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「限界集落株式会社」


「限界集落株式会社」(星野伸一著、小学館)より



「じゃあお前がここで新鮮な野菜を作る。それをおれが売る。うまく売って稼ぐ方法を考えてやる。こういうのはどうだ。その代わり、お前は最高の野菜を作んなきゃいけないぞ」

 ショウゴが優を振り向いた。

「おれ、それやって欲しい。おじさん、克己じいちゃんの家族だろ。おれ、知ってる、じいちゃん。うちのじいちゃんと同じ位うまいトマト作ってた。おじさんちだって、元々百姓なんだ。だけどおじさん、都会に出稼ぎに行ってたんだよな。ばあちゃんが言ってた。それで、いろいろ儲けることとか勉強して田舎に戻って来たんだろ。じゃあ売ってくれよ。村が作る野菜と米。一杯売ってくれたらまた一杯作って、村がどんどん大きくなって、きっと都会みたいになるよ」


「村が大きくなって欲しいのか」

「そりゃそうだよ。おれの生まれた村だもん。おじさんだって、ご先祖がいる村だろ。だから戻って来たんだろ」

「・・・・・・まあな」

 やってやるか。少年の無邪気な笑顔を見て、優は思った。



「農業は今まで多岐川さんが関わった事業とは多分、まるで違うから」

「その通りだ。でも一番大きな違いは、直接携わっているということだよ。経営者を気取っていた銀行員時代は、実は単なる金貸しに過ぎなかったんだ。だが今は違う。自ら経営責任を負っている。営農組織の代表だ。営農組織の代表は、農家をリストラするためにいるんじゃない。復興させるために采配を振るんだ。そのために、意識改革をしなけりゃいけなかったのに、おれはずっとそれを怠ってきた。暫くの間は、銀行員の多岐川優のままだった。このことに気付いたのは、今年の夏ごろからだ。お前が諦めず、しつこくおれに意見してくれたおかげだよ」



「だが、いつまで経っても損益分岐点が現れない。赤字垂れ流しの状態に陥ったしまうことだって十分考えられるんだ。この場合は儲かるどころか、続ければ続けるほど損をする。世間から批判されている国や地方自治体の箱物行政は、だいたいそんな状況だ」

「でも、それでも中止しないケースがほとんどじゃないの」

「そりゃ責任逃れのために、もう少し待てばいずれ儲かると、根拠もなく言い張る連中がいるからさ。そういうやつらは、土地の時価上昇を期待しているんだな。損益分岐点というのはフローの話だが、土地というのはキャピタルの話だ。フローとキャピタルは別の経済原理で動いている。だから事業そのものが儲かってなくても、箱物が建っている土地の時価が上がるなんてこともまま起きたりする」


「そういう連中が沢山いたから、二十年前バブルが起きて、そして崩壊したんだよ。それからの日本は、まさにがたがたの状態だ」



 止村は元気だ。

 山奥の寒村などとは、もう誰にも呼ばせない。

 限界集落という汚名も、いずれ近いうちに返上できるに違いない。



>>将来、優のようなビジネスにトライしてみたい


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