「タモリ論」
「タモリ論」(樋口毅宏著、新潮社)より
2013年7月20日発行
はじめに
「むかし、いいともにオザケンが出たとき、タモリがこう言ったの。『俺、長年歌番組やってるけど、いいと思う歌詞は小沢くんだけなんだよね。あれ凄いよね、“左へカーブを曲がると、光る海が見えてくる。僕は思う、この瞬間は続くと、いつもあでも”って。俺、人生をあそこまで肯定できないもん』って。あのタモリが言ったんだよ。四半世紀、お昼の生放送の司会を務めて気が狂わない人間が! まともな人ならとっくにノイローゼになっているよ。タモリが狂わないのは、自分にも他人にも何ひとつ期待していないから。そんな絶望大王に、『自分にはあそこまで人生を肯定できない』って言わしめたアーティストが他にいる? マイルスに憧れてトランペッターを目指すも、先輩から『おまえのラッパは笑っている』と言われて断念して、オフコースが大嫌いで、サザンやミスチルや、時には海外の大物アーティストが目の前で歌い終えても、お仕事お仕事って顔をしているあの男が、そこまで絶賛したアーティストが他にいて? いるんなら教えてちょうだい。さあさあ」
第一章 僕のタモリブレイク
2008年8月7日、人生で最大の恩人である漫画家・赤塚不二夫の告別式で読みあげた弔辞を振り返ってみましょう。
弔辞。
赤塚先生は、本当に優しい方です。シャイな方です。
麻雀をするときも、相手のふりこみで上がると、相手が機嫌を悪くするのをおそれて、ツモでしか上がりませんでした。あなたが麻雀で勝ったところを見たことがありません。
その裏には強烈な反骨精神もありました。
あたなたは全ての人を快く受け入れました。そのために騙されたことも数々あります。金銭的にも大きな打撃を受けたこともあります。しかしあなたから後悔の言葉や相手を恨む言葉を聞いたことがありません。
あなたはギャグによって物事を無化していったのです。
あなたの考えは全ての出来事存在を、あるがままに前向きに肯定し受け入れることです。それによって人間は、重苦しい陰の世界から開放され、軽やかになり、また時間は前後関係を絶ち放たれて、そのときその場が異様に明るく感じられます。
この考えをあなたは見事に一言で言い表してます。
すなわち、「これでいいのだ」と。
赤塚先生、本当にお世話になりました。
ありがとうございました。
私も、あなたの数多くの作品のひとつです。
合掌。
平成20年8月7日。森田一義。
時は1999年6月22日。赤塚不二夫に食道がんが見つかった翌年のことです。『赤塚不二夫対談集 これでいいのだ。』(メディアファクトリー文庫。当時の担当者は『だ・ヴィンチ』創刊編集長であり、後に作家になる長薗安浩氏)から引いてみましょう。
タモリ 酒と煙草はやめた方がいいんじゃないの。
赤塚 これでイイんですよ。これでいいのだ! 彼と俺とはね、ただ、あるときに出会ったってことだけで、それを自分で大事にしておけばいいだけなんだよ。俺が面倒みたとか、みられたとかっていうことは一切関係ないんですよ。だから、そっちはそっちで勝手に生きてりゃいいし、こっちはこっちで勝手にしにゃあいいわけだよ。だけど、死んだときは来てくれよな。
タモリ あんたのとこの葬式もメチャクチャだろうからなぁ。・・・・・・楽しませてもらうよ。
>>赤塚不二夫のような人生を過ごせたら楽しいに違いない