「アホの壁」
「アホの壁」(筒井康隆著、新潮新書)より
この章の表題はまず、なぜこんなアホな本を書いたかというので、おれ自身が問われねばならぬ設問であろう。『バカの壁』がベストセラーになったので二匹目の泥鰌を狙ったのであろうといわれれば、そうだとしか言いようがなく、「二匹目の泥鰌を狙うアホ」という項目を立てて自らを槍玉にあげ、贖罪するしかない。
しかし言いわけをさせていただくならば、二匹目の泥鰌必ずしもアホな計画ではない。俗に「泥鰌は二匹目までいる」とか「三匹目までいる」とか言われてもいる。映画のリメイク、または続編という企画が成功した例はたくさんある。あの名作「マルタの鷹」などは、先行する作品があったにかかわらず、ジョン・ヒューストン監督の出世作となった。本来主演はジョージ・ラフトの筈だったが、リメイク版には出演しないと言うので急遽ハンフリー・ボガードにお鉢がまわってきた。結果はボガードの出世作になった。自分の主演映画に脇役として出ていたボガードに功績を奪われたジョージ・ラフト、さぞ切歯扼腕したことであったろう。他にもリメイクや続編が先行する作品を越えた例は、映画界ではたくさんある。
>>戦後の日本の復興も二匹目の泥鰌だったのだろうか