じて解釈できるなら憲法の意味がない。大事なことは「正当な手続き」です。首相の私的諮問機関にすぎない安保法制懇の意見を優先するなら、議会の軽視も甚だしい。これは国の根幹を揺るがす革命思想そのものでしょう。左翼の連中は、集団的自衛権がどうこうと表層的な部分しか見ていないけど、安倍のやっていることはもっと危険なことです。 

 かつて民主党時代の小沢一郎は、内閣に法令解釈担当大臣を置き、政府主導で憲法を恣意的に解釈しようとした。民主党がやれば大騒ぎし、安倍が同じことをやれば拍手喝采する。結局、内容ではなくてバカを騙すための「見せ方」なんです。


<感想>
 
 閣議で憲法を拡大解釈することは、確かに、議会と法を平然と踏みにじる、法治国家としてはありえないことと言えよう。

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