「証言記録 兵士たちの戦争」
「証言記録 兵士たちの戦争」(NHK「戦争証言」プロジェクト、NHK出版)
おわりに
長い沈黙を破って証言していただいた方の一人が、「死ぬまでに話してよかった。肩の荷がおりた思いがする」という趣旨のことをおっしゃっていたのを記憶しています。人生の最晩年を迎え自分の体験を語り残したいと考え始めた人たちの存在。それが、彼らの言葉を記録として残そうと私たちが考えた最初の大きな理由です。
次に私たちが気づいたのは、軍隊組織の末端を担わされた元兵士の方々の証言でも、日本軍という組織が抱えていた構造的な問題や、作戦指導の特徴を浮き彫りにすることが出来るということでした。本書を最初から読みすすめていただいた方はお気づきだと思いますが、時期も戦況も異なる別々の戦場で、同じような問題が繰り返し現れていることがわかります。補給を軽視したために起こる飢餓状態、夜陰に紛れて行われる「斬り込み」で次々と失われる兵士たちの人命。その多くは、日本軍に特徴的な短期決戦志向が大きな原因となって生み出された犠牲です。最初の一撃で勝敗を決しようとするため、兵士には食料や弾薬は最小限しか与えられません。そして、もしそれが失敗した場合の代案を持ち合わせないため、捨て身の攻撃をするしかない状態に追い込まれるのです。
2009年1月 NHK「戦争証言」プロジェクト 専任ディレクター 太田宏一
>>補給を含めた戦略、戦術をしっかり立案しておくことがとても重要だ。