「21世紀の資本」
「21世紀の資本」(トマ・ピケティ著、みすず書房)より
資本主義の第一基本法則―― a = r×β
これで資本主義の第一基本法則を提示できる。これは資本ストックを、資本からの所得フローと結びつけるものだ。資本/所得比率βは、国民所得の中で資本からの所得の割合(aで表す)と単純な関係を持っており、以下の式で表される。
a = r×β
ここでrは資本収益率だ。
たとえば、β=600%でr=5%なら、a=r×β=30%となる。
言い換えると、国富が国民所得6年分で、資本収益率が年5%なら、国民所得における資本のシェアは30%ということだ。
a = r×βという式は純粋な会計上の恒等式だ。定義により、歴史上のあらゆる時点のあらゆる社会に当てはまる。トートロジーめいてはいるが、それでもこれは資本主義の第一基本法則だと言える。というのも、これは資本主義システムを分析するための三つの最重要概念の間にある、単純で明確な関係を表現したものだからだ。その三つの最重要概念とは、資本/所得比率、所得の中の資本シェア、資本収益率だ。
資本収益率は、多くの経済理論で中心的な概念となる。特にマルクス主義の分析は利潤率がだんだん低下すると強調する――この歴史的な予想はまったくまちがっていたが、おもしろい直観がここには含まれている。資本収益率という概念は他の多くの理論でも中心的な役割を果たす。いずれにしても、資本収益率は、1年にわたる資本からの収益を、その法的な形態(利潤、賃料、配当、利子、ロイヤルティ、キャピタル・ゲイン等々)によらず、その投資された資本の価値に対する比率として表すものだ。だから「利潤率」よりも広い概念だし、「利子率」よりはるかに広い。この両方を包含する概念だ。
当然ながら、収益率は投資の種類によって大きく変ってくる。企業によっては年率10%以上の収益率を叩き出すし、損失(マイナスの収益率)を出す企業もある。株式の平均長期収益率は、多くの国だと7-8%だ。不動産や債券投資は3-4%くらいの収益率が多く、公債の実質収益率はときにずっと低い。a = r×βという式を見てもこういう細かい話はまったくわからないが、この三つの量をどう関係づけるかがわかるので、議論の枠組みを設定するには便利だ。
たとえば2010年頃の富裕国だと、資本所得(利潤、金利、配当、賃料等等)はおおむね国民所得の30%くらいをうろうろしていた。資本/所得比率が600%くらいの水準なので、資本収益率は5%くらいということになる。
具体的には、これは富裕国の現在の1人当たり国民所得である年3万ユーロというのは、労働所得2万1000ユーロ(70%)と資本所得9000ユーロ(30%)で構成されるということだ。各市民は平均で資本18万ユーロを持つので、資本からの9000ユーロの所得は、平均年間収益率5%に相当する。
ここでも、話は平均でしかない。一部の個人は資本から年額90004ユーロよりはるかにたくさん得ているし、一部は何も受け取らず、地主に家賃を払って債権者には金利を支払っている。また、国ごとにもかなりの差がある。さらに、資本所得のシェアを計測するのはしばしば、概念的にも実際問題としてもむずかしいことが多い。というのも、所得の一部のカテゴリー(たとえば非賃金自営所得や起業所得など)は、資本所得と労働所得とに仕分けするのがむずかしい。おかげで、比較が不適切になる場合もある。こうした問題がある場合、不完全性の最も少ない、資本所得が総所得に占める比率の計測手法は、資本/所得比率に対して、もっともらしい平均収益率を適用することだったりする。この段階では、先に挙げた規模感(β=600%、a=30%、r=5%)が典型的な値と考えていいだろう。
>>資本収益率(r)>経済成長率(g)により、持てる人と持たざる人の格差が進んでいる