「安心・平等・社会の育み フィンランドの子育てと保育」
「安心・平等・社会の育み フィンランドの子育てと保育」(藤井ニエメラみどり・高橋睦子著、明石書房)より
2007年7月10日初版第1刷発行
はじめに フィンランドに学ぶ安心と平等
そもそも人口約527万人の国・フィンランドが世界的に注目を浴びるようにあなったきっかけは、OECD(経済協力開発機構)の2003年の生徒の学習到達度調査(PISA)で、日本の学力が世界のトップから転落した、と報道されたのとは対照的に、フィンランドが読解力と科学的リテラシーで1位、総合成績でも1位という結果が、世界を駆けめぐったことによります。あわてた文部科学大臣は競争を強化することを表明、いわゆる「ゆとり教育」を改め、学習指導要領の見直しに至った経緯は記憶に新しいことと思います。
フィンランドから何を学ぶのか――私は秩序ある社会を支えるための「安心」と「平等」ということばに集約されると思います。この2つのことばは、この本のなかにくり返し登場します。この国の人々がきょうまでたいせつにしてきた「共同(コラボレーション)」と「普遍主義(ユニバーサリズム)」の飽くなき追求の賜物であるこの2つの概念は、これからの時代の保育・教育に求められる座標軸であると感じています。
2007年6月 (社)全国私立保育連盟・保育国際交流運営委員会 フィンランド保育体験研修団長 菱川広昭
4 子育て支援と家族の変容
子どもの視点からの福祉社会の模索
高橋睦子・吉備国際大学
6 変わる家族と子ども
未婚・事実婚家族の市民権の獲得
家族統計において、事実婚カップルの存在が家族のカテゴリーとして明指揮されるようになったのは、1990年以降のことである。それ以前には、家族統計上は既婚カップルだけが家族とみなされていた。 現在では、子どもの出生をめぐって婚外子かどうかが道徳的に問われることはほとんどない。婚外子は第1子の半数以上、第2子の約3分の1、第3子の約4分の1を占めるようになった。第1子誕生後に婚姻届を出し結婚式を挙げるカップルも少なくない。子どもが婚外子として生まれても、父親の認知によって既存カップルの子どもと同等の法的地位が保障される。
結婚は、1950年代から60年代にかけては社会の慣習として自明の制度とみなされていたが、90年代では個人の選択の結果として結婚を選んだ者自身にとって自明とされる。今や結婚は、社会慣習の踏襲というよりも、むしろ個人が意図的に選択したこととして位置づけられている。インタビューに答えた若者たちの大半は、自らは未婚のカップル関係にありながらも一生未婚のままでいようとは考えていない。
7 子どもの権利を中心とした社会の見直し
福祉国家の建設期から今日のフィンランド社会は、産業構造から家族のあり方に至るまで、変化の大きなうねりを経験している。おとなの視点からの政策としての子育て支援の展開を経て、さらに、フィンランドの福祉社会の近未来は、子どもの権利を中心にしたおとな社会の見直しを通じて模索されるであろう。
>>個人の選択の結果としての事実婚等を広く認めて、婚外子かどうかが道徳的に問われることのない日が日本にも来るのだろうか