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「艦長たちの太平洋戦争」


「艦長たちの太平洋戦争」(佐藤和正著、光人社NF文庫)より



 孫子の兵法<戦艦「大和」艦長・松田千秋少将の証言>


「それから、もっと大事な問題として国家間の戦争が、総力戦、つまり国力戦によって決定されることが、第一次世界大戦で実証されていたことだね。戦争の勝敗は、昔のように陸海軍の武力間の戦闘--いわゆる武力戦だけでは片づかないということなんだ。

 さらに経済戦、敵国の経済力、とくに軍需生産力の破壊が必要であり、反対に、わが国の生産力の増強保全が必要なんだ。また、思想戦。敵国民の戦意を破砕し、わが国民の戦意を高揚すること。さらには外交戦。つまり、わが国に対する友好国、協力国を獲得拡充すること。そして、敵側友好国や同盟国を離反させ、敵を孤立化させる外交化させる外交戦も大事です。そしてまた、兵力となる国民の動員力の問題など、これらの総合によって戦争の勝敗が決定されるというわけなんだ。

 ところが、実際はどうか。いずれは、強大なソ連の参戦を予期しなければならない太平洋戦争が、日・独・伊の三国同盟の効果を過信して、二大強国である米英を同時に敵として開戦したことは、総力戦の要素のいずれから見ても日本に勝算のないことは、総力戦研究の結果をみなくても明白なんだよ。

 ただ、海軍作戦だけは、軍令部伝統の作戦計画を実施するかぎり、一時的には米艦隊を撃破することは可能であったと考えられるけど、日露戦争の場合のように、これによって講話の端緒を求めるということは、とうてい望めなかったですね。なぜかというと、かつての日本海海戦での大戦果は、当時の友好大国であったアメリカの仲裁を可能にしたけれど、今次の対米英、そしてソ連を敵にまわす戦争では、仲裁に出る友好大国はなかったからだね。したがって、太平洋戦争はとうぜんのことながら、長期の総力戦と国力戦となることを覚悟しなければならなかったわけだ。

 それからもう一つ、戦争が大義名分に基づく正義の戦さでなければ、勝利を得がたいということです。これは多くの史実が証明しているところだね。たとえば日露戦争が、露軍の南進を阻止して日本の存立を確保するため、やむにやまれず立ち上がった正義の戦争だったからこそ、全国民は奮起したし、列国の同情を得て勝利に結びつけることができたんだ。ところが、太平洋戦争は、日本の中国侵略を阻止するために米英がとった対日輸出制限に対抗して、日本が武力行使したものであって、大義名分は、むしろ米英側にあるわけだ。

 しかもこのような成算なき戦争を回避する方策はあったんだよ。きわめて簡単なことなんだ。つまり、成算と名分の立たない中国侵略から、手を引くことだったんだ。しかし、当時の軍当局や為政者が、断固この措置に出なかったのは、かえすがえすも遺憾にたえませんね--」
 

>>経済戦、思想戦、外交戦、総力戦、大義名分に基づく正義、これらを欠けては勝利を得がたい


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