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「家族規範優先型」から「子ども優先型」へ②



「人口急減と自治体消滅」(時事通信社・編)より


「家族規範優先型」から「子ども優先型」へ
詩人・社会学者 水無田気流



  「女性のライフスタイル多様化」の中身

 話題になることの多い「女性の社会進出」は、実質的に中高年既婚女性の非正規雇用者の増加によって押し上げられている。全女性被雇用者に占める非正規雇用割合は6割で、年齢階層は40代半ばをすぎると7割となる。国税庁の「民間給与実態調査」を参照すると、年間を通じて給与所得がある者でも、7割が年収300万円以下の階層となる。

 第1子出産後の妻の就業状態は、1980年代後半から昨今まで2割強とそれほど変化がない。要するに、日本の家族関連政策は、女性の出産前後の就業継続については、ほぼ無策のまま30年経過してしまったことになる。

 
  日本の女性は経済的・時間的に貧困

 日本の家族規範の強固さは、①既婚女性の家事時間の長さ、②育児世代の女性の低収入、③シングルマザーの貧困率の3点にも表れている。これらは、日本の女性たちの経済的・時間的余裕のなさに直結している。


 子どもの貧困問題に詳しい阿部彩は、厚生労働省報道資料を用いて、ひとり親世帯の貧困率の国際比較を示している。これによると、何と日本の現役世代のひとり親世帯の貧困率は30ヵ国中最下位の58.7%。相対的貧困率でみれば、日本より深刻なはずのアメリカよりも10%以上も高い。ひとり親世帯の圧倒的多数が母子世帯であることを考えると、この問題は家族規範を外れた女性の受ける有形無形の生きづらさを反映していると言える。


  未来のために制度改革を
 
 日本社会の家族規範は根強く、女性の自由は乏しい。最大の乏しさは、「女性の子どもを産む自由」の乏しさではないか。「超」少子化は、その端的な結果である。


 少子化対策は、今なお家族規範優先型の前提に立っている。だが、もはやそれではこの「超」少子化の進行と社会の硬直化、制度疲労の問題は解消することができない。

 筆者は「子ども優先型」への制度改革を訴えたい。それは、両親の婚姻関係や所得などにより、子どもたちが被るさまざまな不平等を是正し、どのような環境にあっても幸福な大人へと成長する権利を保障するものであるべきだ。

 そして、既存の規範を超えた諸制度の改革を求めたい。何よりも、将来世代の平等と、未来のために。


>>「女性の子どもを産む自由」を認めた「子ども優先型」への制度改革に賛成だ

「家族規範優先型」から「子ども優先型」へ①



「人口急減と自治体消滅」(時事通信社・編)より


「家族規範優先型」から「子ども優先型」へ
詩人・社会学者 水無田気流



  根強い日本の家族規範


 先進諸国の戦後における家族の「三大変化」は、「晩婚化・非婚化」「離婚率の上昇」「婚外子出生率の上昇」といわれている。だが現在の日本では、前二者は顕著な傾向を見せるが、後者の婚外子出生率は上昇していない。

 日本の婚外子出生率は先進国では極めて低水準で、いわゆる「未婚の母」から生まれてくる子ども(婚外子または非嫡出子)の割合は、2%台前半にとどまっている。

 スウェーデンのサムボ(同棲、事実婚)法やフランスのPACS(連帯市民協約)のように、婚姻制度ではないがそれに準ずる権利が保障されている国では、「婚外子」といっても両親が生活を共にしている割合が高い。これらの国々の基本理念は、「子ども優先型」という点に集約できる。法律婚カップルの子どももそれ以外もすべて平等に扱うべしとの考えから、法律婚によらないカップルの持続的関係を保障する意図で制度設計がなされているのだ。

 一方、法律婚の家族規範が強い日本の「婚外子」は、ほとんど「未婚の母」の子を意味する。

 日本の婚外子研究に先鞭をつけた善積京子は、婚外子出生が極度に少ない理由として、次の二つを指摘している。第一に、「非婚で子どもを産むことは不道徳である」とみなす強固な嫡出制の社会規範のため。第二に、女性が一人で子どもを育てる社会福祉資源が不足しているため。

 善積のこの指摘から20年を経て、今なお日本で「超」低水準で推移している婚外子出生率は、「自由」を喧伝されながら実は根強く残る家族規範の表れといえよう。それは、両親そろった法律婚夫婦からしか子どもは産まれてくるべきではないという、強固な文化規範の反映である。

 そして、あえていえば、日本の家族政策は、家族の理想像が先立つ「家族規範優先型」社会を前提としてつくられてきた。この規範には、男性の稼ぎ手と専業主婦の女性による性別分業が内包される。「配偶者控除」など、妻に対する優遇策は、その典型例である。


  家族関連政策の矛盾

 家族社会学者の落合恵美子は、セインズベリーの理論を分析し、次のように論じた。1970年代から2000年代までにヨーロッパを中心になされた制度改革は「『妻として』の派生的受給権から、就労やケア(育児・介護)という広義の経済活動による社会への貢献や普遍的市民権に基づいた直接的個人的受給権へという、大きな流れの中にある」。制度改革の眼目は、「①育児・介護期間の評価、②非正規雇用者の包摂と低い年金額の是正、③離婚時などの年金分割、④事実婚など多様な家族形態への対応、⑤基礎年金などの普遍的最低保障、⑥性中立的な制度設計、⑦女性の就労率を高める労働政策」の7点である、と。

 いずれも個人を社会に包摂する上で必要な論点だが、なぜ日本ではこのような改革が導入されてこなかったのか。


>>少子化に繋がっている日本の「家族規範優先型」社会からの脱却は必要だと思う

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