「なぜローカル経済から日本は甦るのか」②
「なぜローカル経済から日本は甦るのか GとLの経済成長戦略」(冨山和彦著、PHP研究所)より
エピローグ――双発なる会話
安倍政権が誕生してから半年余が経過した2013年の夏ごろ、旧知の経済官僚N氏と私の間でこんな会話が交わされた。
私「アベノミクスで第三の矢の成長戦略メニューって、おおむね正しいんだけど、何かピンとこないんだよね。
これ、要は大手製造業やIT企業などのグローバル成長を意識したメニューなんだけど、日本経済でこうした産業が占める割合って、もはやせいぜい3割程度。雇用にいたっては2割くらいなんだ。
残り7割の経済圏、すなわち地域密着型のサービス産業の世界では、じつは数年前から深刻な人手不足が始まっているんだ。
要は生産労働人口が先行的に減っているから、こういうことが起きる。もちろん製造業やITのように、世界中どこでも生産活動が行えるならこんなことは起きないけど、お客さんとの対面が前提の労働集約的なサービス産業って、需要のある場所で活動せざるを得ない。ベトナムでバスを走らせても岩手県の住民は乗れないから」
N氏「ということは、グローバルな経済圏で活動する産業、企業、人材に関わる話とローカルに密着せざるを得ない経済圏の問題は、かなり様相が異なるということですね」
私「たしかにそう整理するとわかりやすいね!」
N氏「とにかく今まで議論されてきた経済政策論争、たとえば『新自由主義vs.社会民主主義』とか、『マネタリストvs.ケインジアン』みたいな枠では収まりきらない、とても大きな転換期に、日本経済が入りつつあることは確かなようですね」
この会話の経済官僚とは、経財相審議官(2014年5月現在)の西山圭太氏である。彼と私は産業再生機構当時からの長くて深い付き合いで、本書の論考の基盤となるG(グローバル経済圏)の世界とL(ローカル経済圏)の世界とを、ひとまず区分して観察し、それぞれの問題状況を考えてみるという思考体系は、西山氏と私との間での知的双発から生まれた。
そして両者に共通の課題を一つ挙げるとすれば、産業や企業の新陳代謝ということになるが、それをGの世界では自由競争の促進でややラディカルに、Lの世界では上手な政府介入も絡ませて穏やかな退出促進で行うべきではないかという議論をしている。
おそらくここで政治的・政策的にハードルが高いのは、特にLの世界で「代謝」「退出」の問題に正面から取り組むことだ。普通、どうしても万人受けする「新陳」のほう、すなわち起業支援、ベンチャー支援のほうに議論が傾くが、Lの世界の今後の勝負どころは代謝のほうである。
>>確かに、7割を占めるLの代謝が課題であるように思う